風録、1stアルバム「さよならポートレイト」発売について(2.楽曲紹介)
本作「さよならポートレイト」は、ポップな曲から不思議な曲、実験的で難解な曲と、非常にバラエティに富んだ音楽性のアルバムに仕上がっており、全楽曲について解説をする価値があるような気がしたので記事にまとめました。
文字通り、作品をより深く味わうためのガイドとしてだったり。
「そういう意味だったのか!」という新鮮な気付きを得る機会になったり。
あるいは「この人一体何考えてんだ?本当に頭大丈夫か?」みたいな、僕に対する一抹の不安要素や疑い(?)が晴れるきっかけになってくれたなら、とても幸いです。
【さよならポートレイト 全曲解説】
1.くもり、時々、晴れ
今住んでいる自宅アパートを出て階段を降りると街の音が広がっていく、曲の冒頭からそんなフィールドレコーディングの音を使い、アルバムの始まりを印象付けた曲。
街の日常の営みとその影、生きづらさに苛まれる陰鬱とした日々の中に見つけた一瞬の光/儚さのようなものについて焦点をあてました。
2.虹の少年
幼少の頃に見てトラウマ&釘付けになった、NHKみんなのうた「小さな木の実」のアニメ映像をイメージしながら作った曲。
「この曲はいつか絶対アニメでMVを作りたい」と以前から思っていて、その念願が現実のものとなった曲。
アルバム先行シングルとして2023/3/31にデジタルリリース&YouTubeにてMVを公開。https://youtu.be/FuC-517QAhI
MVの作画&編集は、加島慎太郎氏(SPOILMAN)が担当。
3.JUSCO JUSCO
今は無き商業施設「ジャスコ」についての曖昧な記憶を綴った、摩訶不思議な変拍子ダンスポップチューン。
我々にとってジャスコとは一体何だったのか?その謎に迫るも、どこまでも荒唐無稽でますます謎が深まってしまう、そんな曲。
あのお店、今では看板がイオンになってるけど、みんな心の中ではいつまでも「ジャスコ」と呼んでいるに違いありません。
ゲストヴォーカルに川上恵里氏(やまのいゆずる)が参加。
4.日曜日のパパ
漠然と季節をイメージして曲を作ることは度々あったけれど、「冬」をイメージして作った曲がこれまで無かったので、改めて冬を意識して作ったカントリー風フォーク曲。
多分、アルバム全体を通してここで箸休め的な聴きやすさを重視した曲があったほうが良いと思い、正攻法で丁寧に作りました。
5.さよならポートレイト 〜関東地方、夏の空〜
音楽活動初期の20代前半の頃に作った、当時挑むにはまだ早すぎたプログレ曲「関東地方、夏の空」を再編曲。
途中目まぐるしく曲のスピードが変わり、完全にノーウェーヴ/即興演奏にまで発展する曲展開のため、長年レコーディングすることができなかった曲。
歌詞の中で語られる「無我夢中でシャッターを切り続けた」というのは実話で、その時に撮影した1枚が本作のジャケットに採用されており、アルバムタイトル曲としました。
ドラムは藤巻鉄郎氏(massimo/Ikema YukoNo lawson/TCS)が参加。
6.僕らのタイムマシーン
J-POP的視点からBeatlesやBeach Boyのサウンドに挑んだらどんな曲ができるのか、という個人的興味から全力で挑戦してみたサイケ路線の曲で、当初はボーカロイド(初音ミク)用に作った曲だったものの、思いのほか楽曲としての完成度がとても高かったので自分で歌うことにした曲。
人類のテクノロジーへの警鐘と反原発をテーマとした70年代サイケポップに、時代考証を無視して違う時代のギターソロを重ねるなど。
ドラムに武藤雄次郎氏(Aureole/ヨソハヨソ)が参加。
7.風船になって
風船にまつわる幼少期の思い出とトラウマ体験をベースに、メタファーとしての「死」をイメージとして織り交ぜた、弾き語り/ポエトリー/ノイズで構成された長尺曲。
ミニマリズムの果てに現実と記憶の境目がノイズを起点に切り替わっていく楽曲構造など、斬新なアプローチが盛り沢山。
最初のアイデア着手から完成まで、じつに3年を要した大作。
8.天国のトビラ
一人の男が亡くなり、向かった死後の世界への扉/輪廻転生/時空を超えて繋がる愛をコミカルに綴ったラブソング。
人生とは一瞬で過ぎ去ってしまう悲劇であり、そしてまた喜劇でもあるのかもしれない、そんな人生の可笑しみを表現しました。
