中村不折の龍眠帖の挿し絵 1 風の子(kazenoko) 2024年5月28日 13:40 李公麟山荘図20首 蘇轍 2024年 令和6年 甲辰年1首目 訳文龍眠山は清浄な水につつまれているここで龍がかすかに声をあげるとあたりには雲雨がたちこめるこの建徳館に隠棲する李公麟こそが清らかな風をもたらす主人であることが分かる2首目 訳文ここ墨禅堂では何ものにも捕らわれることのない自由な悟りの道を体感できていつも外物と一体になってすべて清浄なる禅の境地に浸ることができる一塊の墨からどのようにして伸びやかであったり縮まったりしながら描き出される見事な山川の世界が生み出されるのであろうか3首目 訳文仏の口から説かれる教えは、波瀾の翻るようにさまざまの様相を見せるものであって最初から一定した心に迷いのない禅定の境地などありはしないのだその禅定の境地を絵に描いてみせるのも仏の本性にかなうのではないだろうか4首目 訳文清らかな谷川のほとりに稲が植わっている秋も末のころとなって稲は雲と連なるようにして熟した収穫したものをうすづくを見るのを待たないでも秋の風のなか、穀物はもう十分に約束されているのだ5首目 訳文山の樹木が開けたところに路が次第に姿を見せるようになり山から小川が流れ下ってやはり川を作りあげている旅人がここ発真塢で休息することができれば真実の意が初めて心安らかななかで了解されるであろう6首目 訳文山の住まいは華やかさとは程遠いものここキョウ茅館(きょうぼうかん)には茅を引いてきて清浄なる屋室が結ばれているここでは世俗の塵を受けることもなく隠逸の生活を送る李公麟も新たにその恩恵に浴している7首目 訳文小川の流れが岩の割れ目に出合い多くの細い筋となって流れ下り見事な水の網を作り上げているその水を阿弥陀如来を荘厳する瓔珞に見たてるならば山が阿弥陀如来のお姿ということだ8首目 訳文石室はがらんとしていて主人の姿は見えず浮雲だけが勝手に行き来している山外の俗界には今頃春の雨がたっぷりと降っていることだろう帰ろうとすると風にのって雷の音が聞こえてきた9首目 訳文世の中の道徳は粉々になってしまったが道理さえ貫き通せば道徳に違うというわけのものではないのだこの山川の自然に何があるのかといえば平生の生活が間違いであることをいつまでも感じさせてくれることだ10首目 訳文万物を生育させる春が長くは続かずすぐさま木の葉が枯れ落ちる季節になることをあなたと共に恨めしく思ってきたここ延華洞で仙界の様相を一見することによって世間の俗悪であることがまことに理解できた11首目 訳文両岸に岩がそそり立ち門の形を成しているここ澄元谷には陽光は差し込まず谷川の淵の鏡のような水面に月がいつでも光を投げかけている風がわずかに谷間を渡っていく対象となるものをじっと見つめることによってそのものの心持ちがわかるというものだ12首目 訳文巌に咲く花はつかんで手元に引き寄せることはできない花蕊が空中に飛んで長く地上に落ちないのを見ているうちに突然、世俗を避けて隠棲するあなたの前に降ってきたあなたが虚無の世界を観察しつつ座禅しているのを知ったことだ13首目 訳文重なり合う崖から滝が流れ落ち微風に枝を揺らしている高い樹木は、まるで水に浮かぶかのごとくであるこの泠泠谷に住む人たちに琴や筑の楽器を送り届けて家々から演奏が聞こえるようになると、すばらしい座興となるだろう14首目 訳文白玉のような龍が昼間に谷川の淵で水を飲み長い尾を石の壁に掛けている世俗を避けてここに隠棲するあなたが谷川に下りて龍の姿を見ようとすると晴天から氷雨が降り注ぐことになるだろう15首目 訳文崖に寄りかかるようにしてまるで緑の屏風を開いたかのような樹木の繁みが広がっており谷川の淵に臨んで苔むした岩が横たわっているここには誰も俗人はいないあなたはこの観音巌の興趣をもう会得されたのだろうか16首目 訳文まだ垂雲沜を見ないうちは家へ帰る思いなどどうしようもない山路のつきたところで両足がすっかり熱くなってしまった垂雲沜の水が私の疲れた足を癒そうとしてわだかまる岩の上を洗うようにして流れている17首目 訳文乗ってきた馬を置いて大きな岩の間を徒歩で行くと岩の前に平らな場所があった肉や野菜を竹籠から取り出して食事をとると粗末なもので腹を満たしても余味がある18首目 訳文こんもりとした宝華巌が珍しい樹木に幾重にも覆われている帰宅すれば古代の鼎を手に入れてここ宝華巌のわきを流れる谷川のほとりの緑の草を摘んでいって粥を煮てみよう19首目 訳文青い岩壁はまるで精錬した鉄を立て掛けたようでありその岩壁に懸かっている滝は天人の礼装の帯を流しているかのようだこの山に来てもう長い間景勝を見物してきたまだここに来たことのない人たちに紹介しよう20首目 訳文谷川が深いのでそこに住む亀や魚は思うままに振る舞っており鋭く切り立った岩場には椿や楠が固く根を張っているあなたの木蘭の船を借用して私がわらぐつを履いて歩く苦労をやわらげたいものだ終 ダウンロード copy #墨絵 #挿し絵 #龍眠帖 1 この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか? サポート