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子育てのステークホルダ

 一人の赤ちゃんのまわりには、6人の大人がいる。
 少し前までは、赤ちゃんのお世話をするのは、もっぱら女性の役割で、乳児健診の場でも、「付き添い」以外の男性を見かける事は少なかった。

 しかし、今では男性が育児、それも赤ちゃんの日常の細かな事(例えば、お腹に赤いぶつぶつがある、とか、うんちの回数が多いとか……)を気にして質問するなど、積極的に子育てに取り組もうとしている新米お父さんも珍しくない。また、赤ちゃん連れのお母さんにおばあちゃんが付き添っている姿は珍しくないが、そこに年配の男性が付いてきている光景も当たり前になりつつある。

 男性の育児休暇取得が推奨され、実際に育休取得率もジリジリと上昇しつつある今、また、子どもの数が急速に減りつつある中、家族みんなで、赤ちゃんの面倒を見て行く事はとても良い事だと思う。

 その一方で、育児は文化だ。

 文化とは、時代や場所によって微妙に変わるもの。それ故に、文化を巡っては、時に様々な摩擦が生じ、これが時に問題を引き起こす。

 子育てにまつわる「文化」も、この30年くらいの間でも少しずつ変化しており、例えば一昔前、それこそ、いま時の新米お母さん・お父さんが生まれた頃に育児の「常識」とされていた事が、今は全く違っている……と言う事も、これまた少なくない。

 「私はこうやってこの子を育てたのに、この子ったら、今はそんな事はしない、って言うんですよ! 先生、それって違っていますよね! どうなのですか?」

なんて鼻息荒く迫ってくる、これまた祖母歴まだ一ヶ月のおばあちゃん……
  お母さんはとみると、うつむいて黙っている人もいれば、「今はお母さんの時代と違うんだから……」なんて果敢に反論したり。

 で、二人揃って「それで、先生! どうなんですか?! だって……
 
 オイオイ、それを僕が決めるの?

 モチロン、おじいちゃんだって、決して黙っているわけじゃありません。

 今や保健所などで「初めてのお孫さんを迎える男性向け講座」なんて講座が開かれていて、それこそ自分の子どもの育児には一切関わらなかったであろう年配の男性諸氏が、嬉々として沐浴体験をしたり、育児を学んでいる光景があちこちで見られている。これも決して悪いことではないのだけれど、ある程度歳を重ね、社会で揉まれた経験豊富な男性は、指示的というか、有り体に言えば、「上から目線」になりがちで、それが新たな「文化摩擦」を引き起こさなければいいのだけれど……

 育児にはマニュアルも無ければ「これが絶対」なんて不文律はありません。あるのは、さまざまな体験から生み出された「経験知」の蓄積。
  その「経験」だって、ひと組の夫婦に子どもが7人、8人いるのが当たり前だった時代と違って、今の新米じじ・ばばの育児経験は1人もしくはせいぜい2人程で、とても「ベテラン」と言うほどではないし、女性が初めて出産を経験する年齢が30歳を越えるようになった今では、そもそも、じじ・ばばの育児の経験と言っても、それから30年・40年たっている事だって今では当たり前。「昔はこうだった」なんて言えるほど、育児に自信のある人はいないんじゃないか。

 しかし、こうして「理論武装」までして頭でっかちになった新米おじいちゃんや、自分の経験を持ち出して、口出ししたくてたまらない新米おばあちゃんが、こぞって孫の誕生を今や遅しと待ち構えているのだからたまらない。それに最近では、「孫休暇」なる制度を取り入れる所も増えているのだとか。

 まぁ、共働きが当たり前の時代、祖父母を育児に引っ張り出しやすくするためには悪い制度ではないのだろうけど。

 いやはや、なんとも大変な時代だ。
 
 一方、口出しされる側の新米父・母。

 ただでさえ、赤ちゃんが生まれて大変な所に、親から何かと口出しされるのはたまったもんじゃない。特に、お母さん。実家の母親に言われるならまだしも、ダンナの母親からアレコレ言われた日には、ストレスはハンパないだろう。

 育児には成功も失敗もない。だから、失敗なんて恐れることはない。

  大切な事は、何より赤ちゃんの両親が世の中にあふれる情報や助言に振り回されたりしないで、赤ちゃんをしっかり見つめる事。子どもは案外強くてしたたかな存在。例えば、具合が悪い時は必ず教えてくれるので、「具合が悪いのを見逃したらどうしよう」なんて心配することはないのです。
 
 ここは一つ深呼吸をして、肩の力を抜いて、そして……使えるものは上手に利用しよう。ただし、親にとって、自分の子どもは例え何歳になっていようとも「子ども」と言う感覚が拭えないもの。その「子ども」が子どもを生んだ、となって、「黙っちゃいられない」と言うじじ・ばばの心情も理解してあげて、つき合ってあげてください。

 一人の赤ちゃんのまわりには、6人の大人がいる。
 これって、実は結構、面倒な事なんです……

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