オムライスの話

おそらくこの記事を見ていらっしゃる方の大半は、オムライスとは何なのかを説明する必要はないと思われる。しかし、念のため認識を一致させておくと、チキンライスの上に平たく焼いた卵を乗せた料理である。上に乗せた卵にはバリエーションがあり、とろとろに焼いたスクランブルエッグや、半熟状態にしたオムレツを乗せる場合もある。また、チキンライスについても、ただのケチャップライスだったり、ピラフだったりする。おまけに、デミグラスソースやホワイトソースと合わせることもある。なんにせよ、基本形はそのままに、バリエーションがとても多い料理といえる。
そこにおいて、私がイメージするのは、平たく焼いた卵とチキンライスのスタンダードなタイプである。ついでに言うと、卵の上にはケチャップをかける。このパターンでは、チキンライスにもケチャップを使っているため、トマトケチャップが過多な状態である。オムライスといえば卵料理というイメージが強いようにも思うかもしれないが、実はケチャップ料理と呼ぶのが適当なのかもしれない。実のところ、生のトマトはあまり好かない食べ物なのだが、これがケチャップとなると全く気にならなくなってしまう。もしも、トマトに気を取られてケチャップまで苦手意識を持っていたら、オムライスを食べられなかったかもしれない。
そのケチャップを使ったチキンライスだが、これ単品でも流派が多いのではないだろうか。私がなじみのあるのは、細かく刻んだ鳥の胸肉と、玉ねぎのみじん切りを混ぜ合わせたものである。これはかなりシンプルな部類ではないだろうか。これは私の勝手な想像だが、世の中で最も多いのはミックスベジタブルが混ぜられたものだと思われる。細かく刻んだニンジンに、コーンとグリーンピースが混ぜられたアレである。このミックスベジタブルは少々クセもので、特にグリーンピースは苦手な人が多かったと聞く(私は特段、問題なかった)。ほかにはない独特の青臭さが、そうさせたのであろう。
そもそも、グリーンピースとは何なのか。ウィキペディアによると、エンドウ豆の未熟な頃の種子だそうだ。ただ、中には初めからグリーンピースとして出荷するため、その出荷体系に合うように品種改良されたエンドウ豆があるそうだ。そういう出所となると、あの青臭さには納得がいく。一般的に、果物や野菜のみというのは、未成熟な時ほど生物に食べられないようにおいしくない成分を蓄えており、熟すほどに柔らかくなったり甘くなったりする。そうすることで、種ができるまで実を確保し、種ができた後はその種が外に出やすくしたり、生物に食べられてから糞とともに排出され、遠くの土地に生息域を増やすのである。だから、グリーンピースがおいしくないと感じるのは至極当然といえるのだ。
なお、この未熟さを売りにしているものといえば、ゴーヤである。ゴーヤは苦瓜と呼ばれるほど苦みを売りにしている(瓜だけに)のだが、あの緑色の実も未熟の状態なのである。熟してくると実は黄色くなり、種が赤くなってとろみをまとうようになる。こうなった実は、ほとんど苦みも残っておらず柔らかくなっており、種に至っては甘みが感じられるほどになる。ただ、黄色い実は傷んだ身だと思われることが多々あるそうだ。
さて、チキンライスについて、私がなじみのあるのは、鳥の胸肉と玉ねぎが入ったものであると前述した。これに卵が加わるわけだが、これらの組み合わせになじみはないだろうか。それはつまり、親子丼と同じ具材なのである。親子丼も卵と鶏肉と玉ねぎを使うという点で同じなのである。親子丼は出汁を使ってこれらの具材を煮込み、オムライスはケチャップで炒めていく。加熱の仕方こそ違うものの、ケチャップが出汁だと考えればほぼ同じである。普段、オムライスや親子丼を食べるときに、もう片方のことが頭をよぎることはないだろうが、改めて考えるととても似た者同士なのである。片や洋食、片や和食に分類されるものだが、実は料理というのはどれもそのぐらい近いものなのかもしれない。
この親子丼であるが、皆様は胸肉派だろうか。それとも胸肉派だろうか。あるいは、ササミやセセリ派という人もいるだろう。そうなると、逆に親子丼にできない鶏肉のほうが少ないのではなかろうか。手羽先、手羽元は卵にくぐらせて食べることがあるぐらいだから、合わないはずがない。また、レバーは多少癖があるが、だからと言って合わないことはない。玉ねぎを多めにすれば臭み消しにもなるだろう。こうなると、鶏一匹分の部位をすべて使った親子丼など、よいのではなかろうか。
ここまで来て気づくのだが、その親子丼には親子ではない可能性が高い。つまり、使用されている卵は、同じ丼の鶏肉のもととなった鶏から生まれていない可能性が高いのだ。こうなってくると、正確に親子丼とは呼べないだろう。呼ぶとすれば、生物分類学上親子丼であろうか。なお、他人丼という案もあるだろうが、他人丼は別に存在している。鶏肉の代わりに豚肉や牛肉を使ったどんぶりのことである。具材の値段は他人丼のほうが高いのに、「親子丼」と「他人丼」と並べられると、前者のほうがなんとなく高そうに見えるのは私だけだろうか。もちろん、豚肉や牛肉で親子丼を作ることは難しい。豚や牛は卵で生まれるわけではないので、親子丼にしたところで具材は肉であり、それらは豚丼や牛丼と呼ばれる品物である。まあ、子供の肉のほうが柔らかいといわれるため、食感の違いはあるかもしれない。
逆に考えれば、卵で生まれてくるものは親子丼にできるということでもある。そうなると、俄然、候補として挙がってくるのはお魚である。親子ともども、比較的手に入れやすいとなると鮭ではなかろうか。もちろんサーモンでもよい。サーモンであれば生食でも大丈夫なので、そのままご飯に乗せてしまっても大丈夫である。しかしながら、それは海鮮丼の類となってくる。それを避けるためには、サーモンと玉ねぎを混ぜて、イクラとあえて煮るのである。つまり、親子丼のレシピに忠実に従えば、海鮮丼にはならんだろうという算段である。
ここで気になるのは、イクラは加熱すれば固まるのだろうかということである。鶏卵が固まるのは、たんぱく質が固まるからであったはずである。となると、イクラにもたんぱく質は含まれているだろうから固まるとも思われる。ただし、プチプチとした食感を台無しにしてまで、固めてしまうのはどうなのだろうか。同じ立ち位置にある食品でもそれぞれの持ち味を生かすというのは料理でも大切なことである。適材適所もさることながら、それを適切に生かすことが大切というのが、今回の教訓である。
というわけで、今回はオムライスのお話でした。


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