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非常事態、議会の役割。

1.非常事態における思考停止の打破


地震や風水害、感染症感染拡大等、未曾有と呼ばれる事態においては、特定の言葉による思考停止が生じやすい。「復旧の邪魔になる」、「自治体任せでなく、もっと政府のリーダーシップを」。具体的な状況の中で言われるのなら良いが、具体的な状況の考察に至る前に、単にこうした言葉にとらわれ、十分な調査や検討が行われず、実現できた適切な救済がなされないということが考えられる。

このような危惧の意識を持ちつつ、全国地方議会サミット「非常事態への備え これからの議会」(2024.7.10-11)に参加した。

早稲田大学での開催

ちょうど、地方自治法の一部を改正する法律(令和6年法律第65号)が成立したところである。その議案要旨(参議院HPより)には、次のように示されている(抜粋)。

二、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と地方公共団体との関係等の特例の創設に関する事項
 1 国民の安全に重大な影響を及ぼす事態への対処に関する基本的な方針の検討等を行うため、国又は都道府県は、地方公共団体に対し、資料又は意見の提出を求めることができることとする。
2 国民の生命等の保護の措置を的確かつ迅速に実施するため、国は、都道府県に対し、指定都市、中核市等の事務処理との調整を図るために必要な措置を講ずるよう指示をすることができることとする。
 3 国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の規模、態様等を勘案して国民の生命等の保護の措置を的確かつ迅速に実施するため特に必要があるときは、国は、閣議の決定を経て、地方公共団体に対し、当該措置を的確かつ迅速に実施するため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができることとする。
 4 地方公共団体相互間の応援又は職員の派遣について、国による広域調整等に係る規定を整備する。

地方自治法の一部を改正する法律案:参議院 (sangiin.go.jp)

こうしたことに対し、サミットの冒頭、早稲田大学マニフェスト研究所 顧問北川正恭早稲田大学名誉教授は、非常に明確に考えを述べている。ここに引用する。
まず、国と地方は対等・協力の関係であることを強調。
そして、非常事態における議会の役割を述べている。

北川正恭マニフェスト研究所顧問

(略)私が国会議員の時の1993年でございましたが、衆議院と参議院でそれぞれ全会一致で地方分権を推進しますよという決議がなされたんです。そして2年かかってですね、1995年に地方分権推進法ができた。それから5年たって、これは理念法でございましたから、個別の具体の法律に落とし込む、それが2000年の地方分権一括法でございます。
 私は、国会議員をしてて、地方分権を一生懸命やっていたもんですから、みんなに現場でちょっとやれというようなことで、三重県知事になったんですけども、それまでの、中央集権の中で、国は地方をリードしなきゃいけないという上下主従の関係で動いてきたのはですね、一括法によって対等・協力になったということを、もう1回皆さん、是非確認をいただきたいと思います。国と地方は対等・協力なんで、今度の新自治法なんて、本当に私は残念に思うんですけども、新自治法ができたら、国が地方に支持する権限が残っちゃったんですよ。これ、ばかなことだと思います。
 国と地方は対等・協力になった。地方のそれぞれの集合体は、国の全体の利益を考えなければいけないのは、これは当然だと思います。だけども、それと同じほど、全体の利益とそれぞれの地域の権利利益は対等になっているというのは、憲法で保障された我が国の形態なんです。
 だから地方で起こったことは地方で解決をして、国と協議して決めていくというのがコロナだとか、あるいはですね、大災害だとか、あるいは、まあ防衛の問題もあるんでしょうね。緊急事態の時は国の支持権が残ってるんですよ。残っちゃったんですよ。これはね、1995年の分権推進法、2000年の一括法の精神からは全く私は逸脱していると思うので、(略)このあたりはね、本気で考えないと。相も変わらず国の支持を仰いで、上下主従の関係というのを変えていくのが、首長執行部も頑張っていただかなければいけませんが、首長執行部は執行権者ですから、執行するために、予算とかルールがありますから、国の言うことを聞かざるを得ない部分があるのが現実でございます。議員の皆さんは、全く違いますよ。皆さんが説明責任を果たすのは、皆さんを選んでくれた住民の方に対する責任であるわけですから、やっぱりこれはね、本当に戦ってほしいと思います。
 対等・協力の根本の考え方がしっかりしてないと、やっぱり国に要望・陳情・忖度というのが続いていくと思います。政治や行政ですから、一概にはいろんなことで、世の中の理屈どおりにはいかない点もわからなくはないわけですけども、基本的な考え方としてはですね、対等・協力なんです。この言葉が抜ければね、民主国家は成り立たないと思います。ということを是非ですね。私は新自治法は本当に後退した法律だと残念に思ってます。
 従って、やっぱり国と地方が対等なんだということを、権力を持った側は変えようはないんですね。足を踏まれた側の皆さん方からこそ変えていくということを、もう1回起こしていただくようなですね、サミットの決議にしていただけたらありがたいなというふうに、心から祈ります。

