月刊テキストマイニングレポートVol.27 フェミニズムへの憎悪を生み出す構造――リツイート分析による「表現規制反対派」の布置

本稿は、「コミックマーケット97」第2新刊『月刊テキストマイニングレポート総集編2 続・ツイッターにおける女性差別に関する考察』の第1章として書かれたものです。

(2020.09.18 一部肩書きの訂正を行いました)

1.1 はじめに――分析の概要

本章では、リツイート分析を用いて、「表現規制反対派」と呼ばれる論客の立ち位置について考察することとする。

まず、リツイート分析について説明したい。本書で言うリツイート分析とは、筆者が『Twitter Analysis Maniax――twitteR, Excel VBA, KH Coderによる最強(?)のツイッター分析』(コミックマーケット86)で提唱している手法であり、詳細については同書に譲るが、特定のアカウントにおけるリツイートの状況を通じて、近い立場の論客を布置するというものである。
リツイート分析においては、フリーの統計解析ソフト「R」のパッケージである「twitteR」(twitteRについては、石田基広『Rによるテキストマイニング入門 第2版』(森北出版、2017年)を参照されたい)を使って、下記のコマンドを用いてツイートを取得して行う。

data01 <- searchTwitter(searchString="@スクリーンネーム",n=取得数量,since=開始時期,until=終了時期)
data01 <- twListToDF(data01)
dat <- data01

そして、得られたツイートの内、「RT @スクリーンネーム:」で始まるものを、当該アカウントのリツイートとするものである。また、ツイートを取得する時間の短縮のため、n=8000とし、8000件で打ち切るものとした。そのため、リプライが多いアカウントについては、基本的にリツイートが少なくカウントされてしまう可能性もあることを承知されたい。

本書で分析の対象とする「表現規制反対派」とは、アニメやゲームに対する「表現規制」に反対する論客のことを指す。ただし、この系統の論客においては、国家における検閲や統制――例えば、2019年に開催された「あいちトリエンナーレ」における、戦時性暴力や日本の戦争加害をモチーフにした作品の展示に対する名古屋市の介入など――よりも、フェミニズムやアンチレイシズムの立場に立つ論客による批判(法規制を求めるものではないものを含む)を指すものと見られる。例えば、この「表現規制反対派」の代表的な論客のひとりである、大田区議の荻野稔のツイートを引用してみる。

今、誰もが子供達を守りたいと考えている。ならば自分の欲求を果たす為だけに、無関係の創作物をお気持ちで焼いて良い訳がない。
現にツイフェミと呼ばれる方々はこのような時にも戦闘を仕掛けてくる。彼らはかつての女性解放運動から膨れ上がり、逆らう者は全てを悪と称しているが、それこそ悪であり
人類は衰退しました!と言い切れる。
TLを御覧の方々はお分かりになる筈だ。
これが彼等のやり方なのです。我々の趣味嗜好が番人受けしないのも悪いのです。
しかし、ツイフェミと呼ばれる方々はこの日本では被害者の居ない創作物は合法であるにも関わらず、児童ポルノと混同し破壊しようとしている。
諸外国の政府の高官たちは創作物を汚染して、人類にとっての宝を破壊している!
もはや日陰でやり過ごすのは無理と判断して行動を始めた。
表現規制反対派はそのための尖兵に過ぎず、この日本に亡命したかのように表現を求めてくる皆さんの力も借りて、創作表現全体を守っていかねばならないのです!

荻野は、例えばフェミニストやそれに親和的な論客――私含む――の批判を《自分の欲求を果たす為だけに、無関係の創作物をお気持ちで焼》くというようなものとしているが、その内容を差し措くとしても、フェミニストなどによる批判の内容を見ずにここまで敵視してしまえる様はまさに扇動者と言える。そもそも《被害者の居ない創作物は合法であるにも関わらず》とあるが、表現をめぐる議論は「合法であるかどうか」に限ったものではなく、また政治家としても創作者としても(荻野は同人サークルの主宰でもある)その批判に対して謙虚であることをこのような過剰な敵視で逃げているようにしか見えない。

さらには、こういったフェミニズムなどを敵視する「表現規制反対派」は、彼らが「お気持ち」と呼ぶものの法規制すら許容する発言をすることもある。漫画家・漫画原作者の山本貴嗣は、

