ステーブルコインでの現物出資

I. はじめに

最近「USDTで出資できますか?」という問い合わせが増えてきた。

2023年に資金決済法が改正され、いわゆるステーブルコインが日本でも認められるようになった。

もともと米ドルにpegしたUSDTやUSDCは仮想通貨のボラティリティを回避する目的で流通していたが、

今般資金決済法の改正によりステーブルコインが法制度に位置づけられることで、これらUSDTやUSDCの出資も一般的になってきたことが背景だ。

II. 結論

USDTやUSDCなどのステーブルコインでも出資はできる。

III. ステーブルコインの法律上の整理

2024年5月時点において、資金決済法における電子決済手段として金融庁に認定されているいわゆる法律上の「ステーブルコイン」は存在せず、この瞬間USDTやUSDCなどのステーブルコインは法律上「暗号資産」に分類される。

従って、ステーブルコインの出資は暗号資産の出資と同様の法体系に基づいて整理できる。

暗号資産は金銭ではないため、USDTの出資は金銭出資に該当しない。つまり、現物出資に該当する。

従って、金銭出資に比べるとひと手間かかるので、その点以下で説明する。

IV. 現物出資規制

前述のとおりUSDTは金銭ではないので、金銭以外の出資である現物出資に該当する。

現物出資である以上、会社法上の現物出資規制に引っ掛かる。

発行する株式の価値と払い込まれる財産が釣り合っている必要があり、現物出資は、この払い込まれる財産の価値を公正公平に評価する必要があり、これを担保する手続を現物出資規制という。

具体的には以下の3点が主な規制の概要だ。

  • 500万円以上の場合は裁判所選任の検査役の調査が必要となる

  • 発行済株式の10%以上の株を発行する場合は検査役の調査が必要となる。

  • 払込財産の価値の評価を弁護士/公認会計士が行えば、この検査役の調査が免除できる

これらをまとめると、500万円以上、かつ、10%以上の株を割り当てる場合は、検査役の調査もしくは弁護士/公認会計士等の財産評価が必要になる。

V. ブロックチェーン特有の論点

会社法上現物出資を許容している以上、現物が確かに会社に拠出されていれば、出資は有効に成立したとされ、登記上の問題も起きない。

他方で、出資財産であるステーブルコインの受領はブロックチェーン上での取引であるため、出資財産が引き渡されたか登記官にそれを理解してもらうのが難しい。これが大きな問題である。

具体的には、2つある。

  • 受け取ったステーブルコインは確かに当社の資産か?という観点

    • USDTをメタマスクで受け取った場合は、そのメタマスクは自社が資産を管理するウォレットであって、そこに確実にステーブルコインが振り込まれており、財産的価値が間違いなくあることを登記官へ説明した上で理解いただく必要がある。

  • 送金者を株主として認めていいか?という観点

    • 送金者自身が暗号化されている中で、その送金者に対して株式を発行した上で、送金者が株主であることを登記官へ理解していただく必要がある。

この点、1.の議論に関してはまだノンカストディウォレットよりもカストディウォレットに振り込まれてくる方が、取引所のログイン画面などを提出することで直観的に登記官も幾分か理解いただけるだろう。

ただし、2024年5月時点においてUSDTやUSDCを取り扱っている暗号資産取引所は存在しない。

VI. 株式発行か、もしくはJ-KISS(新株予約権)か

資金調達にあたり株式を発行するか?J-KISS(新株予約権)を発行するか?という問いがある。

株か?JKISSか?の2択は様々な要因でいずれかは決定されるべきだが、ステーブルコインを出資財産とする場合、1点登記上の手続に関して違いがある。

結論から言うと、J-KISSの方が望ましい。

なぜか?

株式を発行する場合、払込財産の証明が求められるが、J-KISSの場合(新株予約権を発行する場合)、払込財産証明の提出が求められないからだ。

つまり、株式を発行する場合、実際に当社が管理するウォレットにステーブルコインが払い込まれているという「V. ブロックチェーン特有の論点の1.受け取ったステーブルコインは確かに当社の資産か?という観点」に記載の説明を行う必要がある。

一方で、JKISSの場合(新株予約権を発行する場合)、払込財産の証明の提出がないため、このやり取りが不要になる。

以上がJ-KISSの方が望ましい理由だ。

VII. 募集事項について

これは、ステーブルコインの出資に関する留意事項というよりもUSDなどの外貨建ての出資に際しても共通して言えることだが、株式の募集事項の記載に関して、払込金額を日本円ではなく、USドル建てにしておかなれればならない。

日本円で記載してしまうと、募集時点から払込時点の間に起きる為替変動分だけ、割り当てる株式数が変わってしまう恐れがあるからだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?