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セブ島の表と裏と、その間。Vol.1

 先日、僕はセブ島に1週間、旅に出ていました。

 そこで感じたことを、
・お金
・優しさ
・幸せ
・信じること
 この4点を中心に、お伝えしたいと思います。

 フィリピンのタクシーは、日本と比べるとめちゃくちゃ安い。初乗り運賃が40ペソです。(約110円)
 なので、観光客の移動手段は、基本的にはタクシーを使うことが多いかと思います。

 僕は、タクシーに乗り込み、行き先を告げます。すると、運転手が「ジャパニーズ?」と聞いてきました。

 顔は濃いけど、ジャパニーズだと答えると、運転手はニヤリとします。

 そのままタクシーは、車を出しました。

 僕は、ガイドブックで、タクシーのボッタクリについて学んでいたので、すぐにこれが、ボッタクリだと気づきました。

 メーターを押していないのです。
 メーターを押さずに目的地まで送り、通常の何十倍という金額を請求するそうです。

 僕はすぐに、メーターを押してくれ! と言って、なんとかボッタクられずに済みました。
 お金を持っていないわけではない、タクシーの運転手は、少しでもお金を貰おうと、客である僕を騙そうとしたのです。
 フィリピンこわい〜、と嘆きました。
 ここでは、人を信じてはいけないのだと、疑いバリアを張らざるを得ません。

 夜になり、僕は、友人とお酒を飲むために、セブシティの眠らない場所、「マンゴー」に行きました。
 0時を過ぎた頃だったでしょうか。

 クラブやバーがたくさんあり、音楽好きやお酒好きの人々が、夜な夜なここに集まります。

 バーの近くを歩いていると、小綺麗なメイクをした笑顔の女性、2人組に手を振られます。
 いわゆる「逆ナン」です。

 日本では、モテない僕ですが、フィリピンではモテるのかと、少し浮かれ気分になりました。
 今夜は、楽しい夜になりそうだ!

 心の中でガッツポーズをしつつ、なんとなく僕は、女性の喉元に目をやりました。
 するとそこには、僕よりも立派な喉仏が出ているではありませんか。隣の女性も然りです。
 レディーボーイさんでした。

 僕たちは、その喉元の仏様に手を合わせて、その場から退散しました。
 ナムナム……

 バーまでの道のりは長いです。
 またしても、女性2人組に声を掛けられます。
 彼女たちは英語で、「お兄さんたち、遊ぼうよ!」と言ってきます。

 僕はすぐに喉元を確認しました。
 だけど、今度は細い女の子らしい首をしています。

 女の子らしいというか、もう、女の子です。
 女性ではなく、少女です。
 正確な年齢は分かりませんが、10歳〜15歳といったところでしょう。

 How old are you?(おいくつですか)
 ではなく、
 How young are you?(どれだけ若いのですか)
 と聞きました。

 すると、18歳と20歳と答えます。
 童顔だとしても、さすがに無理があります。

 無視して、バーに行こうとすると、「1500ペソだよ」と言ってきます。
 自分の体を少女は、1500ペソで売っているのです。
(1500ペソ=約4000円)

 同じような形で、バーに行くまでに、10組ほどに手招きをされました。

 僕は、たまらなく悲しい気持ちになりました。
 お酒も音楽もほどほどに、フィリピンの裏の部分を見て、気持ちが沈みました。

 ビールを2本(日本人だけに)飲み、バーを後にします。

 タクシーまでの道のり、またもたくさんのレディーボーイや少女に声を掛けられました。
 僕たちは、聴覚を絞り、スマホの画面を見つめ気を紛らわせながら、タクシーへと真っ直ぐに歩を進めます。
 すると、1人の女性が声を掛けてきました。

 無視をしようと思ったのですが、なんとなく先ほどまでとは違った印象を受けたので、僕は思わず立ち止まりました。
 彼女は、見たところ、レディーボーイでもなく、少女でもありません。

 どうしたのでしょう?

「バッグを後ろにしていると、盗まれるよ」
 と、英語で忠告してきました。

 え? 僕はショルダーバッグを、背中側にして持っていたのです。

「フィリピンじゃ、そんなバッグの持ち方をしていたら、盗まれるよ」

 あ、そうなのか。わざわざありがとう。

「ちなみに、スマホも高価なものだから、盗まれるよ」

 僕は手に持っていたスマホをすぐにポケットにしまいました。

 ありがとう。
 聞くと、この女性も、自分の体を売っているのだと言います。
 数千円のために、自分の体を毎晩のように、見ず知らずの男性に差し出すのです。

 そんな女性が、なんで、僕に注意をしてくれたのだろう?
 僕に、自分の体を買ってもらうために、優しくしたのだろうか? と疑いました。
 疑うのが、この街では当たり前になっていたからです。

 ここで、友人は僕に悪魔のささやきをします。
「栗本って、エンターテイナーやんな? 俺は先に帰ってるから」

 僕になにをしろと言うのだろうか?
 だけど、せっかくフィリピンまで来たのだから、エンターテイナーらしく、なにかしようと決めました。

 友人を恨んでる間もなく、僕は、その女性をご飯に連れていきました。
 ご飯とは言っても、そこから徒歩2分のファーストフード店です。

 ファーストフードなので、現金は先に払い、僕の分と彼女の分のハンバーガーセットを注文しました。
 ハンバーガーを食べながら、セブ島のことや、彼女のプロフィールを聞き取ります。

 そして、ここからがエンターテイナーを発揮するところです!

 トイレに行ってくる! しかも、お腹痛いからちょっと待たせるかも。と言って、財布の入ったカバンをイスに置いたまま、席を離れたのです。
(こんなこともあろうかと、最低限のお金だけしか持っておらず、残りはホテルの金庫に置いてきました。)

 だからもう、お金もカバンも盗られていいと思いました。
 人を信じられなかったこの街で、優しくしてくれたことへの感謝料で、財布に入った数千円は、彼女にくれてやる! と考えました。
 トイレで僕は、財布を盗るな! とも、盗ってくれ! とも思いました。不思議な感情です。

 約10分後。
 トイレから戻ると、変わらない景色がそこにありました。

 変わったのは、彼女がまだ3口くらいしか食べていなかったハンバーガーを完食していたことと、僕のために、ポテトを少し残しておいてくれたこと。
 そして、「お腹、大丈夫?」と声を掛けてくれたことだけ。
 もちろん、財布の中身もそのままでした。

 毎日、生活費を稼ぐため、自分の体を売る彼女は、お金を盗らなかった。
 たぶん、これが彼女ではなく、先のタクシーの運転手なら、盗っていたでしょう。

 どっちが幸せなんだろう?
 正直者がバカを見るとは、このことでしょうか。

 信じることが素晴らしいとは思わないし、見返りを求めてしまうから、優しさには裏があるとも思います。

 幸せをお金で買うことはできるけれど、お金を持っていれば幸せだとは思いません。

 このバランスが大切なのかな〜

 悲しい現実を目の当たりにしたけれど、彼女の優しさに、僕は、たまらなく笑顔になりました。

 セブに来て、僕が初めて「幸せ」だと思った瞬間でした。

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