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砂絵 #18_30-31

十一 昏倒
 熱帯樹林園、ドームの中では人工の干潟に波が打ち寄せている。そして、さざ波と小鳥の鳴き声。
「音が聞こえる」
「環境音だよ」と、木川田。
「いい感じですね」砂絵は白ゆりの群生に目をやる。花が砂絵の視界いっぱいに拡がる。
「匂うわけないですね」
「匂いの感覚までは・・・」
「この先、ちょっと怖い所があるので行ってみます」
「怖い所?」
「昼間でも陽も射さない。水辺の小径に沿って行くと笹薮が生い茂って。笹篭に入り込んだような感覚に」 
 砂絵の視線が小径の向こうを指す。左右から伸びた笹が宙で交差し、藁葺き屋根のように道を覆う。道の奥に向かって、笹の葉から漏れた光が点々とこぼれている。
「雰囲気あるでしょう?昔話の八幡の薮入らずみたいで。友達をここに連れてくると、いつも悪戯してみるんです。薮の中に隠れたりして」砂絵の視線は笹藪を進んでいく。 
「おかしいな、椰子の木が見えてこない。この笹薮の先にあるはずなのに」木川田はモニターを見つめている。
「椰子の木?」
「システムエラーかもしれない。この辺で終了にしよう」