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【解説】現役精神科医・春日武彦先生の『恐怖の正体』を要点解説【恐怖の正体 PART2】

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◆恐怖の正体 PART2


◇紹介書籍

おはようございます、Kazukiです!
それでは今週もさっそく投稿の内容に入っていきましょう。
今週紹介していく書籍たちはコチラになります。

2023年9月30日に文藝春秋さんから発行されました、
今村昌弘(いまむら・まさひろ)先生の『でぃすぺる』と、

2023年9月25日に中央公論新社さんから発行されました、
春日武彦(かすが・たけひこ)先生の『恐怖の正体』になります!
今回は恐怖の正体について解き明かしていきます!

◇紹介書籍概要

また今回の紹介書籍たちの概要につきましては、
いつもと同じように下記に詳細を載せておきますので、
もし紹介書籍たちについて気になった方がいましたら、
そちらの方はぜひ下記をご覧いただければと思います。

タイトル 『でぃすぺる』
著者 今村昌弘(いまむら・まさひろ)
発行日 2023年9月30日 第1刷発行
価格 1,980円税込
発行者 花田朋子
発行所 株式会社文藝春秋
印刷所 大日本印刷
製本所 加藤製本
DTP 言語社

『でぃすぺる』奥付および裏表紙

タイトル 『恐怖の正体』
著者 春日武彦(かすが・たけひこ)
発行日 2023年9月25日発行
価格 1,012円税込
発行者 安部順一
本文印刷 三晃印刷
カバー印刷 大熊整美堂
製本 小泉製本
発行所 中央公論新社

『恐怖の正体』奥付および裏表紙

◇紹介書籍選出理由

そして今週の投稿に、
本作『でぃすぺる』と『恐怖の正体』、この2冊を選んだ理由になりますが、
そちらにつきましてはパート1の投稿で簡単にですが解説しておりますので、
もし詳しく知りたいという方がいましたらぜひパート1の投稿をご覧ください。

◇投稿内容とその目的

そして、今週の投稿の内容につきましては、


前回のパート1で今村昌弘先生の『でぃすぺる』を序章要約していき、
今回のパート2で春日武彦先生の『恐怖の正体』を要点解説していき、
次回のパート3でその二冊を掛け合わせたある考察をしていきます。


なので、今週のこの【恐怖の正体】シリーズの投稿を、
パート1からパート3まで全部ご覧いただいた暁には、


名著『死人荘の殺人』の著者の最新作オカルトミステリを読みたくなり、
また、臨床精神科医が紐解く「恐怖の正体」を理解することができて、
そして、傑作『でぃすぺる』に潜む「恐怖の正体」を目の当たりにできる!


そんなシリーズになっていれば幸いだと思っております。

それでは、2023年のハロウィンウィークを最大限に堪能するための、
恐怖に慄き絶望に暮れるそんな読書の旅へ一緒に出かけていきましょう!

◇恐怖の定義とは?

それではようやく本書『恐怖の正体』の解説に入っていきますが、
今回の投稿では本書の第一章であります、
「恐怖の生々しさと定義について」の内容を参照していきながら、
次の順で解説していこうと思います。それがコチラになります。

  1. 恐怖の定義とは?

  2. 恐怖の生々しさ①「止まった電車」

  3. 恐怖の生々しさ②「背後の人」

まず最初に本書の第一章で語られている、
「恐怖の定義」というものを解説していきまして、
その後に同じく本書の第一章で語られている、
恐怖の生々しさを見事に書き上げているお話を二つほど紹介して、
それらについて最初に解説をした「恐怖の定義」を用いて、
そのお話が持つ「恐怖の正体」を分析していこうと思います。

なので、まずは先にも述べたとおり、
本書『恐怖の正体』で解説されている「恐怖の定義」について、
さっそく解説していこうと思います。

本書『恐怖の正体』で筆者の春日先生は、
その「恐怖の定義」について次のように述べられています。

①危機感、②不条理感、③精神的視野狭窄--これら三つが組み合わされることによって立ち上がる圧倒的な感情が、恐怖という体験を形づくる。

『恐怖の正体』p15

つまり、自分か大切な人の身に危険が及ぶのでは?という危機感を抱いて、
また、抗いようのない不条理な力を前にした時の不条理感を抱いて、
そして、精神的に追い詰められて視野が狭まってしまったときに、

