アムとネル

魔法があるから離れた人と繋がる。
魔法があるから世界の歯車は回る。
魔法があるから人々は救われる。

魔法がなくなったらあなたはどうしますか?

※忙しい方向けに音声で読み聞かせしています。
読み聞かせ寝落ち用「アムとネル」 on stand.fm https://stand.fm/episodes/5fb0cf1b2c849b0b434951d6

世界はかつて狭かった。
いつもお腹がすいていた。
さまざまな戦争が起きた。
たくさんの人がなくなった。
世界はそんなことの繰り返しだった。

神様はそんな世界を哀れんだ。
だから世界にプレゼントを与えた。
それはたくさんの人をお腹いっぱいにするものだった。
それはたくさんの人が仲良しになれるものだった。
それはたくさんの人の生活が救われるものだった。
人々はそれを魔法と名付けた。

ネルはいつも12時になると魔法の鏡で遠くに住んでいるアムとおしゃべりすることが日課でした。

毎日、学校や友達の事、好きな事や嫌いな事、みんなの前では話せない事、寝る前におしゃべりしていました。

今度の週末に一緒に遊びに行く約束をしました。

2人は遠くに住んでいるけど、魔法の馬に乗って、いつでも会うことができます。

ネルはとてもうれしい気持ちで心がいっぱいでした。

ネルは将来、魔法のスペシャリストになってアムと結婚する事が夢でした。

今日もネルは学校に行って魔法の勉強に行きます。

友達のフクロウくんが最近、火の鳥の被害が増えていると教えてくれました。

火の鳥は世界に魔法が与えらた時から起きた火の雨が降る災害のことです。

ネルはフクロウくんの話を聞きながら、今度の週末どんな服を着て行こうかなと考えていました。

やっとの週末、ネルは待ち合わせの時計台の前でドキドキしながら立っていました。

ネルは心を落ち着かせるために目をつぶっておまじないを唱えました。

「今日も素敵な一日になりますように」

ネルはおまじないを唱えると心が落ち着いて晴れやかになりました。

「ネル、お待たせ。待った?」

「アム、大丈夫だよ。元気だった?」

「元気だよ。昨日も話したでしょ?」

「それでも聞きたいんだよ。魔法の鏡があっても気になるよ」

「そう。ネルは魔法の勉強をしているのになんでそう思うの?」

「鈍感」

アムのそういうところに気づいて欲しいネルでした。

今日2人はクリスマスイルミネーションを見にきました。

町のいたるところに光が灯り、さまざまな色が輝き、たくさんのカップルが幸せそうに歩いていました。

世界の仕組みは魔法で動いています。

もちろんこの町も。

「世界から魔法がなくなったらどうする?」

ネルはキレイなイルミネーションを見ながらアムに聞きました。

「そんなことが起きるとは思わないけど、そうだね」

「どんなに時間がかかったとしても、きっとまたキミに会いに行くよ」

アムは顔を赤らめながらネルに言いました。

ネルも顔を真っ赤にしながら小さくありがとうと言いました。

2人はどちらかともなく手を繋ぎました。

「ねえ、アム。伝えたいことがあるの」

「なにネム?」

ネムは深呼吸をして、アムへの想いを言おうとしました。

しかし、それは叶いませんでした。

「火の鳥だ!みんなシェルターへ逃げるんだ!」

上を見上げると火の雨が降り注いできました。

町のいたるところに火の雨が落ちて、さっきまでキレイだったイルミネーションがすべて燃えていきました。

「ネル危ない!」

アムは叫んでネルを突き飛ばしました。

ネルは訳もわからないまま突き飛ばされ地面に転んでしまいました。

気づいた時にはさっきまでネルがいたところはゴウゴウと燃えていました。

「アム!アム!」

いくら叫んでもアムからの返事はありませんでした。

ネルは燃える炎も気に留めずアムの名前を呼びながら探しました。

「キミはなにをやってるんだ!?早く避難しなさい!」

クマの警察官がネルの手を取って言いました。

「アムがいないの!行かせて!」

「その人は神様の子供になったんだ!いいから来なさい!」

ネルはクマの警察官に無理やりシェルターに運ばれました。

ネルも知っていました。

魔法の代償、火の鳥。

