見出し画像

『 白い風 』#シロクマ文芸部


春と風のお題に、もしかしたら合うかもと・・・昭和の大昔に自分が描いた
漫画を思い出し、この際にとリメイクしつつ、脚本風に文章化してみました。今の時代とは空気感の違う世界ですし、長いし・・・懐かしいままに遊びつつ書いたこともあってボツにしようかとも思ったのですが、せっかくなので・・・思い切って投稿します。よろしくお願いします。😅



『 白い風 』


春と風・・・

風が大好きだった少年が
春を迎える前までのお話です。

少年の名前は正太郎。

今日も正太郎は走っています。
町も 山も 海も 空も
一瞬に過ぎる風のように

走る 走る 走る・・・


☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆ 


令和からはもう遠い昔、北海道の道東に
まだ蒸気機関車が走っていた頃のお話です。

季節は12月。
全てが白く覆われた銀世界・・・
町からは離れた分校から帰り道を歩く少年がいます。
正太郎は小学2年生です。

「まって~~! 正ちゃ~~~ん!!」

少年は振り返りもせずに先を進みます。
追ってきたのは加代子。同級生です。

「もう・・・! まってくれてもいいべさ。
いっしょに帰ろ?」

「・・・・・・」

「ねぇ、どうして今日一日・・・しゃべってくれないの?」

「・・・おととい、国語のテストでオレのをカンニングしたべや?!」

「・・・だって、席がとなりなんだもん・・・たまたま・・・
な~~んだ、そんなことで怒ってたの? 男のくせに
気がちっちゃいんだなぁ!!」

「・・・?! 
なんでオレがお前のをカンニングしたことに
なってるんだよ!!」

「えっ?」

「おまえのアニキに・・・いきなり
思いっきり頭をゲンコツされたんだぞ!
なんでそんなことになるんだよ?!」

「・・・そっかぁ、ごめんね!
おとといの晩ごはんのときに・・・お母さんが試験のこと
聞いてきたもんだから・・・」

「・・・だからなんだよ?」

「簡単だったもんネ! となりの席の正ちゃんなんか
あたしのをカンニングしてたもんね!・・・って
いってやったのよ!」

「それを・・・あまえのアニキが聞いてたんだな?」

「おにいちゃんのことなんか
気にしてなかったもん・・・!」

「そういうのをアサハカっていうんだ!」

「アサハカって、なによ?」

「ハンカクサイな! そんなことも知らないの?!」

「・・・だから、なによ?」

バカってことだ!」

「・・・・・・!!」


加代子が正太郎の背中にいきなり叫びます。

「あ、おにいちゃんだ!」

「?!」

キョロキョロしている正太郎に

アハハァ! かかったかかった!!」と加代子。

「こ・・・この!?」

「おにいちゃんに いってやるからっ!」

「え?」

「あたしのことバカっていったって!」

「こ、この・・・?!」

キャアアァ~~~!!

加代子をおう正太郎。 でもその先に加代子の兄の姿。
踵を返した正太郎は走り去ります・・・!!
遠くなる少年の背中に・・・


正ちゃ~~ん、ゴメンネ~~~~!!」と加代子。


☆☆☆☆☆


ボォォ~~~~~~~~ッ!!

ガッシュ ガッシュ ガッシュ・・・・・・!!


山の頂上の太い木の幹に腰掛けて、少年は白い大地を走る
蒸気機関車を見下ろしています。

ヒヨォオオォォ~~~~

風の声も聴こえます・・・


ドッドッドッ・・・!! 
バクさんのオートバイの音です。

「よぉ、正坊! そんなとこで何してんだ?」

「バクさんこそ何してんのさ?」

「乗れよ! 家まで送ってやるぞ!!」

「ほんと?!」


ドルン!!


バクさんの後ろに乗って
チェーンをタイヤに巻いたオートバイは走ります。

ダッダッダッダッダッ・・・・・・


バクさんの本当の名前は山田健一郎といいます。
立派な・・・おじさんです。
いつもバイクに乗っているので、みんなが《 バクさん》と呼びます。
町の製材所に勤めていて正太郎とは遠縁にあたります。

バクさんの背中の両脇から冷たい風を感じます・・・

正太郎は風が大好きでした。


ヒュゥ・・・ヒユウウウゥウウ~~~


☆☆☆☆☆


冬休みが始まりました。
半km先の分校が廃校になり、町の小学校に通うようになった
正太郎にとって初めての冬休みです。


ヒョオオオォォォォォ~~~~~


その日は朝から風が強く雪が降っていました。

少しずつ風が強まり、昼過ぎには吹雪いていました。
風も雪も好きな正太郎にとっては
最高の舞台が出来上がったわけですが、一転・・・

最悪の事態が待ち受けていたのです。


☆☆☆


ヒョオオオォォォォォ~~~~~!!


