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それ往け!東京迷宮監理局・倫理観企画部

公用装甲車が強化弾丸の一撃を受けて激しく揺れる。背中の義脊髄の最終調整が終了し、神経に強化されたシグナルが駆け巡る。ARHUDが同期し、バイタルと武器の残弾数、敵味方識別信号が表示される。装甲コートを纏い、隣の新人君の肩を叩く。

「緊張してる?」
「えっあっ、……はい。大学で一通り戦術は習ったんですが、大規模戦闘は初めてで」
「殺人も?」
「いえ!高校の頃に三回程度は……」
「じゃあ大丈夫ですよ。僕らがサポートするので」

少しニキビの目立つ顔がARHUDに覆われ見えなくなる。だが深呼吸の仕草でまだ緊張がほぐれていないことがわかる。初々しいものだ。

≪距離200。五秒後に"スカベンジャー"と接敵します≫

オペレーターからのアナウンスと同時に僕とゴトウ、新人君の左腕に【倫理観企画部】のホログラフ・アームバンドが表示された。

◆◆◆◆◆◆◆◆

池袋サンシャイン跡、地面の隆起と陥没によりビルやマンションが融合し、殺人苔や毒カビに装飾された巨大構造体。そこに突き刺さるように延びる20号線を、武装バンが駆け抜け、公用装甲車が猛追する。

『止まれ、東京迷宮監理局だ!冒険者の遺骸盗難(スカベンジ)は禁止されている!』

警告無視を確認し、装甲車の側面ドアを開放、スーツ脇から義脊髄のサブアームが展開し、霊体アンカーを伸ばす。

武装バンにアンカー固定、高速牽引、靴底やスーツの接地面が硬質化し火花を散らしながら、身体をバンへ引き寄せて行く。

バンのルーフが展開、阿修羅のごとき多腕の重装盗賊が対物マシンガンを乱射する。衝撃波でゴトウの軌道がぶれる。かち上げを喰らって無防備な彼の頭に対物弾丸が叩き込まれ、ザクロみたいに散らばった。

『ゴトウさんが!』
『集中!ゴトウ死に慣れてるから平気!』

恐慌する新人君の通信に答え、左腕の霊式を起動、もう一丁の対物マシンガンが此方に向いた瞬間、霊体アームを延ばし、相手の手首を捻り上げる、轟音と共に撃ち上げられる弾丸。右手の機動拳銃で遮二無二撃ちまくる。

強化弾丸は重装盗賊の外殻を削ってはいるが、肉を断つには至らない。硬すぎる。新人君は対物マシンガンの嵐を抜け、盗賊に肉薄、アーマード・合気道の一撃で片手を撥ね飛ばしていた。しかし、隙を突かれて盗賊のサブアームにのどわを極められている。

『新人君踏ん張れ!』
『う……ッス……ッ!』

アンカーの高速牽引で距離を詰める。踵の霊体ブレード機動。相手のサブアームも霊体を起動した。一撃、反らされる。二撃、かわされる。三撃、つばぜり合い。

拮抗状態。新人君のバイタルが危険域に──。どうする?引きずられているゴトウの死体が映る。どうする?どう──。

刹那、道路脇の雑居ビル外郭が崩壊。破片でエア・サーフィンの如く滑り落ちてきた武装女子高生の高周波ブレードが、新人君をつかむ盗賊アームをたやすく切断した。

盗賊は斬られた勢いを利用して、多腕のブレードを全て展開し、我々の微塵切りを試みる。迫り来る刃の嵐。我々は舞い散るビルの破片から破片に飛び移り回避。公用装甲車へ舞い戻る。

『ありがとうございました!』

僕の礼に武装女子高生は親指と小指をたてた仕草で返礼する。

『豊島第二女子学園高校・課外殲滅活動部副部長のウチヤマです!義によって助太刀します!』

ラメとビーズでデコレーションされた機甲マスクから快活な名乗りが響く。ウチヤマさんは高周波ブレードを八双に構え、重装盗賊を威嚇する。

さて、ゴトウと冒険者の遺骸を回収しつつ、なんとか武装盗賊を殲滅できないか──と、考えを巡らせていると、装甲車が緊急アラートをかき鳴らす。

刹那、地響き。マスク越しにもわかる死臭が漂い、無数の殺気が肌に突き刺さり、ゾワゾワと不快感が這い上がる。

後方を見る。


我々を猛追する、殺人苔(ミミック)の津波に、さまざまな動物が混ざりあったような生命体の群れ、群れ、群れ!

『『『郡体急襲(パンデミック)だぁあぁあ!』』』


【つづく】

アナタのサポート行為により、和刃は健全な生活を送れます。