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負けるが勝ち…だったら世界はもっと平和です。

ポケモンカードゲームの大会では引き分けの場合に両者敗北となると聞いた。
マジック:ザ・ギャザリングにおいては引き分けの場合は両者勝ち点1点を得るが、ポケモンにおいては両者勝ち点0点だと言う。

それ故か、ポケモンカードゲーム界隈においては、オポネントの存在を理由に「両負けよりも投了」という認識が広がっているという。
なるほど、「引き分けでも負けでも勝ち点が0なら、せめて対戦相手を勝ちにすれば、その相手と戦った自分のオポネントが増えて有利になる」という理屈か。
だが私はこのロジックに個人的に強い違和感を覚えた。
ことゲームにおいて「引き分けは負けより悪い」なんて仕組みがあり得るのか。それもゲームにおいて天下に並ぶもの無しの任天堂が、時間切れを目前にしたプレイヤーが姑息に投了することを推奨するようなルールを敷くだろうか。

本当に「引き分けは負けより悪い」のか。
「両負けよりも投了」と主張する者は「あなたのオポネントが増えますよ」ばかり強調するが、大会全体を考える必要があると私は考える。

プレイヤーA,B,CとDであるあなたの4人でスイスラウンド2回戦の小規模な大会を行うとする。
1回戦はAとB、CとDで対戦した。AがBに勝ち、CとDの対戦は長引き、制限時間が迫っている。
さて、あなたは投了した方が得なのだろうか?

まず投了した場合を考える。
2回戦はAとC、BとDの対戦となる。
その勝者の組み合わせはAとB、AとD、CとB、CとDが考えられる。

AとBが勝つ場合、
マッチポイントが(A,B,C,D)=(6,3,3,0)
オポネントが(A,B,C,D)=(50%,67%,67%,50%)
最終順位が(A,B,C,D)=(1,2,2,4)
となる。

AとDが勝つ場合、
マッチポイントが(A,B,C,D)=(6,0,3,3)
オポネントが(A,B,C,D)=(42%,75%,75%,42%)
最終順位が(A,B,C,D)=(1,4,2,3)
となる。

CとBが勝つ場合、
マッチポイントが(A,B,C,D)=(3,3,6,0)
オポネントが(A,B,C,D)=(75%,42%,42%,75%)
最終順位が(A,B,C,D)=(2,3,1,4)
となる。

CとDが勝つ場合、
マッチポイントが(A,B,C,D)=(3,0,6,3)
オポネントが(A,B,C,D)=(67%,50%,50%,67%)
最終順位が(A,B,C,D)=(2,4,1,2)
となる。

次に投了しなかった場合を考える。
2回戦の組み合わせは投了した場合と同じく、AとC、BとDの対戦とする。
勝者の組み合わせは当然AとB、AとD、CとB、CとDになる。

AとBが勝つ場合、
マッチポイントが(A,B,C,D)=(6,3,0,0)
オポネントが(A,B,C,D)=(42%,67%,67%,42%)
最終順位が(A,B,C,D)=(1,2,3,4)
となる。

AとDが勝つ場合、
マッチポイントが(A,B,C,D)=(6,0,0,3)
オポネントが(A,B,C,D)=(33%,75%,75%,33%)
最終順位が(A,B,C,D)=(1,3,3,2)
となる。

CとBが勝つ場合、
マッチポイントが(A,B,C,D)=(3,3,3,0)
オポネントが(A,B,C,D)=(50%,42%,42%,50%)
最終順位が(A,B,C,D)=(1,2,2,4)
となる。

CとDが勝つ場合、
マッチポイントが(A,B,C,D)=(3,0,3,3)
オポネントが(A,B,C,D)=(42%,50%,50%,42%)
最終順位が(A,B,C,D)=(2,4,1,2)
となる。

この結果をよく見比べてみて欲しい。
なるほど確かに投了することでオポネントは上がっている。
42%→50%、33%→42%、50%→75%、42%→67%
だが、順位は上がっていない。むしろ下がってすらいる。
4→4、2→3、4→4、2→2

しかも、投了してCに勝ちを譲った場合において、2回戦でCが負けDが勝ってなお、DはCより順位が高くはならない。
「両負けよりも投了」はあなたを利さないばかりか、それにより勝ちを譲られる対戦相手にとって都合が良いことばかりである。

ではなぜこうなるのか。
ひとつはトーナメント全体での勝ち点が増えるからである。全体として勝ち点が増えるから、投了した以外の試合での勝ちによって得られる勝ち点の価値が下がる。
ふたつめにオポネントも全体的に上昇するからである。Cの戦績が良くなることでオポネントの上昇の恩恵を受けるのはあなただけではない。Cと対戦した他のプレイヤー全員が同等に恩恵を受ける。あなたとは異なり、投了ひとつせずに。
つまり、あなたが投了することで、あなたのオポネントが増える以上に、トーナメント全体として見て勝ち点とオポネントが「インフレ」してしまうのである。
インフレしたオポネントが多少増えたところで焼け石に灯油状態。あなたの順位は変わらないか下がるのみ、というカラクリである。

もちろん、今回はたった4人という小規模も小規模な疑似トーナメントで確認を行ったので、本当は「ある規模、ある組み合わせにおいては投了することで実際に順位を上げられる」という状況が存在するかも知れない。
「オポネントが上がる」なんて分かりきってどうでも良いミクロな話ではなくて、実際に私が行ったような大会全体のモデル化と、確実にまたは十分に高い確率で順位を上げられるという明確な根拠を以て反論して欲しいと思う。

ともあれ、「両負けよりも投了」という言葉を聞く時、「あなたのオポネントが増えますよ」という甘い言葉を聞く時、この記事をどうか思い出して頂きたい。

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