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デジタル化する新興国②

2018年時点で、先進国の集合といえる経済協力開発機構(OECD)加盟国の総人口は13億人であった。同年の世界人口は76億人だから、非先進国的環境でデジタル化を迎えつつある人々が63億人に及ぶ。新興国での人口増とデジタル端末の低価格化によって、時を追うごとに、新興国でデジタル化を迎える人々の比率は高まる。無論、米欧の情報通信系企業は新興国市場を押さえようとする。新興国政府はそれに反発するかもしれない。
また、かつての新興工業国との対比でいえば、デジタル新興国の主要な舞台は東アジアにとどまらない。製造業サプライチェーンが輸送費によって制約されるのに対して、デジタルな分業と発注は容易に国境を越える。加えて南アジア、アフリカ、南米でも国内市場を苗床として変革が進む。一方でデジタル経済は雇用創出効果が限定的になる可能性もあり、経済成長を牽引できるのかは不透明である。それでも構造変化は訪れる。
新興国での通信販売や送金につきものだったリスクは第三者決済によって大きく削減された。かつて多くの新興国が固定電話を経ずに携帯電話に移行したように、いま銀行口座を飛び越えてモバイル決済の利用が広がっている。インターネットを介して仕事の受発注が行われるフリーランス経済は新興国でむしろより先鋭的に形成される可能性もある。
なお、2020年に入り、世界中で甚大な被害をもたらしている新型コロナウイルスの流行は新興国のデジタル化を考えるうえでも避けて通れない論点となった。中国の湖北省武漢市を震源地としたウイルスは、発見からわずか3ヶ月で世界的な流行に至り、全世界に悲劇と混乱をもたらした。本書では2019年までの趨勢を主な検討対象としながらも、第6章で、パンデミックのなかで今日のデジタル社会が見せている技術の利活用の可能性、そしてフェイクニュースに代表される脆弱性の両面を検討する。

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