#17 一夜(BL、2021)紹介
10月10日に発行するBL同人誌『眩しくて見えない』収録作です。
タイトル通り、とある「一夜」のできごとを描いた話になります。原稿用紙21枚、文字数7000字程度と、自分の創作史上最短の物語になります。
ミニマルな話を作ってみよう、という試みで書かれたもので、もともとBLを書こう!という気持ちで書いたものではなかったのですが、できあがってみるとこういうのもBLとしてありかもナ〜と思って今回収録するに至りました。
肉体労働の青年と、大学准教授の青年のとある夜の話です。
意見は分かれるかもしれませんが楽しんでいただければ嬉しいです!
以下、冒頭を掲載します!
*
肩と肩が、瞬間激しくぶつかった。私はよろけ、傘を利き手に持っていたせいで不安定になっていたiPhoneが、左手からぽろりとこぼれ落ちた。
打ち所が悪かったのか、ケースに入れていたiPhoneの画面にあっさりとヒビが入り、そこから激しく打ち付ける雨が浸入した。そしてあっという間に画面がブラックアウトしてしまった。
大雨の降る新宿で、私は途方に暮れてしまった。これから、アプリで知り合った男性と会う予定だったからだ。しかし、約束は一時間後で、待ち合わせ場所は具体的にはまだ決めていなかった。私は本屋で時間を潰しながら、男性と連絡を取って待ち合わせ場所を決めるつもりだった。普段はもっと早めに約束を決めるのに、なぜ今日に限ってそれを怠ったのだろう? 私はうんともすんとも言わなくなってしまったiPhoneを、まるで電波を求めるみたいに左右に振ってみたが、当然何も起こりはしなかった。
念のため携帯会社のショップに向かって話を聞いたが、修理が立て込んでいるらしく、今日の受付はもう終了してしまったと伝えられた。同時に画面の破損だけの修理でも保険に入っていない私は数万円を請求されるという話を聞き、なんだか気が萎えてしまった。水没となると、修理額は更に上がるという。
携帯ショップを出ると、いつの間にか雨は上がっていた。まだ店の軒先から雨の残骸が滴り落ちている。しかしそれももう終わるようだ。私は虚しさを通り越しむしろ清々しい気持ちになって、予定の空いた新宿の街へと繰り出した。
とりあえず、新しいiPhoneを買おう。
(続きは同人誌でお楽しみください)
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