戦前ベストセラー読書会に参加して

2010年の秋から自分のよろず読書会(新宿文藝シンジケート、略称SBS)を始め、ことしで11年目になるのですが、昨年から友人のかんさんの読書会(戦前ベストセラー読書会)に参加させてもらっています。研究者の方々が揃うなか、自分だけただの人なのですが、自分以外の読書会も面白いものです。きょうはその第4回目で、厨川白村『苦悶の象徴』という作品について感想を述べあいました。

厨川白村は戦前は京都帝大教授にまで上り詰めながら、関東大震災の津波が原因で若くして亡くなるのですが、そういえばきのうの深夜の大きな揺れには驚かされました。しかも、報道によれば今回の地震は10年前の東日本大震災の余震らしいのです。われわれ人間にとって10年という時間の長さはそれなりの重みがありますが、地球という天体のレベルで考えれば10年などわずかに瞬きするくらいの短い短い時間なのかもしれませんね。

厨川の著作は100年くらい前に刊行されたものなので、国立国会図書館のデジタルデータを用いて閲読するのですが、可読性にやや難があり、贅沢を言えた義理でもないのですが、もう少し何とかならないのかと思います。立場の違いはむろん否めないのですが、民間の有志が熱意をもって運営している青空文庫を何らかの手本にしてほしいものです。

ぼくは2020年11月の末から禁煙を続けており体調が悪いままなので、7-80ページしか読んでいないのですこし恥ずかしいです。簡単にいうと『苦悶の象徴』は当時最先端の学問であったフロイトが創始した精神分析を援用し、文藝の至上性を論じるものです。いま読むと白村が立てた結構そのものに首をかしげる感じですし、きわめて実存的な世界観も、ぼく自身哲学に親しんできたので「京大教授がこんな身勝手に論じていいのかね」と疑問を感じましたが、1924年に改造社から出たものですし、100年くらい前の日本の評論をほとんど読んでいないためにその驚きが大きかったのかもしれません。

ぼくは実存哲学に長く関心をもっているので、当時の厨川における哲学や心理学の影響は気になりました。フロイトのほかにはショーペンハウアーやベルクソンなどの名前も出てくるので、白村の言説におけるそういった哲学の影響を観てゆくのも一興かもしれません。ところで、早稲田大学の張競さんが厨川白村の評伝を専門誌で連載していると耳にもしたので、いずれ機会があったら読んでみようかと思います。厨川の『近代の恋愛観』(1922年、改造社)は刊行当時国内でも話題になり、中国語訳され台湾や大陸でも熱心に読まれたそうで、そういった点についても興味を惹かれます。実際にさらに彼の著作を読み進めていくかどうかは別として、とても貴重な読書会に参加できたので、その喜びも含めてここに記しておきます。


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