見出し画像

砂絵 #7_11-12

五 砂絵の家
 地下鉄の座席に座り、砂絵は向かいの車窓をぼうっと眺めている。そこには、砂絵の上半身が車内灯に青白く照らされ朧げに映っている。前方の車両から強い光が差し込んでくる。車窓に強い西陽が映り込む。砂絵の姿が一瞬にして車窓から消し去られる。だが、車窓は記憶している。この時間、この場所で砂絵の姿を捉えたていたことを。
 到着駅を知らせるアナウンス。金属音を立て、列車が減速していく。思い出したように、砂絵は席を立つ。
 砂絵は、駅前の生花店に入っていく。いつものアルバイトだ。
 注文のフラワーアレンジを仕上げ、砂絵は目の高さまで持ち上げる。そして納得したように頷く。バスケットを置き、砂絵は鞄から取り出したカメラを向ける。だが、躊躇する。シャッターを切ることに。興が乗らない。花を見て、思う。この花は、一週間の命。ただの消え物でしかない。今まで、アレンジを写真に収め、自室の壁に貼り続けた。コラージュのように。無意味だ。そう強く感じる。
 夜、砂絵の家。
「ただいま」砂絵は、台所の暖簾をくぐる。
「お帰り」父の泰造は顔を上げ頷く。食卓には煤けたオルゴール人形。泰造は、大事そうにそれを磨いている。 
「どうしたの?」