劇場版『DEEMO サクラノオト』の感想

「わたしの心に寄り添う物語」

先日、劇場版『DEEMO サクラノオト』を観てきました。なお、原作のゲームは未プレイです。
私の中で、これまで観た全作品の中でも最高傑作になりました。
一人の女の子の「痛みと癒しの軌跡」をここまで丁寧に描き切った作品を私は知らない。
二回ほど鑑賞し、二回とも号泣いたしました。
あと二回は観に行きたいと思っています。

ハリウッド映画的なスリルとは対極に位置するような作品で、往年の「世界名作劇場」のような優しい雰囲気に包まれています。
楽曲も「Nine point Eight」や「ANiMA」「nocturne」「inside a dream」など名曲揃いで、特に「Nine point Eight」をアリスとDeemoと愉快な仲間たちがセッションするシーンは、アリスが本当に楽しそうで、作中屈指の名場面と言えるでしょう。

娘さんのいる親子連れに特にお勧めしたい作品ですね。
映画館が家族連れで満員になっても良いクオリティの作品だと思います。
  
※以下、ネタバレを含みます。
 


ーー優しい記憶が、君のかなしみの近くで微笑むようにーー

 *

優しい世界

深い深いクレバスの底に、柔らかな雪の欠片が少しずつ沁み込んでゆくように

何年も、何年も

長い長い月日が無為に過ぎてゆく

その中で出会った旋律たちと、人との出会いが、
微かに彼女の琴線を揺らしてゆく

それは、長い長い冬の終わりを告げる、春の旋律

 *

かけがえのないものを失くした、耐えがたい喪失の痛みに、ばらばらに砕け散った心の欠片が、少しずつ、少しずつ、あるべき形へと戻ってゆく。長い長い年月と、微かな癒しの積み重ねが、その奇跡に必要なもの。

このような「喪失と癒し」の軌跡を理解していないと、本作の卓越性が分からないのではないかと思います。

その軌跡において、過剰な演出は必要ありません。
手に汗握るスペクタクルや、大どんでん返しも必要ない。(多少の冒険はありましたけどね)
ただ、淡々と、「降り積もる癒しの積み重ね」と、一人の女の子の心の軌跡を追うだけで良い、それ以外には何も要らない。それだけで傑作の作品になり得ます。

特に意味もないような淡々としたやり取りや仕草、微かな喜びの積み重ね、それこそが大事なのです。
それをよく理解している脚本、演出に賛辞を送ります。

終わろうとしている世界と生命の樹。
劇中では「音の樹」と呼ばれていましたが、「世界樹」あるいは「生命の樹」(セフィロト)と同一視することもできるでしょう。
そして、天国(現実)へと至る階段。
あの世界が、いわゆる「あの世」(煉獄)に近い場所であることは明らかでしょう。
それゆえ、かけがえのない人たちとも再会できる。

居心地のよい優しい夢の世界に別れを告げ、冷たい現実へと至る階段を登るアリス。
それは、耐えがたい悲しみと再び向き合うことを意味しているけれど、大丈夫、今のアリスにはその重荷を受け止める心の強さがある。
私たちは、お母さん/お父さんになった気持ちで、アリスの孤独な戦いを見守るのである。
それが胸を締め付けられる。
号泣いたしました。

そして、エンディングで流れる主題歌「nocturne」の胸を締め付けられる旋律に乗せて、吉田ヨシツギ先生の水彩画が優しい雰囲気で素晴らしくて、とても感情を揺さぶられます。そのまま一冊の絵本にして出版して欲しいですね。

素晴らしい映画でした。
ありがとうございます。
 

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