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砂絵 #13_21-22

九 仮想遊園地
 木川田の作業場。砂絵は恐る恐るガラス戸を開ける。螺旋コードが張った木川田に躊躇したからだ。結線のついたグローブで、木川田は砂絵にぎこちなく手を振る。
「失礼します」砂絵は首を傾げる。
「驚かせた?」木川田はゆっくりコードを外していく。投網にかかった魚を逃すように。 
「手伝いましょうか?」
「大丈夫。それより、メールの返事ありがとう。テストにまでつきあってもらうことになって」
「温室の写真がどんな風に表現されるか、興味があって」 
「そうだね。まず、準備しよう。利き腕は、どっち?」 
「左手です」
「じゃあ、このグローブを左手につけさせて貰うよ」木川田は砂絵の手首を持ち、しばしその白く細い指に見入る。木川田は砂絵の左手にグローブをはめ、ゴーグルを頭にゆっくり被せる。
「緊張しますね。身動きがとれない」
「大丈夫な仕組みになっている。何かあっても」 
「何があっても?」
「この人工現実感という代物、人によって発作が起こることがある。断片的回想発作という」
「断片的・・・?」 
「心配ないよ。モニターで追尾しているから」 
「それで、私は何を?」