人は恐怖という体験を形づくるというわけなのです。

これが本書『恐怖の正体』で述べられている「恐怖の定義」になります。

◇恐怖の生々しさ①「止まった電車」

これで本書で述べられている「恐怖の定義」については、
簡単に抑えることができたと思いますので、
次はその「恐怖の定義」と同じ章で紹介されている、
その恐怖の生々しさを読者にお伝えるするべく、
筆者の春日先生が厳選したであろう恐怖エピソードを、
二つほど紹介していこうと思います。

まず最初に紹介していくのが、
本書で「止まった電車」というタイトルで紹介されているお話なんですが、
これ、あらかじめ言っておきます。

メチャクチャグロテスクです。

というのも、このお話は、
実際に起こった事件というのがもとになっておりまして、
ある晴れた日の真っ昼間の踏み切りで起こった事件なのだそうなんですが、
その踏み切りを通せんぼする形で電車が止まってしまったみたいなんですね。

しかし、待てど暮らせど一向に遮断機が上がる気配がないので、
その場で待ちぼうけを喰らって業を煮やした初老の男性が、

なんと、その止まっている電車の下を潜ろうとしたそうなんです。
全く我慢せいや。

そして、男性は四つん這いになって身体をできる限り低くして、
匍匐前進のような形で電車を下を潜り始めたそうなのですが、
そこで男性はあることに気が付いてしまいます。

それは「意外にも狭かった…」ということです。いや、気付けや。

さらには、レールはさながら障害物のように行く手を邪魔をしてくるし、
また、地面に敷かれた砂利は意外にも膝や掌に食い込んできます。

ここまで環境が悪ければ、
その初老の男性はさっさと諦めて引き返せばよかったのですが、
それはよく晴れた日の真っ昼間の出来事ですからね。

その奇行を目にしている衆人観客が周りには沢山いました。

なので、その初老の男性としても、もう引くに引けません。
なぜなら、大変高貴なプライドがありますから、
失敗した姿なんて情けなくて見せられないと思っています。
まぁもう既に十分情けないですが…。

けれど、そうこうしている内に事件は起こってしまいます。

それは、電車が眠りから覚めたように動き出してしまうからです。

電車からすれば、初老の男性の体なんてものは全くの障害ではなく、
その初老の男性は本当になすすべもなく、
十両編成の電車に「ゆっくり」と轢き殺されてしまいます。

マジでオーマイガーです。

この後の描写というのも、
本書『恐怖の正体』の中では紹介されているんですが、
そちらはちょっと私が文字起こしだけでも失神しそうになるので割愛します。

そして、本題に戻りますが、
この時の男性を襲っていた「恐怖」という体験の発生機序は、
先に紹介した「恐怖の定義」に登場した項目を使って解説することができます。

まず、この初老の男性は電車が動き出した瞬間に何を思ったのかというと、

それは間違いなく「ヤバい、俺死ぬ」という危機感だと思います。

さらに、男性は脱出しようと試みますが、
元々狭い場所に身体を捩じ込んでいたこともあり、
脱出しようにも体は上手く動かなかったはずです。

なので、そんな彼が冷静に身体を動かして、
脱出しようと頭の中で考えられるはずもなく、

恐らく「恐怖の定義」の三つ目で登場した③精神的視野狭窄に陥って、
身体をバタバタと動かしていただけだったかと思います。

もうこれだけでも私からしたら十二分に恐怖体験なのですが、
そこにダメ押しと言わんばかりに、
動き始めた電車がその初老の男性の身体を「ゆっくり」と轢いていきます。

「ゆっくり」と自分の身体に電車の車輪が食い込み、
だんだんと軟部組織や内臓、骨が砕けていく感覚と共に、
意識を吹き飛ばすほどの壮絶な痛みがその男性を襲います。

そして、その時に彼が感じているのは、
絶対に敵うことのない力の差を目の当たりにした不条理感です。

こうして「恐怖の定義」に登場した、
①危機感、②不条理感、③精神的視野狭窄が揃い、
人は皆、恐怖という体験を味わうということなのです。…いや、怖すぎるて。

◇恐怖の生々しさ②「背後の人」

それでは気を取り直して次の恐怖話の紹介になりますが、
次はなんと本書の筆者であります春日先生が、
実際に医師として現場で体験した恐怖エピソードを紹介していこうと思います。

これは筆者の春日先生が、
まだ精神科医ではなく産婦人科医として勤務していた頃のお話らしいんですが、
その頃の産婦人科というのはまだ立ち会い分娩といった習慣がない頃でして、
基本的に旦那さんは廊下のベンチで出産をジッと待っているというのが、
普通だった頃のお話です。

