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サイオン・オブ・ドラゴン─エドワーズ卿諜報録─

『連邦』の保安局員はわたしの体をまさぐり、いまいましさと困惑の入り交じった表情を浮かべる。『目当てのもの』を、わたしが持っていないことに混乱しているのだ。

「この件については『帝国』外務省より、貴国へ抗議させてもらう。外交官に無礼をはたらいたとな」

護衛のウォルターを手で制す。沈黙。ラウンジの視線が一斉にあつまる。飲みかけのウィスキー・グラスのなかで氷がカランと音を奏でた。

「──いささか気分を害した。部屋で呑み直したいのだが、構わないかね?」

わたしは杖の石突をわざとらしく鳴らす。保安局員は背後に控えた上役に目配せする。そして絞り出すように沙汰が下る。

「失礼、致しました。エドワーズ卿──」




◆◆◆◆◆◆◆




≪只今、『連邦』保安局による保全点検を行っております。乗客の皆様にはご協力を──≫

「到着まで5分か」
「手配してきますので、お待ちを」

ウォルターは恭しく一礼し、退室する。わたしは船室のソファに身を預け、杯を充たす酒を嚥下した。

グラスの中には氷と、琥珀色の宝石。宝石を手に取る。酒精と達成感でほほが緩む。


外交官というのは、わたしの副業だ。

『帝国』伯爵にして王立間諜局のスパイ、それがアーサー・エドワーズ本来の顔。



窓を見る。黄昏の光が雲海を照らし、空を駆ける鷲獅子(グリフォン)の羽を黄金に輝かせる。蒸気式航空客船『アリョール』は、あと5分で『帝国』領空へ到着する。あとは降下すれば──。


黄金の光が軌跡を描く。猛スピードで鷲獅子が突貫してくる!

──衝撃、暗転、視界が滲むが、直ぐにクリアになった。



私を組み伏せる鷲獅子。紅く輝く瞳。

船外に投げ出されずに済んだが身動きはとれない。手には輝く『暁の竜胤』。非常ブザーとうねる風とともに、怒りを伴う唸りが響く。


なんということだ。この宝石をねらうのは『帝国』や『連邦』だけではない。

この鷲獅子もだ。


【つづく】

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