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中村不折の龍眠帖の挿し絵

 李公麟山荘図20首  蘇轍


  2024年 令和6年 甲辰年



1首目  訳文
龍眠山は清浄な水につつまれている
ここで龍がかすかに声をあげるとあたりには雲雨がたちこめる
この建徳館に隠棲する李公麟こそが
清らかな風をもたらす主人であることが分かる





2首目   訳文
ここ墨禅堂では何ものにも捕らわれることのない自由な悟りの道を体感できて
いつも外物と一体になってすべて清浄なる禅の境地に浸ることができる
一塊の墨からどのようにして伸びやかであったり縮まったりしながら描き出される
見事な山川の世界が生み出されるのであろうか





3首目   訳文
仏の口から説かれる教えは、波瀾の翻るようにさまざまの様相を見せるものであって
最初から一定した心に迷いのない禅定の境地などありはしないのだ
その禅定の境地を絵に描いてみせるのも
仏の本性にかなうのではないだろうか





4首目   訳文
清らかな谷川のほとりに稲が植わっている
秋も末のころとなって稲は雲と連なるようにして熟した
収穫したものをうすづくを見るのを待たないでも
秋の風のなか、穀物はもう十分に約束されているのだ




5首目   訳文
山の樹木が開けたところに路が次第に姿を見せるようになり
山から小川が流れ下ってやはり川を作りあげている
旅人がここ発真塢で休息することができれば
真実の意が初めて心安らかななかで了解されるであろう





6首目   訳文
山の住まいは華やかさとは程遠いもの
ここキョウ茅館(きょうぼうかん)には茅を引いてきて清浄なる屋室が結ばれている
ここでは世俗の塵を受けることもなく
隠逸の生活を送る李公麟も新たにその恩恵に浴している





7首目   訳文
小川の流れが岩の割れ目に出合い
多くの細い筋となって流れ下り見事な水の網を作り上げている
その水を阿弥陀如来を荘厳する瓔珞に見たてるならば
山が阿弥陀如来のお姿ということだ





8首目   訳文
石室はがらんとしていて主人の姿は見えず
浮雲だけが勝手に行き来している
山外の俗界には今頃春の雨がたっぷりと降っていることだろう
帰ろうとすると風にのって雷の音が聞こえてきた





9首目   訳文
世の中の道徳は粉々になってしまったが
道理さえ貫き通せば道徳に違うというわけのものではないのだ
この山川の自然に何があるのかといえば
平生の生活が間違いであることをいつまでも感じさせてくれることだ





10首目   訳文
万物を生育させる春が長くは続かず
すぐさま木の葉が枯れ落ちる季節になることをあなたと共に恨めしく思ってきた
ここ延華洞で仙界の様相を一見することによって
世間の俗悪であることがまことに理解できた





11首目   訳文
両岸に岩がそそり立ち門の形を成しているここ澄元谷には陽光は差し込まず
谷川の淵の鏡のような水面に月がいつでも光を投げかけている
風がわずかに谷間を渡っていく
対象となるものをじっと見つめることによってそのものの心持ちがわかるというものだ





12首目   訳文
巌に咲く花はつかんで手元に引き寄せることはできない
花蕊が空中に飛んで長く地上に落ちないのを見ているうちに
突然、世俗を避けて隠棲するあなたの前に降ってきた
あなたが虚無の世界を観察しつつ座禅しているのを知ったことだ





13首目   訳文
重なり合う崖から滝が流れ落ち
微風に枝を揺らしている高い樹木は、まるで水に浮かぶかのごとくである
この泠泠谷に住む人たちに琴や筑の楽器を送り届けて
家々から演奏が聞こえるようになると、すばらしい座興となるだろう





14首目   訳文
白玉のような龍が昼間に谷川の淵で水を飲み
長い尾を石の壁に掛けている
世俗を避けてここに隠棲するあなたが谷川に下りて龍の姿を見ようとすると
晴天から氷雨が降り注ぐことになるだろう





15首目   訳文
崖に寄りかかるようにしてまるで緑の屏風を開いたかのような樹木の繁みが広がっており
谷川の淵に臨んで苔むした岩が横たわっている
ここには誰も俗人はいない
あなたはこの観音巌の興趣をもう会得されたのだろうか





16首目   訳文
まだ垂雲沜を見ないうちは
家へ帰る思いなどどうしようもない
山路のつきたところで両足がすっかり熱くなってしまった
垂雲沜の水が私の疲れた足を癒そうとしてわだかまる岩の上を洗うようにして流れている





17首目   訳文
乗ってきた馬を置いて大きな岩の間を徒歩で行くと
岩の前に平らな場所があった
肉や野菜を竹籠から取り出して食事をとると
粗末なもので腹を満たしても余味がある





18首目   訳文
こんもりとした宝華巌が
珍しい樹木に幾重にも覆われている
帰宅すれば古代の鼎を手に入れて
ここ宝華巌のわきを流れる谷川のほとりの緑の草を摘んでいって粥を煮てみよう





19首目   訳文
青い岩壁はまるで精錬した鉄を立て掛けたようであり
その岩壁に懸かっている滝は天人の礼装の帯を流しているかのようだ
この山に来てもう長い間景勝を見物してきた
まだここに来たことのない人たちに紹介しよう





20首目   訳文
谷川が深いのでそこに住む亀や魚は思うままに振る舞っており
鋭く切り立った岩場には椿や楠が固く根を張っている
あなたの木蘭の船を借用して
私がわらぐつを履いて歩く苦労をやわらげたいものだ














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