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砂絵 #44_60

「闇船に頼んでいる」
「闇船?」
「漁師あがりの連中だ。闇物資を運んだり、密航者の手引までしている」
「闇物資・・・」
「仕方ないんだ。配給の代用品など珈琲とはいえない」老人は吊り戸棚の奥からコスモスの柄をあしらったカップを選びカウンターに置く。 
「懐かしいカップだろう。覚えているか?あんたが子供の頃、このカップでよくミルクを飲んでいた。椎衣さん」サイホンからコーヒーを注ぐと老人は椎衣の前に置く。
「どうして、わたしの名を?」
「もう二十年近いんだな。あんたと須恵さんが椎雨と別れてから。わしは久下だ。名前も覚えていないだろう。姉妹で珈琲屋のおじさんって呼んでくれていたから」 
「姉妹?」 
「あんたは、いつも妹と仲良しだった」