神様は世界に魔法をプレゼントする代わりに神様の使い魔の火の鳥が火の雨を降らせる。

それで燃えたものは神様の子供と言われる。

世界が貧しかったときよりも、死んでしまうものはとても少なくなりました。

だから誰も神様を責めませんでした。

ネルもこんなに自由な世界で生きられることに幸せを感じていました。

だから自分が火の鳥の影響を受けることになるとは思っていませんでした。

火の鳥が去った後、燃えてしまった町でネルは三日三晩寝ずにアムを探し続けました。

ついには疲労で倒れてしまって、入院しました。

ネルは入院している間、泣き続けました。

誰にも止められないほど泣きました。

しかし誰もネルの気持ちは分からないでしょう。

だって世界は魔法で動いていますから。

ネルは満月の夜、夢を見ました。

それはアムと結婚する夢でした。

子供がいて幸せそうにご飯を食べている夢でした。

ネルは目を覚ましました。

時計を見ると12時を指しています。

ネルは前に進むことに決めました。

退院後、ネルは本当に一生懸命に勉強をして魔法のスペシャリストになりました。

魔法の研究に没頭して身なりも整えなくなりました。

周りからはアムを失った心の穴を埋めようとしている行為に見えました。

季節は何度も過ぎ去り、世界は変わらず魔法で動いています。

10年の時が流れました。

古びた服を着てボサボサの髪を束ねたネルが、かつてアムを失った町を歩いています。

10年経てば魔法の力で町は元通りになっていました。

季節はクリスマス、さまざまなイルミネーションで町は輝き、たくさんのカップルが幸せそうに歩いていました。

ネルは立ち止まり、夜空を見上げました。

アムとの思い出が頭の中でいっぱいになり、泣きそうになるのを堪えました。

懐中時計で時間を見ると、12時になったところです。

夜空が赤く明るくなりました。

たくさんの人々が上を見上げて叫びました。

「火の鳥だ!逃げろ!」

たくさんの人々が逃げ惑う中、ネルだけは立ち止まって火の鳥を見ています。

人々はネルを崇高な神様の信者だと思ったでしょう。

神様の子供になるために自ら火の雨を浴びるもののことです。

誰もがネルを立派な人だと思いました。

みんながネルの側を通るたびに感謝の言葉を言いました。

だからネルが火の鳥に向かって杖を向けても不思議に思いませんでした。

「わたしは、そんな立派な人じゃないよ。みんな、ごめんなさい。
これから、わたしがすることを許してくださいね。
わたしは、この世界を壊してもいいから、アムにもう一度だけ、会いたいんだ。
素敵な世界になることを信じてるよ」

ネルは火の雨に焼かれました。

焼き尽くされてもネルは諦めませんでした。

炎と共に天空へ登っていく感覚を感じました。

炎に取り込まれながら、ネルはアムを探しました。

アムの名前を呼び続けました。

火の鳥はなぜそれほどまでしてアムに会いたいのかと問いました。

ネルは迷わずに答えました。

「世界を変えても、すべてを失っても、アムのことが大切な存在だから、会いたいんだ」

ネルの体は吹き飛ばされて雲の上に投げ出されました。

雲の上にはアムが立っていました。

「アム!」

「ネル!来ちゃダメだよ!戻って!」

「戻るよ。アムと一緒にね」

「そんなことをしたら、世界は壊れてしまう」

「壊れないさ、最初は困るかもしれないけど、きっと世界は変化してくれる」

「でも、そんなのダメだよ」

「アム、言いたいことがあるんだ」

「こんなときになに?」

「アムとずっと一緒にいたい。アムはどう?」

「もちろん、ぼくもだよ」

「じゃあ行くよ。手を離さないでね」

2人は雲から飛び降りました。

強い風を浴びながらも2人は手を離しませんでした。

朝日が見えました。

魔法がなくなった最初の日を迎えました。

世界から魔法がなくなり、魔法の鏡は普通の鏡、魔法の馬はただの馬、話すフクロウはただのフクロウになりました。

それでも人々は暮らしています。

世界が変わっても大切な人がいれば幸せだったのです。

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