「傷ついた私」は無限に何かを要求できる打ち出の小づちで水戸黄門の印籠だと思ってる「お気持ち真理教」はやく絶滅してほしい。もっともナントカ過激派といっしょで特定の指導者が滅びても似たような他人が引きついで存続するからたぶん滅びない。なんらかの法規制が望まれる。

https://twitter.com/atsuji_yamamoto/status/1191344677292691456

と、正面から法規制を求める発言をしている。
これらの「表現規制反対派」について、先に述べたリツイートを取得する方法で、統計的手法を用いて論客を布置してみたい。

1.2 多次元尺度構成法による論客のカテゴリー分け

本章では、彼ら「表現規制反対派」のほか、政権批判、フェミニズム、反政権批判などの500程度のアカウントを対象にリツイートの取得を行い、アカウントごとに集計して、多次元尺度構成法を用いて布置を行った。ツイートの取得は2019年11月29日に行い、期間は国際標準時で11月22日から27日とした。集計対象としたアカウントは、取得対象のアカウントを合計3回以上リツイートしたもので、全体で80,642のアカウントが対象となった。そこから、各アカウントに乱数を振り、リツイートの度数分布に基づいて上位から分布が母集団とほぼ等しくなる数のアカウントについて分析を行った(そのため、この抽出は、母集団の特徴に基づく系統抽出であることに注意されたい)。ここからアカウント名を形態素解析エンジン「MeCab」の辞書として登録し、KH Coderを用いて多次元尺度構成法を行った。

画像1

画像2

画像3

2000水準の多次元尺度構成法(基準:Jaccard係数)

report027_ベースデータ_多次元尺度構成法_2000水準

5000水準

report027_ベースデータ_多次元尺度構成法_5000水準

10000水準

report027_ベースデータ_多次元尺度構成法_10000水準

表1-2(キャプションでは下のほうの表1-1)は「表現規制反対派」系統の論客における観測数を示したが、表1-3における2000水準、5000水準、10000水準における論客のカテゴリー分けを見ると、これらの表現規制反対派の論客は、2000水準ではカテゴリー1、5000水準ではカテゴリー5、10000水準ではカテゴリー1のような、政権に近い立場にある右派系の論客ではないが、ツイッター上で有名な左派批判系のアカウントと近いところに布置されていることがわかった。カテゴリー分けのほか、多次元尺度構成法を用いた図上でのプロットでも、右派系の論客の近くに配置される結果となった。反対に、例えば筆者(後藤和智)のように、一部の「表現規制反対派」の論客(今回も集計の対象としている)から「コミケ破壊勢力」と名指しされている論客は、フェミニズム系の論客の近くに布置されている。

図上でもう一つ着目したいのは、所謂「パクリbot」と呼ばれるアカウントとの親和性である。「パクリ」という強い表現を使ったが、ここで言う「パクリbot」とは、ネット上で拾ったのか、おもしろそうな動画をツイートして、多数のリツイートや「いいね」を得るアカウントのことである。このようなアカウントは、ツイートに悪質商法の宣伝などを潜り込ませることもあるが、ただ単純に「おもしろい動画を紹介しているだけ」というのも多い。ネットメディアにおいても、例えば野党政治家などへの中傷で問題視されている「netgeek」のアカウント「netgeek動物」などが、引用元を示さない無断転載で問題視している人も多い。

今回の分析においては、「平成を忘れないbot」「令和を盛り上げるbot」「最多情報局」などを対象としているが、2000水準では右上、5000水準では左上、10000水準では下に布置されている。そのため、この方向のことを「バズり」との親和性という方向軸として考えると、左派系やフェミニズム系の論客よりも、右派系の論客、そして「表現規制反対派」のほうが、こちらの側に位置している傾向が見受けられる。そのため、ツイッターにおける右派系の議論と、「表現規制反対派」の議論は、ネット上における「ネタ」として消費されているという傾向も見受けられる。ただし、「表現規制反対派」の議論に関しては、10000水準においては、左派系のアカウントとこの指向についてはそこまで大きな差になっているというわけでもない。

以上より、アカウントのリツイートの傾向から、「表現規制反対派」と右派系の論客や議論の親和性、そして「パクリbot」による「バズり」との親和性がある程度見受けられる結果となった。右派系の議論、及び「表現規制反対派」の議論は、少なくともツイッター上においては、ある種のコンテンツとして「バズり」系の動画と並行して消費されるという傾向が見受けられる。

1.3 「表現規制反対派」のアカウントをリツイートしている人はこのアカウントもリツイートしています

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