 災害時に起こった問題点について、例えば東日本大震災あるいはコロナが起こった時に、オンライン議会をやればいいじゃないの。集まるところがないから、寄れないから、専決処分というのを許していたんでは、ちょっと失礼ですが、極端な言い方すると、議会はいらないんです、そんなの。専決処分が通るなら、全く専制政治ではないですか?だから、そういった先が読めない時に、どうしたらいいかと主体的に考え行動して実践していくのが議会の役割ということで、目覚めた議会の皆さん方がですね、これはおかしいということで、集まらなくてもオンラインでいうことでですね、始まったのが先進的な議会が、国や総務省にあるいは各政党に一生懸命陳情して、オンライン議会が始まったというのは、これ議会のですね、ご努力の成果でございます。
 是非ですね、議会から、いわゆる災害対策をどう考えるかということについて、真剣に今日からの2日間の大会でですね、お考えをいただけたらありがたいなというふうに思うところで、その専決処分を回避しながらするためにはどうしたらいいかっていうのも地方議会の皆さんのご努力でずいぶん進化しました。さらに進化をさせていただけたらとそのように思います。
 そこで、災害が起こった時には、執行部優先というのが中央集権の習慣でございましたから、何か大災害起こった時は、ちょっと失礼な言い方ですけども、一番邪魔になるのは執行部から言ったら議会だってなるんですね。勝手なこと言ってくると。自分とこのことだけ言ってくると。
 言うのが皆さんの仕事だから、権利だから言わなければいけない。だけども、そこにやっぱり問題があってですね、自分が、個々の議員が勝手に動いたんでは、組織体で動く執行部が困るから、私はですね、議長さんを中心に事務局も合わせて、チーム議会全体で災害対応をどうするかという議論を煮詰めていただいて、どうやるかということを決定していただくというふうに、是非お願いしたいと思います。
 そして、個々に勝手な、非常時には、お願いということではなしに、まとめて住民の皆さんのお声を十分聞いて、そして、オンラインも存分に使いながら、オンラインで住民の本当の困ったところを集めてきて、いわゆる執行部に任せる。防災会議にまあ、法律上、議会側から、個々に入れないということではありますけれども、住民代表は参画しない防災改革なんて本当言うと、ありえないんですね。したがって、その対応を、個々の議員さんだけではなしに、議長さんを中心に議会全体で防災会議にどう対応していくかというのをですね、皆さんの議会で、もうずいぶん進んできていて、やっていただいているとことかも多いんですけれども、これを、対策を考えていただくという2日間に私はしていただければ、ありがたいと思います。
 防災のいざ、地震が起きた時にどうするかという議論は、皆さん方が煮詰めていただいて、議会全体でどう対応するか、そして本当に生きた住民の問題点をクリアにしながら、災害復旧に影響を与えていただけたらありがたいなとそのように思います。
 ある都市の議会の皆さんがオンラインで徹底的に聞いたという経験を私は聞いたことがあります。ここは独居老人だ、大変だというのを数字的には行政は把握してます。だけど、その独居老人は隣に長男夫婦がいるとか、あるいは子供さんが3人もいるとか、こういう人と、全くの同居老人と。その独居老人の状態というものを行政はわからない。だけど、議員さんはわかってるわけですよ。そのことが徹底的に細かく執行部に連絡が行って、本当に執行部を助かったというウィンウィンの関係を築き上げていただければと思います。
 議会は、こんなもんだぞとの思い込みなんですね。議員さんに議会の役割は何ですかとよく聞くと、それは執行権者に対する監視機能だというのは、これは、総務省というかねあるいは国会で決めた勝手なことですから これを、打破していただかない限り解決しない。
 憲法で保障されている。二元代表的に執行権者と議事を通じた議決、 この2つがうまくやっていかないといけないのに、最初からなんか執行権者に対して、監視機能では、本当に一部を切り取られたわけです。私が申し上げたいのは、皆さんの最大の仕事は民意の反映ですから、だから選挙があるんです。
 民意の反映とするならば、やっぱりきちっとした意見を反映させようにしていく。執行音がしっかりしてて立派なもんではありますけれども、ここの限界はですね、税金で執行するわけですから、当然平等で公平で公正でなければいけないという建前です。法律や規則に基づいて執行してもらわなきゃ困ります。だけども、その法律が間違っていたらどうしますか?それ変えられるのは皆さん方なんですよ。だから選挙で選ばれて民意の反映ですから、ルール規則が間違ってたら変えたらいい。こういう積極的な意味があって、何か執行権にいちゃもんつけっちゅうだけではありません。
 だから防災会議においてもですね、執行部のやることで、横から見ているだけではなしに、いろんな意見や考え方を、新しい時代の対応を、どんどん話し合いをしていきながら創造をしていくという積極的な意味があるということをですね、私は深くご理解をいただいて、この2日間の議論を通じましてですね、議会こそが頑張ってやっていかなければいけないようになっていただけたらと思います。

