イジワルな、心
「そろそろしなよー」
テレビの前の小さい背中は、なかなか動かない。
茶碗を片付けながら、時計に目をやると20時を回ったところだった。本当はこの時間に寝かせたいけどそれが叶ったのは初めのうちだけ。
一人でやってごらんといっても、いつもこの時間は仕上げ磨きしてほしいとすぐにはみがき粉をもってくる。
根負けしていつもやってあげることになる。問答するのもなかなか体力を食うもんだから。
どっちがだっこかおんぶか、はたまた手を繋ぐのか階段の手前にくるとこれまた諍いが始まる。
面倒なときはどっちの要望も受け入れないけど。
ブランケットがうまくかからなくて、足をバタバタさせる。シーツがしわくちゃだと直したがり、それをジャマしにゴロゴロと転がってはケタケタ笑いあう二人を見ると、口では怒りながらもなんとも言えない気持ちにもなる。
よーやくのことで、布団へ入れてもなかなか寝ようとしない彼女たちにいつも「寝る準備をしなさい」としっかりした口調で言ってしまっている。僕が言う寝る準備とは目をつむることだ。瞼を閉じれば暗くなってどーしたって眠くなると編み出した答え。
といっても毎回そんなこと知らない彼女らはまだふざけあっている。いつもみたいに口からきつい言葉が出るのかと自分でも思ったら
ふと立ち止まって考える自分がいた。
最近は、歳をとったからなのか当たり前に布団に入って寝れることを疲れをとるためのものだと考えてた。なにぶん僕が寝るのが好きなのもある。
けどまだ10年も生きていない彼女たちからすれば、布団に入ることも、扉から漏れる灯りも、扇風機の音も、絵本の読み聞かせも、おやすみのキスやハグも、とても新鮮で楽しくて嬉しくてきっと眠さなんて吹き飛ばしてしまう威力のあるものなんかもしれんのじゃないかと
すっかり忘れてたけど、彼女たちしか味わえない、きらきらしている時間がそこにあった。
そんなことを考えていたら、少しずつ静かになってきた。
僕の中で、イジワルな心が顔をだす。
「今日は朝お母さんに送ってもらったの?」
予想通り
おしゃべり心に火がついて
わたしはねー、今日ねー。と
半分目を閉じてても、どこかニヤニヤしながらお話ししてくる姿がたまらなく可愛いかったので。
また明日聞かせてねーっと
二人のおでこにキスをして扉を半分だけ閉める。
階段を降りるときは、ゆっくりゆっくりと。
ほんとはね、 もう少し一緒にいたいんだよ。
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