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恒大集団問題で「東南アジア不動産ショック」は起きるのか?

こんにちは、風戸裕樹です。私は28歳で初めての起業を経験し、2014年にはソニー不動産(現SREホールディングス)に企業を売却。現在は世界の不動産のメディアや取引を行うプロパティアクセスを経営しています。※ちなみに参考になったら「♥(スキ)マーク」をおしてください!!!

前回はシンガポール不動産の裏側について、読んだ書籍について紹介しました。今回は巷で話題の恒大集団(Evergrande、エバーグランデ)の経営悪化と日本と東南アジア不動産への影響について書いてみました。

直近では、中国不動産バブル崩壊懸念もあり好調だった日経平均もじわじわと下げていますね。日本と東南アジアで不動産を所有している人は、不動産価格どうなるのか、一緒に崩壊するのかと気になるところです。

債務危機による前提は以下の動画も公開したので是非御覧ください。このnoteでは動画では話せていない、細かい定義を含めて解説しているので、最後まで読んでいただければ嬉しいです。

日本のGDPの約6%−恒大集団の負債の大きさ

まずは負債の大きさです。
中国の2020年の国内総生産が101兆6,000億元。その中で恒大集団の総負債は中国のGDPの約2%に相当することになります(日本のGDPの約6%)

また、トヨタ自動車の2021年3月期(通期)の営業収益が27兆2,145億円でしたので、トヨタが1年間に稼いだ営業収益よりも大きな額の負債を抱えています。この大きさがいかに大きいかわかると思います。

直近の状況をみていくと、2021年6月末の有利子負債残高は5,718億人民元(約9.8兆円)です。Yahoo Newsによると、このとき、有利子負債残高から現金・現金同等物などを差し引いた純有利子負債は4,101億人民元(約7.0兆円)で、社債も192億3600万USドル、1.01億香港ドル、合計で約2.1兆円の発行残高があります。

恒大集団の2021年6月末のBSを簡素化したものが以下です。恒大集団の2021年6月末の総資産は2兆3,776億元(約40.4兆円)、総負債は1兆9,655億元(約33.4兆円)にも上ります。

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恒大集団の2021年6月末の貸借対照表イメージ

問題の発端−3条紅線(3つのレッドライン)

そもそも問題の発端は昨年8月、中国政府は、不動産デベロッパーの財務の健全性を改善すべく、3つの財務指標を導入、3つの「紅線(レッドライン)」と呼ばれる指標を満たせない企業に対する貸付過熱を沈静化させる動きに出ました。特に不動産開発に対しては、一定基準である「3条紅線(3つのレッドライン)」を満たさない企業の資金調達を禁じるとしました。

なお、「3条紅線」とは、

① 総資産負債比率が70%を上回らないこと
② 自己資本負債比率が100%を上回らないこと
③ 現金に対する短期負債の比率が100%を上回らないこと

いわゆる中国当局による不動産市場への締め付けですね。(自滅戦略と呼ぶ方もいます)

恒大集団の場合は、2020年12月末時点で「3条紅線」(ストレステスト)のすべてに抵触し、新たな資金調達ができなくなりました。その後、2021年上期に資産売却による返済を進めましたが、手元資金の不足で2021年9月20日の週に控えている利払いが行えない見通しとなりました。これが発端として日本でも多く報道されるようになったわけです。

恒大集団に関して3つのレッドラインを調べていくと

①総資産負債比率が70%を上回らないこと
総資産負債比率=総負債÷総資産=19,665÷23,776×100=83%

②自己資本負債比率が100%を上回らないこと
自己資本負債比率=総負債÷自己資本(純資産)=19,665÷4,110×100=557%

③現金に対する短期負債の比率が100%を上回らないこと
現金に対する短期負債の比率=現金・現金同等物÷短期負債=868÷15,728×100=1,813%


たしかに、3つの基準のどれも満たしていないようです。健康診断でいったらD判定位でしょうか?要治療です。

ちなみに中国の多くのデベロッパーが、3つすべてを満たすことができませんでした。40超の企業は少なくとも1つの紅線を越えました。海外で展開している中国不動産会社のストレステストについて後述しますが、恒大集団は氷山の一角と言われているのはこの所以です。

中国の銀行セクターへのリスク

恒大集団の債務不履行は、中国の銀行にリーマンショック級のトラブルを起こすかどうかが気になるところですが、そのようなリスクの可能性は低いと言われています。

その理由は

1.恒大集団の2021年6月末時点での5,718億元(約9.8兆円)にも上る借入は、8月時点の中国の人民元建て融資186.7兆元(約3,210兆円)の0.5%にも満たない
2.中国人民銀行によって行われた中華系銀行向けの最新のストレステスト(健全性審査)では、不動産ローン危機の副次的な影響を確認する目的もあったが、銀行システムはこのようなショックに耐えられるだけでなく、昨年強化が進んだことが明らかになった

引用元:コファス(Coface)社 エコノミスト、バーナード・アウ氏

ちなみに中国の大中規模の銀行30行のうち、この厳しいストレステストに合格できなかったのはたった3行だったのに対し、前年は9行ありました。改善していますよね。

不動産開発における不良債権が15ポイント上昇、住宅ローンが10ポイント上昇するという最も厳しいストレスシナリオにおいて、中国にある4,000行以上の銀行は十分な資金を蓄えていると考えられます。最悪のシナリオでは自己資本比率が平均12.3%まで落ち込む予想ですが、銀行は相当額の損失に耐えるだけの余力ありということなのです。最後にJPモルガンによると、以下も付け加えることができます。

