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樹木礼賛 #3

樹木が好きである。
しょっちゅう、木を見ている。

樹木には、大別すると、冬になると葉の色を変え落とす「落葉樹」と、一年中緑の葉をつけている「常緑樹」とある。どちらも味わい深く、甲乙つけがたいが、どちらかといえば落葉樹が好きである。

ある日、子どもに「おとうさん、なんで葉っぱは落ちちゃうの?」と聞かれた。私は子どもからなにか聞かれたら、基本的には真剣にこたえる。しばし考えてこうこたえた。

「えーっとね、葉っぱには二つの大切な役割があるんだけど、ひとつは光から栄養をつくることで、もうひとつは根っこから吸った水を出すことなのね。夏は光も水もたくさんあるからいいんだけど、冬になると、昼間が短くなって、太陽の光も弱くなって、あまりたくさんの栄養を作れないでしょ。栄養が少ないのに、葉っぱから水を出すのはもったいないから、冬には、葉っぱを落としちゃった方が、木にとっては節約になるでしょ。だからじゃないかな」

というと、分かったのか分かっていないのか分からないが、「ふーん」と言っている。そのあと、少しして、「そうなんだー。土になるためじゃないの?」と言った。

私は軽く衝撃を受けた。まったくその通りかもしれない。私の回答は一見して正しいが、現象に単一的である。そこにはネットワークというか、関係性が不在だ。しかし、我々人間はもちろん、植物も、というか、そもそも生命は、すべからく関係性の束の只中にある。したがって、ある現象の説明に、関係性が不在というのはあり得ない。

樹木たちは、社会を持っている。私たち人間の社会とは別種のものだろうが、間違いなく相互依存し、ネットワークを形成し、情報のやりとりやコミュニケーションを行っている。

そういえば、この質問を子どもから受ける少し前に、「地球上で、土が減ってきちゃってる」という話をしたような気がする。彼はそれを受けて、自分で考えて、答えを出したうえで聞いてみたのか…と感動した。

「確かに、そうだね、落ち葉は、土になる」と、私は感心して答え、続けた。「おとうさんが言ったのも間違ってはないけど、葉っぱのことしか見ていない答えだったね。そしていつか土になる、というのを足したら、とてもいい答えになるね。」

よく考えれば、落ち葉はもともとある地面を覆って保温や保湿の役割も果たすだろうし、虫の越冬するための住みかともなるだろう。そうやって、樹木社会の礎となって、多様性や自然の循環サイクルにおいても大切な役割の一部を担っているのだ。そしていつか土になる。

「落ち葉って、だいじだねー、おとうさん」
本当に、その通り。
そして、私も、いつかは土になりたいと思った。


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