なんですが、その時に春日先生が担当した分娩というのは、
なぜか旦那さんが立ち会う形になっておりまして、
しかもその旦那さんは奥さんの手を握るとかではなくて、
ただ分娩室の隅に置かれた椅子に座ったまま出産を待つという、
とても変わったシチュエーションでした。

というのも、その旦那さんは目の見えない人だったんです。

さらに、その旦那さんはヒット曲をも生み出したミュージシャンらしく、
そんな方が分娩室の隅で待っているというのは、
ある意味では分娩室内で起こっている様子というのを、
耳から入ってくる情報だけで把握しようとしていたことを、
意味していると思います。

しかも、その旦那さんの座っている位置というのは、
なぜか春日先生のちょうど真後ろに位置していたらしく、

目の見えない人が沈黙を貫き分娩室の隅で第一子が生まれるのを待つという…。

もうこれだけで春日先生からしたらだいぶ恐怖体験だったようなのですが、

本当の恐怖はまだまだ始まっていませんでした…!

なぜなら、その旦那さんが途中でいきなり顔を真っ赤にして、

「おい、お前! ミスをしたらただでは済まないからな」

と春日先生に対して怒鳴りつけ始めたり、
さらには急に耳元に近づいてきて、

「その判断に、あなたは自分の命を賭けられますか」

と囁いてきたりしてきたそうで、
もうただの完全にヤバいやつだったそうです。

もちろん、その旦那さんからしたら我が子の、
ましてや、輝かしい第一子の誕生の瞬間なので、
そりゃあ神経質になるのもわかりますが、

お医者さんに圧をかけても良いことなんて何もないですからね。

現に、その時のことを春日先生は本書の中で振り返っていますが、
「ものすごく怖かった」とその心情を吐露されていますし、
それが原因でミスしてしまうんじゃないか…を不安を抱えてしまいます。
春日先生、可哀想です。笑

では話を戻しまして、
その時の春日先生の恐怖体験というのを、
先に紹介した「恐怖の定義」の準えて分析していきますと、

まず、その旦那さんが分娩室の隅、ましてや自分の後方に座っている、
というだけでもすでに変な緊張が春日先生には走っていますが、
さらに春日先生に追い討ちをかけるようにその旦那さんは、

「おい、お前! ミスをしたらただでは済まないからな」と、
何もミスをしていない春日先生に対して、顔を真っ赤にして怒鳴りつけます。

その時点で「恐怖の定義」の二番目である②不条理感が春日先生を包み、
またその後にも、旦那さんは春日先生の耳元で囁くようにして、

「その判断に、あなたは自分の命を賭けられますか」と、
春日先生に身の危険を案じるかのようなことを囁きます。

こんなことを言われてしまったら、
「恐怖の定義」の一番目である①危機感を春日先生が抱かないわけがなく、
①と②が揃ってしまった春日先生の精神というのは、
「失敗をしてはいけない」という一点に絞るためどんどん視野が狭くなり、

最後の「恐怖の定義」である③精神的視野狭窄に陥ってしまいます。

こうして「恐怖の定義」の三項目が全て揃ってしまった春日先生は、
その実とんでもない恐怖体験にその身を包まれてしまったというわけなんですね。

◆おわりに


いかがでしたか!

今回のこのパート2の投稿では、
2023年9月25日に中央公論新社さんから発行されました、
春日武彦(かすが・たけひこ)先生の『恐怖の正体』の内容を参照して、

恐怖の定義とその恐怖の定義に従った恐怖話の紹介をお届けしてきました!

これは余談なんですが、
この春日先生のお話を本書『恐怖の正体』で読んでいて、
私自身、過去に似通った方に出会したことがあるなぁと思いましたね。

市役所時代に遭遇した野生の市民クレーマーたちですね。

彼ら・彼女らの何が怖いって、話が通じないんですよね。
そのくせにキチンと日本語らしき言葉は喋っているので、
この方たちは人間の皮を被った何か別の生物なのかなぁと思って、
終始恐怖心を抱いていたことを思い出してしまいましたね。

そして、次回のパート3の投稿では、
パート1で要約した今村先生の『でぃすぺる』と、
今回解説をしました春日先生の『恐怖の正体』を用いて、
ある考察を行なっていきますので、
そちらもお楽しみにしていただければと思います。

今週末は恐怖に恐れ慄ける週末を皆さんにお届けできるよう頑張ります。

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どちらもお忘れなきようこれからも応援してくれるととても嬉しいです。

それでは、また次回の投稿でお会いしましょう。またね👋

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