若者論批判歴20年の同人作家が語る、「こたつ記事」で不安を煽るメディアに対してプロ野球ファンが取るべき態度(文春野球フレッシュオールスターゲーム2023投稿作品)

名前:後藤和智
年齢:38歳(1984年11月15日生まれ)
テーマとするチーム:東北楽天ゴールデンイーグルス

「ああ、またか」

とある日の夜、スマートフォンの通知に、「楽天イーグルス・石井一久監督の休養で後ろ盾を失った田中将大がセリーグに移籍か」という記事の通知が流れてきた。その情報源は、週刊誌「A芸能」のウェブ版「A芸プラス」だった。

皆様ご存じの通り、2023年7月2日現在、私の応援している東北楽天ゴールデンイーグルスはパシフィック・リーグにおいて最下位に位置している。そして昨年夏から続く低迷期から、この手の記事をネット上で見かけるようになった。この手の記事を書く人間の中には、なんとしてでも田中将大と浅村栄斗を移籍させたい人間がいるらしい。この2選手は、2023年現在も楽天イーグルスに在籍している。そのほかにも、

「サイバーエージェントが楽天イーグルスを買収か」
「ホリエモンが楽天イーグルスを買収か」
「石井監督辞任で次期監督に古田敦也が就任か」
「巨人と楽天が大型トレードか」

などなど。ちなみに2021年には「楽天・牧田和久+αと巨人・小林誠司+αがトレードか」という記事が踊ったが、実際に起こったのは巨人・炭谷銀仁朗と楽天・金銭のトレードだった。

こういった記事は、主としてプロバイダーや携帯キャリアなどのポータルサイトに掲載される。そしてGoogleもポータルサイトの記事をサジェスチョンとして流してくることが多い。このポータルサイトの「拡散力」がくせ者で、ツイッターでは、元の情報源であるメディアの記事よりも、特にヤフーニュースやライブドアニュースといった二次配信サイトの記事のほうが多く拡散される。

私の関心の範囲の問題かもしれないが、この手の無責任な記事は、楽天の他、昨年最下位だった北海道日本ハムファイターズ絡みも多く見られた。北海道も東北も、かつて「蝦夷」やら「白河以北一山百文」やらというふうに蔑まれてきた地だ。チームの低迷だけでなく、こういった歴史的な要因も含んでいるのだろうか。

2020年頃から、「こたつ記事」というものが問題視されている。プロ野球関係のこういった記事も、情報源が極めて不明瞭であることから「こたつ記事」に類するものと見なした方がいいだろう。元々は2010年にITライターの本田雅一が作った言葉で、本田は《こたつ記事というのは、ブログや海外記事、掲示板、他人が書いた記事などを“総合評論”し、こたつの上だけで完結できる記事の事を個人的にそう呼んでます。自分たちでこたつ記事が優れていると宣言している方もいれば、言ってない方も。柔らかな言い方をすると“文献派”の方々》と説明している(注1)。だが2020年頃から問題視されている「こたつ記事」は、主に週刊誌やスポーツ新聞といったメディアが、ツイッターやテレビにおける「著名人の反応」として左派政党や左派論客、及び保守派であっても彼らに肩入れしていると見なされた人間への攻撃に使われることが多い(注2)。メディアにとっては、発言の責任をいざとなったら発言主に転嫁できるし、そして何よりもネットで攻撃に晒されやすい層への攻撃を、自らの手を汚さずに行うことができるという点で「一石二鳥」なのだろう。

プロ野球の話に戻るが、この手の記事を真に受ける人はほとんどいないだろう。多くの人は、「ああ、またこのメディアか」「むしろこんなメディアの存在自体がエンターテインメントだろう」と笑ってスルーするかもしれない。だが、チームが低迷していると、「こんなことを書かれても仕方がない」と思う人も出てくるし、こういった記事が存在・配信されること自体に不安を覚え、その不安や怒りをチームにぶつける人も出てくる。

私は長い間若者論に対する批判的検証を行ってきて、その経験から女性、LGBTQ+、外国人などに対するネット上の差別にも取り組んできた。その経験から言えることは、「チームが低迷しているからと言って、不安を煽るような記事の存在を正当化してはいけない」ということだ。1990年代から2000年代にかけて、少年犯罪不安ややいわゆる「ゆとり教育」によって若い世代が劣化しているという論説が多く出回ってきて、私はそれに対して反論する記事をブログや商業メディアなどで書いてきた(注3)。だがそれらの記事に対しても「そもそも自分の実感として若い世代は劣化している」という「反論」が寄せられることが多い。

だが、「実感として」劣化していると感じていても、不安を徒に煽るような記事や言説は差別的なことだ。「プロ野球の最下位のチームだから」「今どきの若者はすべからく大人に問題視されるものだから」といって「自然なもの」として正当化する態度は、そのうち他の差別も同様の論理で正当化してしまうだろう。それだけは許容してはならない。

また、そういった無責任な記事を掲載するメディアに対しても反省を求める必要がある。流しっぱなし、不安を煽りっぱなしで終わらせる態度には、断乎としてノーを突きつけなければならない。そういえば、毎年のように出される、「古田敦也が楽天イーグルスの監督に就任」という記事を書いている人、いい加減自己検証してみませんか?

注1 本田雅一「なぜ「こたつ記事」は増えたのか 10年前に作った言葉がにわかに注目を集めた理由」ITmedia NEWS、2021年1月7日配信記事 

注2 池上桃子、赤田康和「やめられぬ「こたつ記事」 スポーツ紙が陥ったジレンマ」朝日新聞デジタル2020年12月19日配信記事 

注3 例えば、後藤和智「「ゆとり世代」学力低下はウソだった~大人たちの根拠なき差別に「ノー」を!」現代ビジネス、2016年4月21日配信記事 



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