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『 何事もないままに 』#夜行バスに乗って・企画参加☆

*豆島 圭様
見過ごすつもりでしたがつい・・・思い立って、参加させていただきます。
宜しくお願いします☆😅



*夜行バスに乗って


春の匂いが好きだ。

春と風林火山号に乗って新宿に行こう!
春色デザインのポスターが爽やかさを模して誘う。

予定にもなかった予約を取って、帳面から出発する「風林火山号」に乗り込んだ。座席は6C。トイレに面した席になったのは仕方がない。
どうしてもこのバスに乗る必要がある。私のこの先の人生を決める旅になるだろう。他の乗客もそのことに気がついているのだろうか?


21:00 帳面駅バス停 出発

乗客の誰にとっても運命のバスが出発した。
次のサービスエリアまで2時間。今はただ変化に意識を向けながら静かに
車窓を楽しめばいい・・・

人生においてどんなに孤独を好もうとも独りで生きているのではないことを知らされるのは《偶然》が偶然ではない他者の作為を感じた時からだ。
見知らぬ人たちともどこかで繋がっている必然を感じた時に、大きな存在の中で踊らされている宿命を感じるのだ。

そのことに気が付き一同に会したのは決して偶然ではないだろう。
私達は宿命に導かれた夜行バスで、決して偶然ではない乗客となったのだ。
自分に何が起きるのか・・・この夜行バスに運命を委ねたのだ。

見知らぬ乗客たちの何気ない意識の探り合いが殺気を伴って車内を飛び交っている。おいおい、今からそれじゃ疲れるぜ?

☆☆☆☆


23:00 春桜サービスエリア(休憩20分)

乗客の誰もが自らが発する殺気を隠すように平静を装ってそれぞれの時間を過ごしている。大丈夫。まだまだ先は長い・・・


02:00 夏頭サービスエリア(休憩20分)

出発直前に乗り込んできた、斜向いの4Bのフード男は席に座ったままだ。
怪しさ満載のオーラを放ってるが・・・落ち着けよ。

あぁ、やっちまったな。
慌てて拾ったのは拳銃かい。 それでどうするつもりだ?
マシンガン持ち込んでた御仁もいたぜ?(笑)

乗客の誰もが《その時》が迫っていることを感じている筈だ。
謂わば運命共同体とも言えるが、今は旅を楽しもうじゃないか。


☆☆☆☆


04:00 冬回帰サービスエリア(休憩20分)

運転手の春さんは知っていたのだろうか? 

変哲ない車内で、乗客たちとの間で壮絶な殺戮が繰り返されたことを?
もちろん見た目には仮眠している乗客たちだが、誰もが必死に戦っていたんだ。例の拳銃フード男なんかはあっという間に弾を撃ち尽くしてしまって・・・ 可哀想に、マシンガンを持った男に蜂の巣にされちまった。

8Aに座っていたモデル風の若い女性は、まるで居合い斬りのように
日本刀の小太刀で周り数人の首を刎ねていた。見事だ!

8Cの注射器を持った医者風の男も数人に何やら射ったようだが、すぐに
10Bの老人の持つコブラに噛まれた。だがその老人も10Aの老女のステッキに仕込まれた刃の餌食となり、9Bの少女の吹き矢はその老女の眉間を捉えた! 5Aに座っていた身障者の青年は義足を外して小型ミサイルを発射して前部に座っていた数人を粉砕したが・・・私が彼を消去した。

そんな風に様々な戦闘が行われた戦場だったのだが、平静のままに優しい
運転を続けた春さんには誰もが感謝するだろう。

乗客がこの日を選んで『風林火山号』に乗ったのは偶然ではない。
引き寄せ合うように・・・自らの最後の日をイメージしたからこそ覚悟の上で乗り込んだのだ。それぞれが移行する次の次元への試練としての宿命だったのは乗客以外には知る意味がない。

私が何者なのかも秘密だが。


☆☆☆☆☆


気がつけば・・・生き残りは運転手の春さんを除いて私一人になっていた。
これも予定通りだったが、事後処理までお願いするのは心苦しい・・・!!
ささやかにだが、乗客の遺体は別の次元に移して私が手厚く処置しよう。


バックミラーで状況を見ていた春さんの眼は哀しく優しかった。
きっと、同じ経験を何度も重ねているのだろう。
夜行バスの旅を終えた見かけ上の乗客たちを見送ってください。

お疲れ様でした。素敵な春さん ♪


☆☆☆☆


06:00 バスタ新宿 到着。


【完】



#夜行バスに乗って



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