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第六十話【拉麺】(Vol.591-600)

Vol.591
「美味しいね」
そんな会話が聞こえてくる

食事を終えた子から
先に食べ終えた職員と共に
輸送を開始

「お兄ちゃん!ありがとう。美味しかったわ」

(ボクが代金を払ったわけではないのでどこか気まずい。)

「園長先生にお礼を言おうね」

子供達のためにと考えてくれる人がいる。




Vol.592
食事を済ませた子を送り届けると
ようやく席に着くことができた。

「ヒロ兄さんは何にする?」

「よっしゃ!兄ちゃんは豚骨ラーメン大盛りで!」

ラーメン一択

いつも“大盛り“にしてしまうのは
高校時代からクセだ。

そろそろ歳だからと思いながらも
お腹いっぱい食べる感覚が好きなんだ




Vol.593
ようやく辿り着けた
年越しラーメン。

豚骨ラーメン大!
豚骨スープに浸ったラーメンを箸でかきあげる。

湯気がふわっと顔を包みこむと同時に
濃厚な豚骨の風味が押し寄せた。

(あぁ〜しあわあせだ)

美味しいものは我慢すれば我慢するほど
美味くなる。これは間違いではないな。




Vol.594
4月から駆け抜けた8ヶ月。
気がつけばもう年越し。

本当に早いなと思いながら
ラーメンを啜る。

初めはどこかぎこちない関係も
今では自然と馴染みつつあった。

一緒に暮らすってこういうことなんだな。




Vol.595
「ごちそうさまでした」
両手を合わせて感謝を伝える。

「美味しかったです」
とお店の人に伝える。

実はコレ、ボクのこだわりのスタイル。
どんなお店に入って出る時に
「美味しかったです」と伝えている。

ちょこっとだけ勇気がいるが
今では慣れた。

感謝の気持ちを伝えたいからだ。




Vol.596
別に言わなくてもいい言葉。
「こっちは客なんだから必要ない」

昔、友達にそんなこと言われたこともあったけど
やっぱりボクは伝えたい。

「美味しかったです」と。

言われた方はきっと嬉しくなるだろうし。
ボクなら嬉しいから。

人が喜ぶことをボクは自分がしたいだけなんだ。




Vol.597
お店の人にお礼を伝えて
子供達を車に乗せる。

「美味しかったなぁ〜」

「お腹いっぱいや」

そんなたわいもない話をしながら
時計を見ると23時を回っていた。

もうすぐ年を越える。




Vol.598
「じゃ〜みんなで年を越すか!」

「そやな」
と早速のってくれたのはこうただ。

「お兄ちゃん。コーラで乾杯しよ」

「そやな」

中男部屋に小学生も集めて
みんなにコーラを注いで回る。

「0時と同時に乾杯な!」

そう言いかけた瞬間にフライングする子もいる。

「まてい!」




Vol.599
「30秒前や!」

いろんな番組でカウントダウンが始まった。

「グラスを持って!」

「サン・ニぃ・イチ」
「明けましておめでとうございます!かんぱーい」

グラスを高く持ち上げて
一気に喉へ流し込んでいく。

キツい炭酸がシュワシュワと喉を流れいていった。




Vol.600
新しい年が明けた。
保育士になって初めての年越しだ。

8ヶ月前には想像できなかった
【今】がある

世の中には親と一緒に生活できない子がいる
理由は様々だ

そんな一人ひとりと縁があって
一緒に過ごしている

自分が何かの役に立てているのかな。
そして思う。

もっと役に立ちたいと。

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