『流されて』ショートショート
ひとつの銀河系の限定時空内における
宇宙法らしきものが身勝手に制定されてから
犯罪が減ることもない摂理のままに・・・
とある変哲ないリンゴ園の一角。
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「よぉ! あんたは新人さんみたいだな?
何をしてここに?」
「ん? 姿も見えないが・・・オレは生きてるのか?」
「たぶんな。 オレにだってあんたが見えてるわけでもないが。」
「ワタシもいるのよ? よろしくね! やっぱり見えない?
でしょうね。フフッ、、」
「‥‥状況がよくわからないな・・・あんたらは誰だ?」
「ここには・・・見えてはいないが大勢いるぜ!
俺たちには眼もなけりゃ口もない。 だからこうして
心で会話ができることには感謝しようぜ!」
「‥‥思い出してきた。 オレは確か・・・裁判所で裁かれて
流刑地に送られることになったんだった!」
「ここにいるワタシたちみんながそうよ。 みんな・・・
理不尽な法律とかで罪人としてここに送られた!」
「どの惑星だろうと、どんな見た目だろうと例外なく
身体の組織は分解されて・・・被告の意識レベルのみを保持されて
数多な流刑地に送られる。 ここもそのひとつで・・・
あんたは送り込まれてきたばかりってワケだ。」
「何も見えないが・・・自分の身体の存在は感じる。」
「今日はきっといい天気だと思うの。 気持ちがイイし・・・
暖かい陽射しを感じる・・・」
「あぁ、、オレたちもそろそろかもな。 だからきっと
あんたよりは先に行くことになる。」
「そうね、ワタシも熟して、きっと・・・食べごろよ!」
「何のことだ? あんたらはどこかに行くのか?」
「・・・執行される。 って知ったのはつい、最近のことだがね・・・」
「‥‥?!」
「新人さんとお話できて、、楽しかったわ!」
「あんたはまだ若そうだから、、友達でも探すといい。」
「残された時間を・・・いっぱい楽しんでね!」
「‥‥‥‥」
( 何をどう楽しめばいいというんだ?! )
変哲ないリンゴ園の一角で、今日も収穫車が来た。
農夫が下りてきて、熟したリンゴを剪定して収穫する。
彼には、ひとつひとつのリンゴに心があって・・・
かつて犯罪者であったことなど知る由もない。
(終わり)
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