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データ分析者の今後のキャリアと経済学の可能性

風音屋(@kazaneya_PR)の横山(@yuzutas0)です。先日「東京大学の特任研究員に就任した」というリリースを掲載したところ、各所からご連絡やご質問が寄せられました。データ分析を支援する風音屋にとって、今回の取り組みがどういう意味を持つのかご紹介できればと思います。

なお、この記事ではデータ分析を担う人材を総称してデータ分析者(データアナリスト)と呼ぶことにします。会社によってはデータサイエンティストやコンサルタントと呼ぶほうが適切な場合もあるでしょう。データを集計・加工・可視化するだけなら「分析」とは呼ばないといった意見もあるでしょう。各自で好きな名前に置き換えて読んでください。


データアナリストを取り巻く脅威

便利なテクノロジーが日々台頭しており「他の人より少しだけBIツールに慣れている」「他部門のメンバーよりデータ集計に慣れている」というだけのジュニアなデータアナリストでは生き残れない未来が近づいてきたように思います。

当社のクライアントの中には「ChatGPTに相談したらSQLを書けるようになった」という事業部門の方もいらっしゃいます。大学生たちにデータ分析の授業を行いましたが、学生たちは当たり前のようにChatGPTと対話しながらPythonのエラーシューティングをしていました。このような時代で、実力のないデータアナリストに高いお金を払うくらいであれば、自分たちで手早くデータを集計したいと思うのは自然な発想です。

「10秒でダッシュボードを自動生成する時代が近づいている」「データアナリストの働き方は変わるだろう」といったことは、先日のサンフランシスコ出張のレポートでもお伝えしたとおりです。

この話は年末のData Engineering Studyでもご紹介しようと思います。

データアナリストを取り巻く機会

一方で、むしろニーズが増えている(今後も増えていくであろう)領域もあります。グローバルではUSのBigTechを中心にEconomistと呼ばれるポジションがデータ分析を推進しており、Amazonであれば仕入れの最適化(いわば Merchandise Ops)、Googleであれば広告入札の最適化(いわば Listing Ops)といった各業務の最適化(xOps)において、データ分析の担い手が利益を創出しているように見受けられます。

日本国内でも同様に、サイバーエージェントやSansanなど、民間企業が経済学の専門家を採用する動きが目立ちます。デジタルマーケティングの分野では、Cookie規制や各種プライバシー保護の強化に伴って、Media Mix Modeling(MMM)といった計量経済学をベースとした効果測定のアプローチが注目されており、ビジネスと経済学の接点は今後も増えていくことでしょう。

他にも経済学の知見は日々の業務にもっと活かせるはずです。例えば、実証IO(産業組織論)で用いるツールは、民間企業の経営企画部がExcelシートでやろうとしていることに近いように思います。業界統計、競合企業のIR、自社の社内データといったものを組み合わせて、需要関数・供給関数を推定し、新カテゴリへの参入・撤退、新興企業への出資・買収、生産量の調整、要員計画の見直し、価格の見直しといった意思決定を行うわけです。まさに経営企画部や戦略コンサルタントの仕事領域かと思います。

必ずしも経済学という分野に限定する必要はありませんが、要するに「データアナリスト」という職種において、SQLやPython、BIツールとは別の「専門性」が求められるようになっていくように思います。「何となく集計業務を請け負っている人」ではなく「専門性を持った上で経営や業務の改善に貢献する人」が今後求められていくのではないかと感じています。

風音屋としてのアプローチ

風音屋では、優秀なデータアナリストを採用・育成し、活躍できる環境を整えるべく、まずは代表である私自身が先陣を切って事例を開拓していきたいと考えています。

ゆくゆくは「20%ルールで大学院に通って専門性を磨く」「研究室と共同研究をしながらデータ分析の基礎力を鍛え直す」といった選択肢を、会社から社員データアナリストに対して提供したいと考えています。

その取り組みの第一歩が冒頭のニュースとなります。東京大学では「民間データを用いたデータ分析の授業」と「民間データを用いた研究論文の執筆」を行っています。

民間データを用いたデータ分析の授業

大学の授業については上記のリリースを参照ください。Google Cloudを活用して共同研究のためのデータ分析環境を構築し、NEさんからマスキング済みのデータをご提供いただきました。NEさんはEC市場の約13兆円のうち1兆円の流通データを保有しており、通販サイト横断での分析が可能となります。

また、デジタル庁のhase-ryoさんや技術コミュニティ BQ FUN を運営するna0さん(ともに風音屋アドバイザー)、truestarの藤さんにも相談に乗っていただき、オープンデータを収集・連携しています。

