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砂絵 #43_59

 老人は、カウンター席を椎衣に促す。椎衣は、おずおずと腰を掛ける。 
「いつもので、いいかな?」
「いつもの?」 
「椎雨ちゃん・・・。いや、そうか、そうだった」老人は頷くと老眼鏡を取り出す。暫く椎衣の顔をまじまじと見つめ、納得したように老眼鏡を外す。
「その人と似ています?」
「ああ・・・」老人はコーヒーミルに豆を入れ、ゆっくりハンドルを回し始める。砕けた豆をサイホンに移すと、アルコールランプに火を点ける。 
「今日はブラジルだけども、いいかな?」 
「いただきます」
 サイホンの湯が沸騰し硝子管の中を上っていく。その様子を椎衣はぼんやり眺める。
「知っての通り、豆やアルコールさえ手に入れるのも大変でな」 
「どうなさっているんです?」