公務員の妻です。わたし、馬券師です。 ➖ GW編 ➖(No.2)
わたし、地方公務員の妻です。専業主婦です。子どもは小学校5年の男の子と幼稚園年少組に通う女の子のふたり。夫はホント公務員でよかった…てか、はっきり言って公務員しかできないタイプのヒトです。わたしから見たらノルマのないサラリーマン。民間ならとっくにリストラ組だろと断言できちゃいます。そんなことも本人は気づかず、あの課長が、どこそこの会長が無理を言うとか、窓口にとんでもないクレーマーが…ていつも家で愚痴ってます。だいたい人生の中で一般の人が何回役所に足を運ぶっての。せいぜい引っ越しとか結婚、就職、免許取得のときくらいじゃないの。ガマンすりゃいいのよ。嫌なことがあっても3年もしたら、たいてい異動なんだから。
そう、その異動が問題。行くとこによっては服装にも気をつかわなくちゃいけない。作業服ぽい制服がある部署ならいいんだけど、毎日ネクタイしめてなんてところだと、Yシャツだけでもたくさん必要、そのぶん手間が増える。手間にはお金がかかる。チリ積モの出費なんです。ホント、ふざけんじゃないわよ。給料が倍になるってならスーツの一着や二着なんてハハハなんだけど。どんどん目減りしてるっての。
はい。この春、夫はとんでもなくお金のかかるところに異動になりました。ボディブローをくらう3年間になりそうです。
足りません。
このままでは子どもたちの明るい未来がイメージできません。節約してちまちまとお金をためてもYシャツ1枚でパーです。出張なんかあると完全な持ち出しです。それどころか手当もないのに、おみあげまで買うんですよ。うちにじゃなくて、自分の職場に。ふざけるな!です。公務員の出張は旅行か!(そういえば夫が言ってました。公務員は出張の交通費を旅費っていうらしいです。それってやっぱり旅行じゃん)
ホントに足りません。
残る道はやっぱりギャンブルです。足跡の残るネットではなく、その場で現金がつかめるギャンブルです。パチンコやパチスロはダメです。時間がかかりすぎて育児に影響します。ママチャリで30分。商店街の外れにある場外馬券売場。ここがわたしの戦いの場。そう競馬です。
わたし、馬券師です。
実家は自営業、暇さえあれば競馬新聞を開いていた父です…父の弟、おじさんも似たようなもんです。子どものころ、おじさん家に遊びに行くとおじさんが親役、従妹とわたし相手に花札、マージャン、おいちょかぶ。子ども相手に平気でおこづかいを巻き上げるおじさんです。おかげで、幼少の頃から、わたしなりにギャンブルとはを学びました。あるときのお正月なんて、おじさんからもらったお年玉がその場で消えたことがありました。
「いいか。タダでお金をもらおうなんてあまい考えじゃだめだ。汗水流して地道にっていう意味じゃないぞ。かせぐんだ。知恵と流れをつかんで」おじさんの口癖です。父ちゃんは、おじさんの後ろで、「おまえは知恵も運もないくせに」と酔っぱらいながら笑っています。
話がそれちゃいそうです。わたし、馬券師として家計を支えてます。
負けません、競馬では。
正確に言うと、全部勝つわけではありません。でも、最終的にプラスで終わらせる。これがわたしです。
異動が決まった4月。子どもたちもどんどん大きくなって、大きめに買った洋服もあっという間にリサイクルショップ行き。恐怖のGWも迫ってきます。もち、家族旅行なんてドラマの世界の話。せいぜいファミレスでの外食が1回。ニュースで流れる空港や新幹線の混雑…フェイクです。きっとマスコミが芸人やエキストラを雇っての作り話なんです。
大型連休だと子どもたちがリビングで騒いでいます。夫もいっしょになって。あんたも子どももカレンダー通りの日常だろと言ったわたしがバカでした。夫は大型連休になるように休みをとるそうです。働け。子どもといっしょに騒ぐな。どこにお出かけるできる予算があるのよ。海だ、山だ。そこの公園であそんで近くの銭湯にでも行け。同じだろ。「人生のなかで子どもたちと過ごせる時間なんてほとんどないんだよ。楽しめるときに楽しまなきゃ。学校もカレンダー通りだけど、いまは休める時代なんだから」と夫がほざきます。子どもたちと長~い時間を過ごしてんのが誰だかわかってんのかしら。「大丈夫。レンタカーも早割で予約済。あとは行き先だけだよ」と夫。だからどこにお金があるんだよ!