授業では以下のようなデータ分析を行いました。

  • 1つの通販サイトの割引キャンペーン期間中、他の通販サイトでどのような値動きが起きるのか

  • 消費者物価指数(CPI) と比較して、商品カテゴリごとにどのような値動きの特徴があるのか

  • 休祝日や天候によってECの売れ行きはどのように変わるのか

この授業の概要については、11/16(木)に以下のカンファレンスにてお話します。

民間データを用いた研究論文の執筆

これは風音屋というよりは、東京大学 渡辺努先生とナウキャストさんのお力添えによるところが大きいのですが、飲食店の決済データを用いたネットワーク分析について、内閣府『経済分析』に共著論文(査読なし)を投稿しました。

消費者と店舗の取引ネットワークをコミュニティ分割して、コミュニティごとに「オフィス街の居酒屋に行く男性」「高田馬場周辺の飲食店で安く済ませる若い男性」「歌舞伎町のキャバクラに行く男性」「新宿駅周辺の人気店を訪れる女性」といった特徴があることを確認し、消費税増税やパンデミックの前後でどのような変化が生じたのかを分析しています。

共同研究や産学連携による社会的な恩恵

これらの取り組みを公開したところ、他のクライアント企業からも「うちのデータも何かに使えないか」「こういう取り組みはできないか」とお声がけいただきました。

共同研究や産学連携が活発になると、民間企業には以下のようなメリットがあると考えられます。

  • 担当者が自己流で行う分析から、より確からしい分析へとステップアップできる

  • 専門的な研究室との接点が増えることで自社の人材育成の機会になる

  • 大学との接点が増えることで採用活動にも繋がる

大学や研究者にとっては以下のようなメリットがあると考えられます。

  • 企業が保有するデータで実証研究や実践学習に挑戦できる

  • 民間経由でモダンなデータ分析環境やソフトウェア管理手法が普及することにより「研究」や「教育」という活動自体の生産性が上がる。

風音屋が、共同研究や授業を次々にサポートしていくことで、社会に対してポジティブな影響を与えていけたらと思っています。今後、多くの民間企業や研究室からコラボレーションのお誘いをいただけるように、積極的に取り組みを開拓・宣伝していきたいと考えています。

<追記>
データ整備については昨年の日本統計学会にてご紹介しております。民間企業と専門家が直接繋がるだけだと「データが汚くて使えないですね」で終わってしまうことがあります。企業のデータ戦略策定やデータ基盤構築こそが、産学連携の前提になる点にご注意ください。

風音屋は「データ組織をゼロから立ち上げるパッケージ」を提供していたり、社内に散在しているデータを統合するといった「データマネジメント」分野の業務を担っています。経済学者にこの作業を頼むのは筋違いでしょう。このあたりに風音屋が介在することのメリットがあると考えています。

データアナリストを募集中

風音屋では、データアナリストの方々のキャリアパスが広がるような取り組みの拡大を行いつつ、データアナリストの採用をいっそう強化していきたいと思っています。

風音屋は「優秀なデータエンジニアが集まっている会社」として技術者のコミュニティに認知いただけている一方で、「データ分析者」向けのブランドイメージを築けていないのが現状です。しかし、平均的な実力値としては他社のデータアナリストたちに劣っていないと自負しています。

データアナリストという職種名ではありますが「これって戦略コンサルタントの仕事ですよね!?」と驚かれるくらいには、ビジネス課題の分析に介在することもあります。クライアント企業の執行役員と一緒にグロースサイクルを描いてプロダクトの成長戦略を模索したり、現場に近いところだとデジタルマーケティングやオペレーション改善系のプロジェクトに挑戦しています。

実際にデータ分析によって上場企業の戦略やIRに影響を与えたケースもあります。非常に刺激的で有意義な取り組みではあるのですが、その反面、データ分析の内容や結果を公開することは難しく、当社としてはブランドイメージを築きにくい、データアナリスト個人としてもキャリアに残しづらいという課題もありました。

そうした背景も踏まえて、共同研究や授業支援のような取り組みにも積極的に挑戦し、対外発信や実績をアピールしていけたらと考えております。データ分析職やコンサルタント職に対する風音屋のブランドイメージを築くと同時に、データアナリストが成長し、キャリアパスを広げていけるような魅力的な環境をつくっていきたいところです。

ということで「このままで自分のキャリアは大丈夫かな」「単なる集計屋ではなくデータ分析者としてのスキルをきちんと伸ばしたいな」というデータアナリストの皆様は、この機会にぜひ風音屋への転職をご検討ください。以下よりお気軽に問い合わせください。


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