間奏部分ではメチャクチャな奇声を多数発していますが、全て僕一人の重ね録りでやっています(全てワンテイクで録りました)。
9.螺旋の糸
今作で最もエレクトリックなアレンジを試みた曲。
他にもライブで演奏するアコースティックギター弾き語りバージョンもあり、いろんなアレンジが存在する曲でもある。今作では2005年に録ったギター以外の全てを差し替えて大幅に再構築しました。
ドラムは打ち込みですが、もし僕にヨソハヨソというバンドの経験がなかったら、この曲のリズムトラックは絶対に作れなかったかもしれない。
10.夢見る自転車
むかし実家の裏に捨ててあった、補助輪付きのボロボロの子供用自転車を主人公にした曲。
僕が小さい頃に実際に乗ってた自転車で、もし今でも僕を乗せている夢を見ていたとしたら、それは素敵な夢だろうなぁと思い、その夢を描いた作品。
いつか僕もこの世を去る時、こんな夢を見れたらいいなぁと思っています。
ゲストヴォーカルに川上恵里氏(やまのいゆずる)、ドラムに田辺恍輔氏(SPOILMAN/ヨソハヨソ)が参加。
11.陽だまりの丘に眠れよ
初めてアコースティックギター弾き語りを前提として作った曲であり、若くして亡くなった家族に向けた別れと祈りをテーマにした曲。
「陽だまりの丘」とは、実家の墓がある実在の霊園を指した言葉。
以上、楽曲解説でした。
個人的な思い入れは全ての曲に対してありますが、アルバム全体の中で最も印象深い1曲を挙げるとすれば、
10.夢見る自転車
かもしれません。
この曲は、風録がバンドだった頃の初期の曲で、元々は人生を自転車になぞらえて"人生は続いていくんだ“という意味合いを、回り続ける自転車のペダルに見立てて作った曲。
歌詞に登場する"君の街まで400キロ 走れ 走れ“という言葉は、僕の故郷(宮城県栗原市)の事を表していたり、当時は他ならぬ自分自身に向けて作った曲でもありました。
しかしその数年後に起きた東日本大震災の時、2週間にわたって実家と連絡がとれず、実家を目指そうにもガソリン不足で車が使えず、一時期本気で自転車で400キロの道のりを帰ろうとした(被災地での食料不足が伝えられる中、自分が行くだけ皆に迷惑がかかると思い結局やめた)事があり、あの未曾有の被害に隔てられたその400キロという距離について、原曲を作った頃とその意味合いが大きく変わってしまった。
そんな経緯があって、元々の「生きていくことを表現した自転車の曲」から、「天国へ旅立つ自転車の曲」として、曲そのものを根本的に書き換えるに至りました。
この曲の編曲はアルバム全体の曲の中で最も難航し、アレンジ違いを7バージョンくらいレコーディングしてはボツにした。
意地になって300テイクくらいギターを録った末に削除したパートもあった。
今回のアルバムのレコーディングでは一番の難産ではあったけれど、作品に新たな眺望が見えてきた時の感慨は言葉では言い表せないものがありました。
【トレイラー動画】https://youtu.be/OUOqj94mgrU
【CD】https://ultra-shibuya.com/products/4526180650461
【デジタル&配信等】https://ultravybe.lnk.to/sayonara
【歌詞カード】※サブスク等で聴いていて歌詞を知りたくなった人向けにフリーダウンロードで用意しました。
【さいごに】
風録の音楽について、以前からよくノスタルジー(郷愁)が感じられる、という趣旨の感想をいただく事が多々あります。
それは僕の作品が表面的に散りばめたエッセンスを超えて、聴いた貴方がこれまで生きてきた人生の中にあった「記憶の片隅にあった何か」を連想させた結果だとしたら、とても嬉しい。
それは、貴方が聴くことで初めてこの作品が完結したことを意味し、それはつまり「貴方」も作者のひとりになった証なのだと捉えています。
これは僕自身、最もミュージシャン冥利に尽きる状態だと思っているので。
次回作は、それらを昇華させた先にある抽象的な概念みたいな部分にもっとアクセスしていこうと思っています。
自分自身の記憶や自己表現という閉じたキャンバスを積極的にバンバンはみ出していきたい。
以上、長文にお付き合いいただきありがとうございました。
世界に平和が、そしてより多くの人に幸せが訪れますように。
高橋@風録
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