(筆者がメモし整理したもの。)

2.非常事態における地方議会の活動

サミットでは、能登半島地震、東日本大震災の被災自治体の議会関係者や首長から、様々報告がなされたが、その内容は他のまとめ等に譲りたい。

非常事態への備え これらかの議会

全国地方議会サミット2024の宣言に、次のような言葉が掲げられている。

・今後、高い確率で予測されている南海東南海地震、首都直下型地震、富士山噴火等々をはじめ、あらゆ る災害に対して実行性の高い「議会BCP」の確立と訓練を実施する。
・災害時に活用できるデジタル技術を議会に積極的に取り入れる。
・災害への備えは議会が主導し住民自治や災害対応への政策を研究し提言する。
・災害時への備えとして、市区町村に1台の「トイレカー」を配備するよう議会から行政へ提案する。
・リアルな対話に加え、ICTやSNS等様々な手法を用いて住民意見を集約する。

全国地方議会サミット2024宣言文より抜粋

こうした宣言に至る報告・議論から、次のような対応が求められるのではないかと私は考える。
(1)発災後、通信環境を確保する。
(2)議員に配布しているタブレット等の通信機器で議員の安否確認、被災状況確認を行う。周辺住民の被災状況や対応策(要望等)の収集もを行う。
(3)被災状況、対策(要望等)を全議員で共有する。内容について、議員が事態把握が適正か、あるいは要望先の認識違いの有無、要望内容と要望時期の的確さ等について、検討、意見交換をオンライン上で全議員が共有できる形で行う。
(4)(3)を受けて、議長を通して、事務的には議会事務局長を通して、議会としての情報提供、対策案等を執行部に伝える。
(5)対策本部に、議長等が議会を代表してオブザーバー参加し、事態と問題意識の共有を図る。
(6)以上のような「議会BCP」を策定する。

これらは、被災経験自治体で実際に行われた例にもよるものであるし、こうした「議会BCP」の策定は、それぞれの議会の固有の状況の中でもある程度可能ではないかと考える。その理由としては、次のような、地方議会における議員へのタブレット配付の状況がある。

早稲田大学マニフェスト研究所事務局長中村健氏による「議会改革度調査」報告より

地方議会におけるPC・タブレットPCの導入が68.2%となっているのである。
こうした中では、上記のような「議会BCP」を具体性を持って構築できるのではないか。
北川名誉教授も言及しているが、執行部だけでは把握できない住民の状況、住民の要望等がある中で、住民に一番接しているのは議員なのだから、そこからの情報等をデジタルツールを使って、混乱を避ける形で、救済策、復旧策等にしっかりと反映させることができれば、住民のより的確な救済が実現できると言えよう。非常事態に議会が遠慮して黙っていることが許される時代は既に去ったのではないかと考える。

