月刊テキストマイニングレポートVol.32:フェミニズムへの憎悪を扇動する「オタク政治家」――荻野稔研究

本稿は、「コミックマーケット97」第2新刊『月刊テキストマイニングレポート総集編2 続・ツイッターにおける女性差別に関する考察』の第4章として書かれたものです。

4.1 はじめに

本書の締めとして、まえがきで採り上げた荻野稔・太田区議について採り上げたい。筆者はtwitteRを使って、荻野のアカウントである「@ogino_otaku」を検索ワードに、リツイートされている荻野のツイートを集計した。集計を行ったのは2019年12月12日の深夜で、API検索を用いている関係から、国際標準時で2019年12月11日15時17分から2日15時51分までの34,089件のツイートが取得できた。その中からリツイート27,169件を抽出して集計すると、一番多かったのは漫画家による自分の活動の紹介だが、その他にも反差別やフェミニズムを揶揄するようなツイートが多くの支持を集めている(改行を「/」に置換している)。

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「女性に言ったら、外国人に言ったら問題になるが、日本人男性なら問題にならない、炎上しない」案件なんかもそうだろうけど、差別的な言動、侮辱行為でも許される総量の違いがあるように思う。それは良いのだろうか? / / 強者はどこにもいない。人類全てが弱者な…(全体3位、1,630件)
見ず知らずの虐待親に凸した経験からすると、漫画やイラストにツイッターでケチつけるより、よほど大変だと思う。 / 児相の方、実際の現場で子供の保護、自立支援にもっと目を向けるべきだと思うし、えっちな漫画があろうとなかろうと、あの親達は止まらない。(全体8位、800件)
外国人へのヘイトスピーチは悪で日本人へのヘイトスピーチは善となる判断がわからん。表現の自由の議論は別として、人権侵害と言う視点でみたら、日本国憲法は人権が個人のものと捉えているのだから、民族も出自も少数多数派も同じではないか。 / 暴力を振るって良…(全体9位、776件)

例えばヘイトスピーチ規制法や性差別批判というのは、荻野の言うような《女性に言ったら、外国人に言ったら問題になるが、日本人男性なら問題にならない、炎上しない》というものではなく、そもそも「日本人男性なら問題にならない」というものについても、例えば性暴力を批判する形で「女性だけの街」を望む、というツイートをした人がバッシングを受けたり、性差別や性暴力を批判する発言を「男を敵視するのか」と飛躍した理解をする人も多いのではないか。さらに、ヘイトスピーチが社会における権力関係から生まれることを踏まえると、日本人が社会的多数派である日本社会において「日本人へのヘイトスピーチ」というものは考えづらいということになる。それこそ「あいちトリエンナーレ」における戦時性暴力や戦争加害に関する展示、そして反差別運動などをそのように表現しているのかもしれないが、何の断りもなく「日本人へのヘイトスピーチ」という言葉が出てきている時点で、荻野の言説は右派系の議論との親和性があるものと推測される。

ところで私は、この荻野のツイートについて、回帰分析を使って、どの単語がリツイートの件数を増やす要因になっているのかを検討した。

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これを見ると、漫画(ただし「アニメ」は負)や性差別、性暴力、そして野党や差別(ただし「民主党」は負)についてのツイートはリツイートを増やす要因になるという結果が生まれた。このことから、荻野はまさに漫画などを消費する層に向けての政治家ということになる。そして、その政治家がフェミニズムや反差別運動に対しての憎悪を煽っているわけである。そのことについて、今一度考えてみたい。

4.2 荻野に反応するアカウントの特徴を検討する

「@ogino_otaku」を検索ワードに検索を行うとリツイートとリプライの両方が取得できるので、これらを集計し、リツイートやリプライのような荻野への反応を示しているアカウントを次の通りに分けた。

分類A:リツイート1件のみ
分類B:リプライ1件のみ
分類C:リツイートとリプライの合計が2~4件
分類D:同 5~9件
分類E:同 10件以上

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この中で圧倒的に多いのは分類Aである。荻野のツイートをたまにリツイートするとき、もしかしたらそのツイートは荻野がはまっている「Fate/Grand Order」かもしれないし、あるは活動内容の紹介漫画かもしれない。従ってこの層を基準として見ることができるだろう。ここから、観測されたアカウントすべてに乱数を振り、母集団の特性を活かして乱数が大きい順番から抽出するという系統抽出を行った。ツイートは2019年12月12日に400件取得し、国際標準時で2019年11月11日から12月10日までのツイートを分析に用いた。

全体での出現数が2500以上50000以下の単語279語を対応分析で分類とともに布置すると、分類A,C,D,Eが概ね横一列に並ぶことが確認された。基準とも言える分類Aは、主にゲームの話題なのに対して、分類Eは政治の話題が多くなっている。ちなみに分類Bが縦軸の下の方向に振れているのは、荻野に批判的なリプライを行った人が紛れ込んでいるからと推測される。

政治に関心のある人が政治家のツイートを多くリツイートするのは当然、という見方もあるかもしれないが、プロットの右側には「女性」や「差別」「野党」などといった言葉もある。

report032_本分析_対応分析_2500以上50000以下279語

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