見出し画像

『カフェ4分33秒』③ #毎週ショートショートnote


長い間一緒に暮らしていた愛犬がその命を終えて、悲しみが癒えぬまま
気分転換にと目的もないまま旅に出て・・・とある地方都市の駅で不意に気分のままに降りてしまった。

馴染みもない街を歩いていると、不思議な雰囲気のカフェが目に留まった。
【カフェ4分33秒】と書かれた看板も店のデザインもレトロな雰囲気だったが、ドアを開けると直ぐに受付があり、無人のスタッフであることが注意書きされていた。指示に従い、飲み物を手にして店の中に入った。

刹那、異空間に入ったかと思われた。

注意書きにもあったが、ここは【無響室】。そんな設備がどうしてレトロな
カフェに必要だったのかと訝しんだが・・・ともあれ席に着いた。

残響音さえ感じられないその空間で、少しずつ不思議な気持ちになっていた。それでもすぐに愛犬のことが思い出されて・・・やはり、哀しい想いが自分を支配していた。

BGMさえ無い無響の空間で・・・
眼を閉じて、愛犬との楽しかった日々を想い返していた。

不意に気配を感じて横を見ると・・・愛犬がいた?!

ここは? 遠出の散歩にいつも来ていた河原だった。
久々の愛犬との楽しい時間が過ぎていった・・・!!

そうか、メニューにあった《4分33秒》って、このことだったんだ?!

愛犬の眼差しが「もう哀しまないで!」って訴えているようだった。
そうだな。 ありがとう!!
いつかまた、ちゃんと再会しような・・・!!



店の外には・・・つまらない現実の景色が待っていたが、その日【無響室】のこの店で体験した夢とも現実とも知れない体験は、自分だけの宝物にしようと思った。

この店にもう一度来ようとは思わなかった。

もしかすると愛犬が導いてくれたのかもしれないが・・・
不思議な《4分33秒》に感謝するにとどめようと思う。


【了】



*このお話はフィクションであり、実在の人物、施設、出来事等とは
一切の関係がございません。


*こちらに参加させていただいてます。
今回のお題は 『カフェ4分33秒』
裏お題が・・・『パフェフンフン33秒』でした。

#毎週ショートショートnote 

#毎週ショートショートnote・出品作・他

#シロクマ文芸部・参加作品



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?