第五十九話【帰省】(Vol.581-590)
Vol.581
ヒロシも帰省組だ。
ただ、父親が仕事で遅いため
職員が家に送ることになっていた。
自宅は同区内にあるので
車での送りだ。
車に乗り込んでから声をかける
「気をつけてな」
「あ〜。うん」
「正月は何して過ごすん?」
「わからんわ。だらだらちゃうかな」
「そっか」
会話が続かない
Vol.582
「ヒロシは正月どうして過ごすん?」
「わからん」
「そっか。父ちゃん仕事なんかな?」
「わからん」
「また話聞かせてな」
「わかった」
沈黙の中、ヒロシの家まで着いた。
「じゃ、良いお年を」
「おーありがとう」
(“ありがとう“を言ってくれた)
ただ、それだけで嬉しかった。
Vol.583
ヒロシを送ったあと
学園に戻ったボク。
子どもたちと今年最後の風呂に浸かった。
「あーもー今年が終わるなー」
と呟くボクに
「まだまだ夜はこれからや」
とワクワクを隠せない子供達。
この後は、年越しラーメンが待っている。
何を隠そう、このボクもワクワクしていた。
Vol.584
19時半
紅白が始まった。
しかし、子供たちは興味なし。
ダウンタウンの
“笑ってはいけない“派が多勢で
「こ、こ、紅白観ようや」
「却下」
チャンネル権は子供に奪われる形となる。
Vol.585
仕方ない。
ここは子どもたちに権利を委ねよう。
寝そべって
一緒に時間を過ごす。
これまでボクの年越しは決まって
紅白だったが
今、新しい風邪が吹いた。
ダラダラ観ながら
ゲラゲラ笑う。
そんな過ごし方もあるんだな。
Vol.586
22時がきた。
内線がなる。
「そろそろ行こか。」
「はーい」
このときばかりはすこぶる早い。
(よっぽど楽しみにしててんな)
颯爽と車に分かれて
レッツゴー!
一度でみんな行けないため
ピストン作戦だ。
もちろんボクは運転手さ。
Vol.587
年越しラーメンの店は毎年違う。
事前にリサーチしておく。
人数が人数だけに
貸し切りたいところだが、
そういうわけにも行かない。
ここはしっかりと
一般の方と同じように
“待つ“のである。
その間に、せっせとピストンするボクだった。
Vol.588
3回ピストンすることで
全員を無事に送ることができた。
そーこーしているうちに
はじめについた子どもたちはテーブルにつき、オーダーを伝える。
普段は上限がきまっているものの
この時ばかりは無制限。
基本はラーメン、餃子とチャーハンを好んで選ぶが
唐揚げや酢豚なども楽しんでいる。
Vol.589
大盤振る舞い
まさにその言葉がピッタリとあうだろう。
ただし、そこにはルールがある。
“残してはならない“だ。
好きなものを好きなだけ食べることができる特別な日だが、
“命をいただいている“ことは忘れてはならない。
無駄にしてはいけないのである。
「残しちゃダメだよ。」
Vol.590
子どもたちはそれぞれのテーブルで年越しラーメンを楽しんでいた
運ばれてくる
ラーメン、チャーハン、餃子に唐揚げ
どれも湯気が立っていて
美味しそうだ
笑顔で談笑しながら食べる
子供達の姿もほっこりしている
見ていて嬉しい。
ただ、ボクは運転係
先に食べ終えた子を送る指名がある
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