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砂絵 #42_58

 椎衣の強ばった表情を、彼らは横目で怪訝そうに眺める。椎衣は自転車のハンドルから左手を離すと肘で額の汗を拭う。海岸に目を向けながら、人影を見るたび椎衣は自転車を止める。  
 港街。椎衣は海岸道を引き返し街に入っていく。椎衣は自転車を降りると、街並を眩しそうに眺める。
 喫茶店、その店の前で椎衣は看板を眺めている。そこには『純喫茶再会』とある。どこか懐かしく感じるのは何故だ。
 椎衣は硝子窓から中を覗く。七輪の上の薬缶が湯気を立てている。椎衣は扉を開ける。
「ごめんください」椎衣は後ろ手で扉を閉め店の中を見回す。背後で鳴る土鈴の音。椎衣は覚えている。
「いらっしゃい。しばらく・・・」
 カウンターの前に白髪の老人。老人は、どこか戸惑ったような表情を浮かべている。カウンターに入り、老人は腰に前掛を巻く。