3.国会はどうする。

国会はどうであろうか。
私は、『日本政治法律研究』第3号(日本政治法律学会、令和3年3月31日)に、「「変換型」議会の表出」という論文を書いて載せているが、その490頁に、新型コロナウイルス感染症感染拡大期に、国会との連携が政府の対策の重要な要素となったことを次のように記述している。

カールシュミットの委任独裁論に代表される緊急事態時の政府と議会との関係については、様々な考え方があろうが、今日の、これだけマスメディアやSNS等の発達による国民全体への情報伝達と多元的な意見収集が早くなっている中では、議会における方策探求と議会を通しての国民への働きかけは、有効かつ必要なものとなっていると考えて良いのではないか。令和2年(2020年)10月21日の日本政治法律学会研究大会で西村康稔大臣は、この点に関する質問に対し、「議会との関係については、実は緊急事態宣言の時はですね、そのたびごとに、毎回、私自身が、議院運営委員会に出て質疑を受けるということをやってまいりました。この間、ざっくりと言うと、900回ほどの答弁をしてますので、かなり議会には、この法律に基づく措置についても、感染症についても、医療についても、あるいは経済的な支援策についても、議論を、質問を受けておりますので、かなり丁寧に説明をさせていただいております。」とし、(略)「900回の答弁」に象徴されるように、議会との連携が対策の重要な要素となっているとしている。

『日本政治法律研究』第3号490頁から抜粋。

この論文は、未曾有と呼ばれる事態において、政府も与党も誰もが何が正解か分からない状況で、野党の提案も様々政府の政策(立法を含む)に反映され、N・W・ポルスビーの言う「変換型」議会が表出していることを論証するものであった。それに関連するものとして、上記の引用もある。国会が動いておれば、非常事態にも有効であったということを論じている。

問題は、物理的に国会議事堂に議員が参集できないような状況についてである。『法政論叢』第59巻第2号(日本法政学会、2024年1月31日)に、私は、「オンラインを活用した審議をめぐる国会論議等の分析」という論文を書いているが、第208回国会の令和4年3月3日の、衆議院憲法審査会での「憲法第56条第1項の「出席」の概念について(案)」の可決と衆議院議長への報告を取り上げている。その中では、本会議について、「例外的にいわゆる「オンラインによる出席」も含まれると解釈することができる。」としているものの、具体的対応についても詰めることが行われておらず、参議院憲法審査会では同様な意見集約も行われていない等と示している。

法政論叢第59巻第号


(その後、衆議院では、委員会質疑への参考人のオンライン参加について、衆議院規則を次のように改正している。)

衆院 参考人のオンライン参加 「出席が困難」と判断した場合に
2024年6月21日 16時11分
国会のデジタル化に向けて、衆議院では次の国会から委員会質疑への参考人のオンラインでの参加が認められることになりました。与野党は、各委員会が「出席が困難」と判断した場合に認めることを申し合わせています。
衆議院では21日の本会議で衆議院規則を改正することを自民党や立憲民主党などの賛成多数で決めました。
改正された規則では、次の国会から委員会質疑への参考人のオンラインでの参加を認めるとしています。
これについて与野党はオンラインでの参加は、災害の被災地や海外に住む人など、各委員会が「出席が困難」と判断した場合に認め、通信が途中で途切れても質疑時間は延長しないことを申し合わせています。
一方、参議院では各党がオンライン審議を導入できないか議論を続けていて、まずは委員会の参考人質疑のような形で有識者からオンラインで意見を聴く取り組みを試験的に行い、導入に向けた課題を明らかにしたいとしています。

衆院 参考人のオンライン参加 「出席が困難」と判断した場合に | NHK | 衆議院

こうした「オンライン国会」についての制度整備が進んでいないことに加え、68.2%の地方議会のように、PCやタブレットPCを、審議用に国会議員に配布等はしていない。非常事態には、個別に議員との連絡は会派や事務局を通す等をして、とることができるかもしれないが、前述したような、非常事態発生直後から起動する「議会BCP」を構築するには、地方議会より整備すべき条件が多いと考える。災害大国日本である。国会でのこうした点についての検討も推進する必要があるのではないかと考える。

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