突風に煽られて崖下に転落した正太郎を
営林署の斉藤さんが発見した時にはもう夜になっていました。

正太郎の家は町の中心から2km隔てた山の中腹にあります。
薪ストーブの近くに敷いた布団に正太郎は寝ています。

「正太・・・もうすぐお医者さんが来るからね。
斉藤さんが先生、呼びに行ってくれたから・・・!」

「いま・・・・・・」

「・・・ん?」

「今、夢をみてたんだ。 風がヒュウヒュウ鳴いてさ・・・
そしたらオレ、風になってるのさ・・・」

「・・・?」

「寒いなぁ・・・」

「まって、今・・・湯タンポ入れるからね!」

「いいよ! やっぱり寒くない」

「ちょっとお湯入れて・・・」

「 いいったら!!

正太郎の母は心配そうに様子を伺います・・・
少年の顔色は悪く、息遣いも弱々しくなっています。

「かぁちゃん・・・カヨちゃん知ってるべさ?」

「あぁ、町の歯医者さんとこの娘さん・・・同じクラスだったね。」

「・・・・・・」

「・・・どうしたの? カヨちゃんと何かあった?」

「なんでもないよ!」

「・・・おかしな子だね。」


壁の柱時計の針が8時を周りました。

「先生、遅いねぇ・・・」

仏壇には事故で3年前に亡くなった父の遺影が置かれています。


ヒュウ ~ヒュウ~~・・・

ヒョオオオオオオオ~~~~~~


吹雪が強くなり、風の音が唸りをあげて叫んでいます・・・!

「かあちゃん!」

「なんだい?」

「オレさ、死ぬんかなぁ・・・?」


?! な、なにハンカクサイこといってるのさ!!
バカだね! ば・・・バカなこと考えるんじゃないよ!!

「へへっ・・・じょうだんだよ。」


一瞬、母子の周りが白く包まれたように見えます・・・

消え入るような小さな声で少年がつぶやきます。

「風が・・・・・・」

「・・・え?」


「・・・風が・・・・・・白い・・・」


な、何言ってるのさ、正太?!


少年の息が苦しそうです・・・

・・・・・・?!


「・・・オレ、遠い・・・・・・」



☆☆☆☆☆


風はさらに強まり、山鳴りのように一帯を揺らします・・・!!


ヒョオオオオオオオ~~~~~~

オオオオオオオオオォ~~~~~~!!



☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆ 


北国の少年にとって、長いようで短い冬休みも終わり
今日から新学期・・・☆

風の強い日のことでした。

正太郎は元気に走りながら学校に向かいます。


ドッ ドッ ドッ ドッ
・・・・・・

バクさんのバイクが近付いてきました。

バクさ~~ん! 学校まで乗っけてよーー!!

ドッ ドッ ドッ ドッ・・・・・・

バクさんのオートバイはは何も聴こえなかったかのように
走り去ってしまいました。

「チェッ! あ・・・?」

加代子が来たことに気がついて、少年は木の陰に隠れます。
もちろん、突然現れて驚かすためです。

でも、加代子の後ろから加代子のお兄さんも来ていることに
気がついて、あわてて少年はその場を離れます・・・!


ヒョオオオオオオオ~~~~~~



とても風の強い日のことでした。


こんな日の正太郎は、なぜだか体中に力がみなぎって
なんでもできそうな気がしてきます。

カヨちゃんのアニキだって《 ブーーッ!!》と一息で
北極まで飛ばせたり
蒸気機関車だって止められそうです・・・!!

とにかく風はいいものです。


☆☆☆☆☆ 


正太郎は走りました。

カヨちゃんも、カヨちゃんのアニキも、バクさんも

機関車も、かあちゃんの顔まで忘れて

まるで自分が 風になったかのように・・・・・・!!

はっ、はっ、はっ、はっ・・・


☆☆☆☆☆ 



その日、風のように走る少年の姿を
何人もの人が見かけました。

すでにこの世にはいないはずの少年の顔は
幸せそうに輝いていました。


春にはまだ遠い
北国の冬の かすかな陽光の中で・・・・・・☆ 



【完】




#シロクマ文芸部


*こちらは元となった昭和の大昔に描いた漫画です。 ↓

↓ オマケです。😊


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?