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色のあるモノクロ。

「名前だけでいいから貸してよ」高校のとき写真同好会の友から声をかけられた。特典は、暗室でお昼寝できること。酢のにおいのする暗室だった。

試しに撮ってみる?と友から一眼レフを渡されてシャッターを切った。現像からプリントまでのレクチャーを受け、暗室で印画紙に映像を焼き付ける。赤い光の中、現像液の中で白い紙に映像が浮かび上がってきた。いつだ。いつ引き上げれば、自分の見た光景になるんだ。タイミングがわからない。停止液につけ、定着液につけた。暗室に白い光が満ちた。目の前にモノクロの世界があった。

広告業界に身を置いた。商品撮影と暗室にこもる日々。いま思えばコピーライターだったのに、なぜか暗室にいた。たぶん、イメージした写真に出会いたかったんだと思う。自分が納得できる。

会社の暗室は2つあった。ひとつはフジ専用。もうひとつはコダック専用だった。どちらもモノクロだ。フジは印画紙の種類でコントラストを調整する。コダックは照射するときのフィルターでコントラストを調整する。

たとえば黒髪の少女。

その黒髪のシルエットに重点を置きたいとき、ボクはフジを選ぶ。フジはコントラストを明確にする。強い意思を感じる黒だった。

その黒髪の質、キューティクルを感じるような黒を求めてときはコダックを選ぶ。コダックはあいまいな黒、眠いようなボヤけた世界。

何時間も何日も暗室にこもった。自分のカラダが闇に染まるんじゃないかと思えるくらい。

そんな白と黒のモノクロの世界。純粋な白でも、純粋な黒でもない。グレイにも白より黒よりの濃淡がある。モノクロの中の黒髪の少女なのに、赤い唇さえ感じる。色のあるモノクロの世界だ。

写真て深い。そう思いながら暗室から離れた。

そしていま。街中でモノクロ写真に出会う。郷愁ではなく今を撮ったモノクロ。その中に色が…モノクロなのに青い空、碧い海…色艶やかなドレス…プロの写真家が思いをこめた作品だ。

モノクロのことばかり書いたけど、ボクは色あせたカラー写真も好きだ。そんなカラー写真にも思い出がある。カラーフィルムのシャッターを切る。カメラ屋さんに持っていく。数日後、カメラ屋さんからプリントの入った袋をもらう。袋の中から、あの時の写真、プリントが束になって出てくる。一枚一枚を丁寧に見ていく。ドキドキの世界だ。いまフイルムを使う若者もそれは同じはず。撮り直しのきかない瞬間の写真。

写真にはそのときの色がある。モノクロにもすべての色があるんだ。

#写真が好き

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