春の手招き
窓をつんざく夜の明るみが、格子の脇にすがりつき、
風もまた、その行く手にあるものものを、荒々しく撫で付ける。
彼は眺める、彼方の近さのうちで、
輝く瞳と、一抹の不安に頭を火照らせて、
胸には苦い欲望とーー、
夜の近さの抱擁が、いかなる遠さに思えるだろう。
部屋の灯で見る地図は、なんと大きく、
そして、追想にうかぶ客船の、なんと狭く小さいことか…。
この夜を知っている。窓を擦りむく風も知っている。
これが春だ、彼らの待ちわびる、病んだ季節の名、
はや冬を追い払い、彼らを誘い出す、
ああ、何度目のことだろうー
彼らは飽きもせず、訪れに身を開き、そこへと出たっていく、
手には荒々しい世界を与えられ、
口には夢の乳房をつなげられ、
いまや溶かされ、削られ、絞りつくされた、
苦痛の石のひなびた乳房よ。
忘れもしない、かつての我らに夢を見せ、
好んで我らを苦しめたおまえを、
嬉々として絞首台への背中を押したおまえを、
そしてときには、耐えきれぬほど永い夜、
窓の格子にすがりながら、
お前のようなものでさえ、我らの救いになろうかと、
おまえを待ちわびていたのだ−
春よ。
明晰な冬を追い出して、幾度も我らを手招くものよ、
病んだ季節よ、花の香りを纏った我が不遇の魔よ、
我らはいまや知っている、
どうせおまえは来やしないのだ。
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