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週刊金融日記 第496号 プロのトレーダーはインデックスファンドに勝てなくても億単位の報酬をもらうしもらうべき、ファイザー社がついにコロナ飲み薬を開発、上海蟹の季節です、夫婦喧嘩は弁護士を入れるとポイント・オブ・ノー・リターン、他

// 週刊金融日記
// 2021年11月8日 第496号
// プロのトレーダーはインデックスファンドに勝てなくても億単位の報酬をもらうしもらうべき
// ファイザー社がついにコロナ飲み薬を開発
// 上海蟹の季節です
// 夫婦喧嘩は弁護士を入れるとポイント・オブ・ノー・リターン
// 他

 こんにちは。藤沢数希です。
 今週のマーケットのコーナーにも書きましたが、週末に、世界を揺るがすニュースがふたつほど流れました。まずひとつ目は、ファイザー社が、発症後に服用するだけで入院や死亡を9割減らせる、新型コロナウイルス感染症の経口薬を開発したとのことです。緊急使用申請をしていますが、ピルを飲むだけで重症化を防げる、コロナ禍克服のためのゲームチェンジャーになるかもしれません。

●ファイザー、米でコロナ治療薬の緊急使用申請へ 「圧倒的効果」
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-11-05/R2314VDWLU6801

 米国では、富裕層の多くが資産を株式や不動産で保有しており、これらは値上がりしても、売って利益を確定しない限り税金を払わなくてもいいため、富裕層ほど税率が低い、ということが批判されています。ちょうど、岸田首相が、日本でも金融所得課税強化しようとしているのと同じことですね。
 それで、世界一の金持ちのイーロン・マスクなんかは、直接は現金の給料等もらっていませんから、ほとんど税金を払ってない、と批判されていました。彼は、本音ではバブルのピークで自分の持ち株を売り抜けたいと思っており、トップがふつうにしれっと売ったら怒られるし、もう電気自動車に飽きちゃって、宇宙やりたいんとちゃうか、などと世間から疑われてしまうので、株を売る大義名分を探していたと思います。そこで、この税金問題を利用して、これからTwitterで議決を取って、賛成多数なら持ってるテスラ株(20-30兆円)の1割売る、と宣言したわけです。そして、Twitter投票の結果、売ることになりました。
 どれほど世界の市場に影響が出るのか、興味深いですね。

●「米富裕層、税金ほぼ払わず」ベゾス氏らの納税記録暴露
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN08F810Y1A600C2000000/

★つい先程、Twitterでの投票結果が出ました。これで2、3兆円のテスラ株が売られ、とうとう念願のキャピタルゲイン税を支払えます。しかし、スケールが桁外れですね。

 今週も読者から興味深い投稿がいくつもあります。見どころは以下のとおりです。

- 一度離婚話をしてから夫婦仲が回復することはあるのでしょうか
- 出会いアプリで知り合った女子大生と初回アポでゴール
- ショパン国際コンクール入賞の幼馴染男女について
- 妻の両親がアメリカ在住で子供ができたらアメリカに留学させることを考えています

 それでは今週もよろしくお願いします。

1.プロのトレーダーはインデックスファンドに勝てなくても億単位の報酬をもらうしもらうべき

 FRBはテーパリングを予定通り実行することになりましたが、それにしても株式市場のコロナバブルはすごいです。何も考えずにインデックス投資をしていた人たちは、大きく資産を増やしました。アメリカの代表的な企業500社で構成されるS&P500種指数は、2020年は16.3%、2021年はこの原稿を書いている時点で、年初来で約27%の上昇です。また、アップルやグーグルやテスラなど、個人投資家に人気の米IT企業がさらに大きなウエイトを占めているナスダック100指数は、2020年はなんと47.6%、2021年はすでに約29%上昇しています。
 こうしたインデックス投資にパフォーマンスで勝てたヘッジファンドはほとんどないと思われます。この2年のパフォーマンスを見れば、一番儲かったのはビットコインやテスラなどを何も考えずに買った個人投資家です。二番目に儲かったのはインデックス投資家でしょう。次に、年金や個人向けの投信などを運用しているアクティブファンドも市場に強く連動しているので大きく勝ちました。こうしたアクティブファンドはロングオンリーと言って、ショートはせずに有望な企業の株のロングだけで運用します。アクティブファンドは信託報酬が1%以上するのがふつうで、それは無駄なコストになりますから、安いインデックスファンドを買え、というのが多くの投資本の「教え」ですね。このようなインデックス教は、最近は多くの信者を獲得しています。
 そして、こうした投資やトレーディングの世界の頂点に君臨するのが、ヘッジファンドのファンドマネジャーや投資銀行のプロップやデリバティブのトレーダーです。僕は、昔、株のプロップとデリバティブのトレーダーをやっていました。
 先日、様々な仕事を紹介しているYouTube番組、外資系投資銀行のトレーダーの仕事を紹介したい、というので、協力しました。動画はなかなかいい出来だと思います。