レンタカー代、お金をかけずに旅行だとしても1泊2日で…やっぱり5万円はいる。もっと長くなるとその倍は…一日の食費2,000円でがんばってんのよ。
二日分だとして4,000円…四日分だとして8,000円。その金額を元手と考えて8,000円を10倍にすれば80,000円ね。そのお金があれば…どこにそんな都合のいい話があるかっての。8,000円を倍々にしていくとしても、4連勝しなくちゃいけない。イチローだって3割打者だったのよ。4連勝がどんなに至難か。
でも、わたし馬券師です。
なんとかします。行き先の予約も考えると、4月22日か23日、土日のどっちかで。あ、日曜日は夫の実家に行かなきゃならないのよね。となると、4月22日、主婦として家事をこなしてこそのわたしなのよ。土曜日の午後ね。
元金は1万円で行く。1万円を8万円にすればいいのよ。
うちの父ちゃんは『ハチの一刺し』て言葉が大好きなのよね。
わたしが小学校のころだったと思う。父ちゃんが「女って怖いよな」とニュース番組を見ながら言ってた。ある女性の一言で総理大臣がひっくり返った事件。たしか「ハチは一度人を刺したら死ぬ。今の私はハチと同じ…」てな実話。父ちゃんがおれの馬券も同じだ。JRAにズバッと一刺し、大きな穴を空けてパーと豪遊して、あの世に行ってやると有馬記念ですっからかんになったのよね。ま、それはいまもいっしょ。いったい何度死んでるんだか。一刺し、一点で大儲けなんてバカだわ。だいたい、一刺しで死ぬのはミツバチ、何度も刺して人に大きなダメージをあたえるのはスズメバチなんだから。
一発勝負はしない。このレースは荒れそうだ。多点張りで万券だ、そんなのは愚の骨頂。もち、多点張りで万馬券はOKよ。ただし、荒れそうだなんて誰もわかんないんだから。荒れそうなレースを3つ4つ選んですべてに網を張らなきゃ。資金がいるのよ。100倍の万馬券を10点でとる。それって10倍の馬券をとったて意味。みんなカン違いしてるのよ。1,000円使って、そのうちの100円が1万円になるのも、そのうちの500円が1万円になるのも、1000円が1万円になるのも結果として同じなんだから。
知ってました? ワイドの平均配当は600円。6倍。ワイドは狙った馬の2頭が1着から3着までにくればいい。1着と2着でも、1着と3着でも、2着と3着でもいいのよ。
平均が6倍なら2倍3倍くらいはざらってことよ。
ふふふ
今回はワイドで転がす。わたしのカンがそれしかないって。
「ママー、旅行にこれ持ってく」と下の娘が押し入れから引っ張り出した浮き輪を胴にはめてる。おまえの行くとこは常夏か。
「ママー、海パンがおへその下までこないよ。あがらないよ」上の息子がチ〇チ〇を下腹ときつきつの海パンではさんでます。そのまぬけかげん、あんたにはパパの血がたくさん流れているね。ふたりとも5月の海は寒いぞ。
(そして土曜日)
ママはちょっとお出かけしてくるわ。そう、お買い物と町内会。お昼は昨夜に残った二日目のカレー。子どもたちが口のまわりを汚しています。かわいい。かわいいけど、その口元をぬぐった手でまちがっても白い壁や部屋干ししてるワイシャツをさわるんじゃないぞ。さわったら泣かすぞ。夫がよそ見しながらスプーンを床に落としました。いい大人が落としてんじゃねえ。床をなめさすぞ。
あー出かけなきゃ。転がすんだからちょっとだけ長帳場よ。頭ん中に出馬表はある。ネットで整理した情報もインプット済み。あとはモニターを見て、わたしの選んだ馬たちを直感で後押し。マークカードを塗るだけ。
ママチャリ号発進準備完了。発進!
「ママーッ!」かわいい息子と娘の声にカラダが反応、ギュッとブレーキ。
振り返った。どうしたの?ママはちょっと急いでいるの。
「きょうのばんごはんはなに?ってパパが聞いてるよ」
ニコッと笑って なーーんでしょう
再びペダルに足をかけた。進行方向を向くわたしの顔は笑っていない。なにが、きょうの晩ごはんだ。そんなものはお馬様に聞けだ。だいたいあんたがもっと稼げればいいんだよ。あんたがたっぷりのお給料をもらってくれば、GWなんか海外だよ。
はっ。また
冷静さを…ギャンブルに勝つ絶対的な要素、それは物事を客観的に見れる冷静さ。
信号待ち、わたしは深~く、深~く深呼吸した。
今日の競馬を考えようと。競馬、1番人気が3着内に来る確率は約60%、すごく高い。もちろんワイドの軸は1番人気。問題は相手馬。確率的なことを考えると2番人気か3番人気なんだけど、わかっていても勝てないのが競馬。でもね、競馬には魔法の言葉があるの。
競馬は同じことは起こらない。
あるレースが1番人気、2番人気、3番人気決着だったとする。じゃあ次のレースは…そう競馬の神様は微妙に変えてくるの。そこを狙う。もう一つ大切なこと。1着から3着までの2頭は1番人気から5番人気までがほとんどだってこと。ま、5番人気は微妙なんだけど。つまり、前のレースが1番人気、2番人気、3番人気決着だったら次のレースは1番人気から4、5番人気を狙うみたいな思考が大切なのよ。
わたし、負けません。
着いた。さーて、まずは東京、京都、福島3場、前半レースの確認ね。
東京も福島も荒れ荒れ。人気通りに来ない日。となると狙いは京都だ。
締め切りギリギリ、買わなかった5レースは1,2,4番人気決着。
行くよ。
来るよ。ポーンとおなかをたたく。ごめんなさい、昭和世代にしかわからない漫才だわ。おじいちゃんが好きだったのよね。今いくよ、くるよ。
6レースは1番人気から3番人気ワイド1点に3,000円。知ってるの、私は自分の的中率を。だから、いきなりはいかない、暴走しない。資金を分散してまず3,000円。
ヨシッ! 3.4倍だ。持ち金17,200円。
1.3.4番人気だったから7レースは1番人気から2番人気へ。ワイド1点に5,000円。
ガハッ。
3.4.7番人気決着だ。持ち金12,200円。
8レースはもう一度1番人気から2番人気へ。深追いはしない。ワイド1点に5,000円。
ヨシッ!2.5倍よ。持ち金19,700円。
9レースは1番人気から3番人気ワイド1点に6,000円。
ぐがぁ。
1.2.7番人気決着だ。持ち金13,700円だ。
10レースは1番人気から3.4番人気ワイド2点に各3,000円の計6,000円だ。
ぐげぇ。
1.8.10番人気決着…持ち金7,700円。
や、やばい。でも、持ち金が77なんて、なんかラッキーな気がするわ。
勝負よ。1番人気から2番人気に4,000円。3番人気に3,700円。
よぉおおし!
