『 その時までに 』読む時間 #シロクマ文芸部
*とある死刑囚の話
読む時間・・・
それが自分にどのくらい残されているのか?
死刑囚として社会とは隔絶した独房に囚われる身として
ある朝・・・
唐突に言い渡されるその時まで。
男は子供の頃から
遊ぶ時間さえ惜しむように本に没頭していた。
いや、読む時間こそが遊びだったのだろう。知らない大宇宙の無限の
景色の中の一遍に無垢の想いで触れながら、夢や冒険や感動や恐怖や・・・
《読む時間》は、ありとあらゆる世界で遊ばせてくれた。
まるで自分の人生のように接してきた《読む時間》。
だが、ある時期から少しずつ・・・文字の先にある書き手の感情や心が
見えるような気がしていた。
どんなに感動的で涙さえ誘う作品であっても
作者の意図が別にあったり、
どんなに文学的に表現された美しい文章にも・・・
決して美しくはない作者の思惑を感じてしまったり。
そんなことを契機に
男の意識は文字の先にある景色・・・
作者の心に集中するようになっていた。
やがて 読む時間は
作者とシンクロする時間に変化する・・・?!
男が関わるようになった新しい世界では
文章で表現された内容で遊べなくなっていたのである。
決して・・・愉しめない《読む時間》に変貌していた☆
ある作品の作者とシンクロした時、踏み入ってはいけない世界に
来てしまったことを後悔した。その作者は自死による故人であったが
同じ道を辿る恐怖から、しばらく《読む時間》から遠去かった。
あれ程までに日常だった読書から離れて
自分の現実世界だけを見ようと心がけた。
それでも出会う人ごとに
彼らが表現するその心の内が気になってしまい、
やはり《読む時間》と同じように
(シンクロしている?)と気付いた時に恐怖するのだった。
社会と関わりを持たなければ生きられる・・・?!
男は自分が社会生活には不適合の感性であることそ自覚し、無人島に
移り住んだ。 そこで一生を終えるつもりだった。
だがある時、海が荒れて漂着した船から数人が島に上陸した。
男は否応なしに彼らと接することになったが・・・
上陸した男の一人が気になり、その心に少しだけ触れてみることにした。
その心は悪意に満ちていた・・・?! その心は一緒に上陸したほかの三人に
対する《殺意》に満ちていたのである。
彼から脱出しようとしたが遅かった。
三人の男は血溜まりの中に倒れていた・・・!!
殺人鬼の心とシンクロしたままに共犯者となった自分を恥じた・・・!!
自分の体に還った時、殺人鬼の後ろ姿は目の前にあった。
咄嗟に・・・彼が落としていた鉈を拾って薙いだ!!
何度も、何度も・・・!!!!
男は殺人者とされ孤島で確保された後・・・逮捕された。
裁判で死刑が宣告され、独房の日々が続いた。
唯一残された娯楽にと《読む時間》を再開した。
もちろん、かつてシンクロしたことのある
心が幸せな想いに満たされるような・・・
そんな作者の本ばかりを選んだ。
いつか《その時》が不意に訪れるにせよ
そこに向かう自分の心は・・・
自分で選んだ幸せのままに!!
【終】
*このお話はフィクションであり、実在の人物、施設、出来事等とは
一切の関係がありません。
*こちらに参加させていただいてます。
「読む時間」から始まる小説・詩歌・エッセイ
締切は9/24(日)21:00。 #シロクマ文芸部
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