●外資系投資銀行のプロップトレーダーの仕事

『外資系金融の終わり』 http://amzn.to/2ixif2n

 それで、一番パフォーマンスが良かったビットコインとかテスラ株とか単に買ってた人たちはどういう人たちかと言うと、大した学歴も職歴もなく、アメリカでコロナ給付金をもらって、人生一発逆転を狙って、流行っているものをレバレッジ掛けて目一杯買った人たちです。インデックスファンドとアクティブファンドは、金融業界のふつうのサラリーマンにより運用されています。日系企業だと、概ね大企業ホワイトカラーの年収です。年収700万円から1200万円ぐらいでしょうか。外資系のアセットマネジメントだと2000万円ぐらい行くかもしれません。このインデックスファンドやロングオンリーの人たちが、市場全体の上昇で、(一部の)個人投資家の次にパフォーマンスが良かったわけです。
 そして、外資系投資銀行のトレーダーやヘッジファンドのファンドマネジャーは、金融業界のトップの人たちです。報酬は数千万円以上です。実績を出して大きなリスクを取れるようになると、億単位の報酬も珍しくありません。香港はアジアの金融拠点なので、石を投げればそんな人に当たります。金融はいまでも人気業種であるので、この人たちは高い学歴だったり、証券会社やロングオンリーの運用会社で頭角を現して、チャンスを掴んだ人たちです。金融業界のベスト・アンド・ブライテストの集団と言っていいでしょう。動画で解説したように、結果を出せなければクビ、という厳しい世界でもあります。
 ところが、このベスト・アンド・ブライテストの人たちのパフォーマンスは、このような上げ相場ではインデックスファンドに勝てません。そして、勝つべきでもありません。株式ロング・ショートやイベントドリブン戦略など、ヘッジファンドにはさまざまな投資戦略があるのですが、その目的は、市場環境に依らず、運用者のスキルで稼ぐことです。いろいろ例外もあるのですが、このカテゴリーのプロたちは、市場全体の方向に賭けることが許されていません。株の運用だったら、ロングのサイズとショートのサイズをほぼ同じにしないといけなかったり、証券会社のトレーダーなら、デルタリスク(市場全体の方向に賭けるリスク)があまり取れないように管理されていたりします。
 なぜ、そのようになっているか、というと、簡単に言えば、市場全体の上昇に賭けるなら、単にインデックスファンドを買えばいいからです。株式市場全体はリスクプレミアムがあるので、上昇する確率のほうが下落する確率よりわずかに高いので、インデックスファンドを買うのは期待値プラスのゲームです。しかし、プロのトレーダーは、このプラスの期待値を放棄して、リスクをコントロールしながら稼ぎ続けることが求められているわけです。このような話は、以下のバックナンバーにくわしく書きましたので、興味のある方は読んでください。

週刊金融日記 第300号 なぜプロ(雇われ)のトレーダーは相場の上昇に賭けないのか

 さて、前置きはずいぶんと長くなりましたが、読者の方からの質問が来ています。今週号では、ファイナンス理論の効率的市場仮説というのが、当たり前ですが、間違っていて(程度問題なので完全な効率性というのは100%間違っています)、プロのトレーダーはけっこうコンスタントに稼ぎ続けるということを解説し、僕の金融キャリアでは、この効率的市場仮説を信望して本まで書いたことは、いま振り返ると、大きなマイナスとなった、ということを書きたいと思います。

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