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技術管理職はなぜ忙しいのか?

 管理職になりたくない人が増えており、最近の調査などを見ていると若い世代ではおおよそ8割の人は管理職になりたくないと考えているそうです。技術系部門では昔から、技術を突き詰めたい職人肌の人が多く、エンジニアで管理職になりたくない人は一定数いましたのですが、最近はそれだけでなく、管理職はあまりにも忙しく、ストレスの高い面倒な仕事で、割に合わないと感じている人が増えているようです。
 無理もないと思います。私は長らく製造業の技術系部門で働いていましたが、やる事が多すぎて慢性的に忙しい技術系部門や、疲弊してしまった管理職も多く見てきました。何が、技術系管理職を忙しくさせているのでしょうか? そこには、いくつかのパターンがあるように思います。


1. 自分で仕事を抱え込んでしまうパターン

 管理職になっても、実務を部下に任せることができずプレイングマネージャーをやってしまうパターンです。管理職の本来の職務であるマネージメントの仕事に加え実務もやることになりますので、当然無理があります。

 これは、所属していた部門で管理職に昇進したいわゆる叩き上げの管理職によく見られます。このタイプの人は、人に任せるよりも自分でやったほうが早いし、失敗もないし、そもそも任せられる人がいなと思い込んでおり目の前の失敗を恐れるあまり、人に任せることができません。

 他の人に仕事を任せた時に、組織としてのパフォーマンスが一時的に落ちたとしても、その後は改善して行きます。一方、プレイングマネージャをやってしまうと、その時は良くても、その後のパフォーマンスは悪くなる一方です。無理を重ね疲弊して行きからです。管理職になったら、割り切って実務は他の人に任せるのが賢明です。

2. 自分で仕事を増やしてしまうパターン

 何か新しい事をやってみたり、新たな仕組みを導入する場合は、その分何かをやめなければいけません。そうしないと、どんどんやる仕事が増え、組織が機能しなくなってしまいます。

 これは、特に問題意識の高い優秀な人ほど陥りやすいパターンです。問題意識の高い人は、自部門が担当する製品の品質に問題があれば、試験項目やチェック項目を増やすべきだと思うでしょうし、製品の競争力を上げるために、新たな製品を考えるタスクフォースを新設しようとするでしょう。しかし、やろうとしていることは正しくても、それをやるための時間を作り出さなければ、部下からはソッポを向かれてしまいます。単にやる仕事を増やしているだけで何の効果も得られないばかりか、却って状態を悪化させてしまいます。

 別の部門から移ってきて新たに管理職になった人もこのパターンに陥りがちです。別部門から来た人は、新たに何をしなければ良いかはわかっていても、何をやめて良いのかがわからないからです。前からこの部門にいた部下に「やめられる無駄な仕事はないか?」と聞いても、大体「ない」という答えになります。これは当然で、普通の職場であれば、全く必要のないやめても良い仕事などはありません。
 考えるべきは、「組織にとって優先順位が低い仕事」です。本当はやった方が良いけれど、泣く泣くやめる仕事を見つけなければいけないのです。自分の職場の仕事の優先順位を自分でつけられるようになるまでは、無闇に新しい仕事を増やさないように気をつけるべきだと思います。

3. 大きな「過去の負債」を抱えてかるパターン

 ほとんどの技術系部署では、過去に開発・製造・販売してきた製品への対応が求められます。過去の製品に何にも問題がないというのことはまずあり得ないので、大なり小なり過去の問題への対処が必要になります。しかし、これが積み重なると、やることがどんどん増えて時間が足りなくなり、慢性的に多忙な状態となって行きます。以下のような「負のスパイラル」が起き、そこから抜け出すことが難しくなるからです。

負のスパイラル

 安易で場当たり的な製品設計は大きな問題を引き起こします。製品の量産を開始した後や市場投入後に大きな問題が発生すると、この解決は最優先事項となり、他の作業を止めて、問題の解決に人員を投入することになります。特に、製品を熟知している数少ない優秀なキーエンジニアは間違いなくこれに駆り出されます。設計に起因する問題を根本的に解決するためには、設計、検証をやり直すことになり時間が多くかかります。
 こうやって目の前の問題の対処が長引いているうちに、次の製品プロジェクトの設計が始まってしまいます。本来、前の開発プロジェクトを振り返り次の製品の設計で改善すべきなのですが、振り返りをするところまでいかず、発生した問題のフィードバックが十分にされなくなります。問題の解決に投入されている優秀なキーエンジニアは、本来、次の製品の設計に腕を振るい、設計作業を通じて人材を育成するはずだったのに、次の製品の設計をする時間が取れなくなります。若手技術者は放置され適切なアドバイスを受けることができなくなります。結果として次の製品も場当たり的な設計になり、また次の品質問題を生み同じことを繰り返すことになってしまいます。

 現代の製品は、昔に比べ機能も増え、複雑になっており、製品のバリエーションも増えているので、このような状況に陥りやすくなります。
 このパターンは深刻で、管理職の心がけだけでどうにかなるものではありません。まずは、こうならない努力が必要ですが、自部門がこうなってしまっている場合は、簡単ではありませんが「負のスパイラル」を断ち切ることに注力するべきです。これについて、過去に書いたものがありますので、興味ある方は参考にしていただければと思います。

忙しい技術系管理職の方へ

 忙しすぎて困っている技術系管理職の方は、上のようなパターンのどれかに陥っているのかもしれません。自分の仕事の仕方や自部門の状況を一度立ち止まって考えてみてはどうでしょうか? 忙しすぎると、目の前の仕事に追われ、自分の仕事を客観的に見ることができなくなりがちです。客観的に見るということは重要で、そこから見えてくるものは他にも沢山あるはずなので。

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