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日本語「アーバニスト」はいつから?

▼言葉は自然と成長してくるものなので…

とある行政のお仕事をお手伝いしている関係で以下のような質問をいただいた。

「(「アーバニスト」という概念や言葉が)日本に入った時期や、現状の浸透度はどのようなものですか?」

これは意外に難しい質問で、まず「アーバニスト」という言葉の意味をどうとるかにもよる。僕たち一般社団法人アーバニストでは、この言葉を「都市生活者と専門家の汽水域において、都市に働きかける実践者」という、かなり大きなくくりで使っている。

ただし、「アーバニスト」という言葉自体は、当初は「都市計画の専門家」といった意味合いだし、それが時代を経て「都市に住み、都会の生活を楽しんでいる人」という意味も持ち始めた。

そのような経緯をふまえつつ、現代は専門家と生活者の境界が曖昧になってきて、そしてその様な人々が「都市の負債を資産に変える」し、「今後の魅力ある都市づくりの鍵を握っている」と思っている。そのため、僕らは前述のように「生活者と専門家の汽水域…実践者」という転回をふまえて再定義を行っているわけなので…、言葉が使われているといっても、その意味合いは様々になる。

▼日本語「アーバニスト」の経緯

なお、書籍『アーバニスト─魅力ある都市の創生者たち』(2021年、ちくま新書)では、中島直人さんが「アーバニズム」という言葉から紐解いた「アーバニスト」の概念、文献検索などから辿った日本語「アーバニスト」の起源(1950年代〜)などを解説しているので、興味のある方はご一読いただければ幸い。

書籍に書いていない情報としては、生活者も含む意味合いでは、千葉県企業庁が1990年に創刊した『幕張アーバニスト』という地域雑誌があるそうな(中島さん情報)。

また、2022年度には国土交通省が、都市行政の専門性と都市生活者の視点をあわせ持つ「アーバニスト」としての素養を高め、当事者として主体的に考え実践していく公務員を育成する「公務員アーバニストスクール」を開催している。

2021年に設立された一般社団法人for CITIESでも、僕らと近しい意味合い、その中でもアート文脈でこの言葉を使っている。もっとも設立者達はグローバルに活躍しているので、日本語文脈とはルーツが異なると言える可能性もある。

繰り返しになるが、「アーバニスト」という言葉は、専門家から生活者に幅を広げながら、都市に対する実践という視点も加わりながら、実態と同時に定着してきた言葉なので、明確にスタートを定義することは難しい。先の文章ではうっかり「再定義」と書いてしまったが「再整理」という方が適切かもしれない。

▼商業用語としての「アーバニスト」

ここまで書いてみて、知財として「アーバニスト」という言葉はどう扱われているのか気になって、特許庁のデータベースで検索してみた。

カタカナ「アーバニスト」では1件もヒットせず、「urbanist」では商標が4件ヒットした。ただし、そのものの言葉ではなく「urbanist」を含む用語として。

一つは、「KENZO TANGE ASSOCIATES Urbanists-Architects」。おぁ、世界の丹下健三大先生!登録日は2003年、かつ、世界の大建築家・都市計画家なので、ここの意味合いは完全に専門家というスタンスだろう。

残りの三つは、化粧品会社である株式会社ノエビアのブランドとしての「URBANISTA」と、Urbanista ABによるモバイルオーディオブランドとしての「URBANISTA」。URBANISTAという言葉はスペイン語やポルトガル語で、辞書上は「都市計画の専門家=古くからあるアーバニスト」なのだが、製品の性質を考えると、明らかに「都市に住み、都会の生活を楽しんでいる人」という意味合い。ネット辞書の限界だが、スペイン/ポルトガル語圏でも言葉が変化してきているのだろう。

ノエビアは2021年に、Urbanista ABは2011年と2019年に登録されていることから、商業ベースではまだ、「アーバニスト=実践者」という意味合いでは使われていないと言えそうだ。

▼おまけ:結局「アーバニスト」は日本語として浸透しているの?

結論から言ってしまうと、まだまだ業界用語なのでしょうね…という状態。なお、Chat GPTに聞いてみたところ、下記の通りの回答。まぁ、どこまで事実ベースかは怪しいところもあるけど納得感はある(この回答が出るまでにも、一回事実誤認を指摘している)。

「アーバニスト」という言葉は、日本語においてはあまり一般的には使用されていません。日本語の一般的な表現や専門用語としては、主に「都市環境専門家」や「都市計画家」などの表現が使われます。
ただし、一部の都市計画や環境に関心を持つ人々の間では、「アーバニスト」という言葉が使われることもあります。特にインターネット上やSNSなどで、都市環境や都市生活に関心を持つコミュニティやグループでは、「アーバニスト」という言葉が自己紹介や議論の中で使用されることがあります。
したがって、「アーバニスト」という言葉は、一部の都市環境に関心を持つ人々の間で知られている言葉ではありますが、一般的な日本語表現としてはまだ一般化していないと言えます。

(Chat GPT、2023年6月23日時点)

とはいえ、この言葉が書籍という形で表に出たことで、「(都市計画家ではないけど都市に関わってきた)自分の活動がすっきり腹落ちできた」という声もあるし、都市計画家の中でも視野を広げる文脈と共に広がりつつある実感はある。

商業ベースで使われ始めたら、それが一つの転換点になるのかもしれないなどと思いつつ、この言葉が商業ベースの文脈で使いやすいのかな…などとも思いつつ。あと、この言葉を商標として独占するつもりはないが、変な商標の使われ方されないようにしたいと思っているので、早く「普通名称」として定着することを目指すのだろうな。

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