3.銀行は昨年から不動産融資へのエクスポージャーを削減していた

つまり、既に融資調整しているよということです。

中国企業−海外のASEANプロジェクト

私たちの懸念は、恒大集団の問題が中国の不動産セクターに拡大し、中国の海外における不動産開発や、業界への外国投資にも影響を与えうるということですね。

まず海外での恒大集団のプロジェクトを確認しましょう。特に東南アジアに知られたプロジェクトはありませんが、他の中国デベロッパーも、過去数年で東南アジアに進出しているようです。

1,チャイナ・フォーチュン・ランド・デベロップメント
3つの「紅線」の犠牲となって、今年36億ドル(約4,000億円)相当の社債の債務不履行を起こした最初の大手中国デベロッパーです。同社は、2015年から多数の大規模なインドネシアプロジェクトに関わっていました。

2,広州R&Fプロパティーズ
ジョホールバルの高級コンドミニアム「プリンセス・コーヴ」を含む、複数の住宅プロジェクトをマレーシアに持っています。同社は、ムーディーズから格付けを引き下げられて、資金調達が逼迫してきており、流動性を高めるべく、昨年から資産の処分を始めています。

3,カントリー・ガーデン
売上高で中国最大のデベロッパーですが、3つの「紅線」のうちの1つに違反しています。同社は、2020年6月時点で、おなじみのジョホールプロジェクトを含むマレーシアに2件、インドネシアに3件プロジェクトを持っています。

4,その他大手中国デベロッパー4社(ローガン、チンジアン、キングスフォード、CSCランドグループ)
シンガポールで、80億シンガポールドル超(約6,560億円)を土地に投資していますが、これら4社は「紅線」の違反はありません。

またシンガポールのデベロッパー、シティ・デベロップメントが、1970年代以来始めて通期で赤字となりましたが、この時、同社は中国を拠点とするシンシア・プロパティ・グループへの投資の評価損17.8億シンガポールドル(約1,460億円)を計上し、倒産問題に引きずり込まれるのを避けるべく持ち分を売却しました。中国不動産企業に関係する外国企業は最悪のシナリオに対する準備を進めています。

東南アジアへの影響−サプライヤーリスク

中国不動産市場が急激に減速すると、貿易や経済成長にも関係しますので周辺産業についてみていきます。

恒大集団のサプライヤー向け支払遅延の報道がされる中、同社の買掛金その他は、2020年12月から今年8月には15%増の9,511億元(約16.4兆円)まで膨れ上がっています。

中国住宅セクターの急激な悪化により、中国の不動産デベロッパーに供給している東南アジアの建設・建築資材生産者や電気機器製造メーカーが圧迫され、信用ポジションに悪影響を与える可能性があります。

ではどの国に影響があるの?というと、以下のようなところです。

インドネシアの金属および木材輸出の25%
タイのプラスチック・ゴム製品の25%以上
ベトナムの機械・電気関連の20%、マレーシアの14%

東南アジアへの影響−貿易需要の弱まりで経済が減速

もう一つの懸念事項は、大幅に減速した住宅セクターとその取引先へのドミノ効果を受けて、中国経済が多大な影響を受けることです。

不動産市場は、中国の経済成長に大きく貢献しており、関連産業も含めると、経済の29%に貢献しています。建設や機械設備の製造などの周辺セクターも影響を受けるかもしれない

前述のバーナード氏

もし住宅価格が急激に下落したら、家計消費にも影響が必須です。不動産は、家庭の財産の70%を占めているからです。これは不動産取引を控えたり、売却益がでないことによる消費活動の減少を含めた心理的な要因のほうが大きいです。

中国のマクロ経済状況が弱いと、東南アジアにも、貿易の鈍化という形をもたらします。

東南アジアはと中国の貿易依存度ですが、2020年、EUを抜いて中国の最大の貿易相手となりました。パンデミックにより世界の貿易取引は縮小しているものの、中国とASEANの二国間取引は2019年から7%伸びて7,319億ドル(約81兆円)となりました。

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2020年中国の貿易相手国トップ15(出所:World Top Exports)

中国のGDP成長率が1ポイント下落するとASEANのGDP成長率が0.5ポイント下落すると推定しています。

ASEAN加盟国の中でも、シンガポールが中国のASEAN地域での減速の影響を最も受けるといわれており、続いてタイ、マレーシアとなります。これらの国々と中国との間の貿易の流れが比較的大きいことが主な原因です。

2015年以降、ベトナムと中国との二国間貿易の急速な発達もまた、中国の成長鈍化に対してベトナムをますます脆弱にしました。

中国とASEANの二国間貿易が活発になり、中国を中心とした域内のクロスボーダー生産ネットワークにおけるASEANの役割が増す中では、中国経済の問題は東南アジア全体に影響をもたらすことになりそうです。

多くのASEAN諸国が、現在の戦いでロックダウンを続けているので、この問題はタイミングが悪い

前述のバーナード氏

今回は、恒大問題と東南アジアを中心に不動産市場への影響をまとめました。

次回は、他の国、日本やフィリピンの不動産会社の負債がどの程度あるのか?恒大のような債務リスクはあるのか。について触れたいと思います。では今日はこのあたりで!不動産好きのかたへ!参考になったら下にある「♥(スキ)マーク」をおねがいいたしますm(_ _)m


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