【脚本】「還っていく人の耳で聴く、とある一夜」(短編10分)
■登場人物(2~3名)
・フ ァ イ : 土 地 の 長 の 一 人 息 子 。
・サ ン: 農 民 の 家 出 身 。
・「わ た し」 : 聴 き 手 。
■ あらすじ
「わたし」は夜明けまでの一時、この暗闇の中で〝彼ら〟の言葉に耳を傾けていようと思う――。
生い茂る草むらの中で語らうのは、真夜中に屋敷を抜け出した用心棒のサンと、彼を追いかけてきた主人のファイ。虫の音色と初夏の風が彼らを優しく包み、静かに見守っている。
■上演時間
約10分
■キーワード
ファンタジー/会話劇/声劇
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わたし:初夏。涼しい風が、少しだけ湿り気を帯び始めている。場所は、背の高い草が生い茂る高台。「わたし」が向いている方向は、切り立った崖になっているらしい。下には、田植えを終え、薄く水を張った水田。虫の鳴き声が方々からしている。「わたし」は草むらの中で、ただそれらを感じている。
「わたし」の後ろから、草を分ける音が足早に近づいてくる。そして遂に、「わたし」の後ろに生えていた草を乱暴にかき分けた。
ファイ、登場。
ファイ:(スンスン、とあたりの匂いを嗅いで、ひとつため息)ここにいたのか…。
ファイ、「わたし」の右側に音もなく居座っている何かに向かって、
ファイ:おい、こんなところで寝るな。サン。おい、サン!
サン :ううん。
ファイ:うっ、お前今日はやけに匂うな。起きろ、この唐変木!(と、サンが毛布替わりにくるまっていたであろう羽織りを引っ張り上げる)
サン :おおお…!
サン、派手に転げる。虫の声、止む。
サン :いてて…てめぇ、なにしやがんだ!
ファイ:(声を抑えつつも強い口調で)お前こそ灯りも持たずに何をやってる!
と、少し遠くの家屋から、男と女の声が入り混じった笑い声。
ふたりとも、思わず押し黙る。
ファイ:…なんだ、ただの宴会か。
サン :しいっ…!
ファイ:…?
間。
しばらくすると、虫たちがまた鳴きはじめる。
サン :(小声で)ほら、アンタがうるさいからだ。
ファイ:(小声で)お前だろう先に大声を出したのは。
サン :ああ、さぶさぶ。まだ夜は冷えるなあ。(と、再び羽織にくるまって寝転がる)
短い間。
サン :…何しに来たんです。
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