1.2.3番人気決着だよ。2倍と4.7倍だ。
持ち金は…25,390円…
さーて、最終レース。ほんとにラスト勝負よ。最初に言ったよね。
前のレースが1番人気、2番人気、3番人気決着だったら次のレースは1番人気から4、5番人気を狙うって。その前に言ったよね。5番人気は微妙…て。今日の京都、前半は5番人気が絡んでたけど、後半はさっぱり。そう、さっぱりな流れなのよ。
問題はわたしの的中率よ。ここまで3勝3敗の5割。すでにわたしの的中率を超えている。競馬の神様はイジワルなの。これしかないってときに必ず裏切るの。裏切るときは相手にすごく悔しい思いをさせるのよね。
4番人気はメイショウベッピン。ベッピン(美人)だなんて私のピッタリな馬名。でも、出走表の中にもう一頭11番人気メイショウカクウン…がいるのよね。レース中、私がメイショウと叫べば叫ぶほど、このメイショウカクウンが飛んできて私を地獄に突き落とすのよ。
ウインズの床に膝まづく私が浮かぶわ。
今のお金を持って帰ってGWは日帰りBBQだってありなのよ。家族にはこう言うわ。おじいちゃんがとても調子悪いの(競馬の)おじいちゃんがしんどいときに私たちだけが楽しい思いできないでしょ。近くの川べりでお肉でも食べましょう(川べりには食材になる野草がたくさん。抜き放題よ)
はっ 締め切りが近い。買わなきゃ。そう、私、プロの馬券師です。
最後はきっちり刺してやろうじゃないの。スズメバチのように。
(スタートしました。)
なになに、2番が逃げるの。けっこうな逃げね。あんたは買ってないよ。
1番人気は4番アスクコンナモンダ、2番人気が10番ディオ、そして4番人気の5番メイショウベッピン。メイショウカクウンは11頭立て11番人気大外11番よ。なんかぞろ目で気になる…
直線よ。そろそろ捕まえなきゃ。そうそう、外からかぶせちゃえばいいのよ。
あとすこし!4番と5番が抜けた。いや外から10番。えええええ中から11番!
ええええええええええええええええ
ゴール板を過ぎた。
1着4番。2着10番。3着…わかんない…
私の手には11番頭の馬単流し4.5.10があるのよ。どれが来ても10万馬券なのよ。でも…
11番が3着だとしても負けたわ。負けた。
そう負けたのは、馬単各1点100円の計300円の夢見る馬券。ホントだったら買わない馬券。
長い写真判定、きっとカップラーメンの3分より短いのに。
ああ、3着に5番が点滅している。
私の手にはもう一枚、1番人気と4番人気のワイド1点4-5 25,000円があるの。
ふふふ ふふっふ ふ ふ ふ 3.7倍。
25,000×3.7=92,500円、残金は92,590円
ふふふふふ
馬単は負けたけど、ワイドは勝ったわ。神様、引き分けよね。
(大勝負のときほど、ちょっとでいいから真逆の馬券を買っとくものよ。素人は押さえ馬券を買うけどね。プロは上手に負ける馬券を買う。押さえ馬券なんて同じ思考から出た、手を広げただけの馬券、わたしから見ればお金を捨ててるのと同じよ)
ふふふふふ
GW…どこに連れていってもらおうかしら。
ただいま。
「おかえりー おかえりなさーい」
「きょうのばんごはんはなに?」
きょうはね二日目の後半カレーよ。
「またカレー」
言ったじゃない「ナーンでしょう」て。
ちょっと気分を手作りナンでカレーを食べるわよ。
旅行まで節約しなくちゃ。(完)
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