二人のプリンセス 愛と憎しみの魔法 第四話 ミレーネ(2-4)

 ミレーネが勇気を出して医師や侍女たちにしかけようとしたとき、メルシアが出かけたくしゃみを抑えようとして、手で口元を隠した。
 メルシアが炎から視線を外した途端に、術が解けてしまった。
 細工が分かっていた魔術師ハリアーは、やれやれと首を振って肩を竦め、他の者たちは気まずそうな表情を浮かべる。
 メルシアは一人おろおろしながら、ミレーネに役立てなかったことを謝ったが、ミレーネにしてみれば、さきほどの術がメルシアのものだと証明されたようなもので、居たたまれない思いをした。

 だいたい頼んでもいないのに、どうしてメルシアは勝手にミレーネのターンで術を使ったのだろう。
 見るに見かねたからだとしても、くしゃみぐらいで芯のそばまで近づけた炎を点火しそこねるだろうか?
 こんな風にすまなそうに何度も謝られたら、事前に頼んであったように思われないだろうか?
 メルシアに猜疑心を抱くなんて、私は心が歪んでしまったのかもしれない。
 ミレーネの考え込む様子に、メルシアは何かを感じたようだ。すぐに行動に移した。

「ハリアー先生。ミレーネから今日は体調が悪いって聞いていたので、応援するつもりが、力が入って火を出現させてしまいました。ミレーネの邪魔をするつもりはなかったのです。ごめんなさい」

「いやいや、人を思いやる気持ちは、白魔術には欠かせない資質です。メルシアさまは魔術量もかなり多いですから、王族でいらっしゃらなければ、私の弟子に迎えたいほどです」

「大魔術師のハリアー先生にそうおっしゃっていただけて、とても光栄です。でも、まだ私もコントロールが効かないようなので、今日のレッスンは終えてもよろしいでしょうか? 私のターンはまた次回にご指導をお願いします」

 メルシアがハリアーの了解をとると、ミレーネに休憩しましょうと手を差し伸べた。ミレーネは俯いたまま手を預ける。
 せっかくハリアーから弟子にしたいと言われたのに、メルシアが自分のレッスンを辞退したのは、メルニアに課された難易度の高い魔術を成功して、ミレーネに力の差を意識させないようにしてくれたのではないかと思い、恥ずかしくてメルシアの顔が見られなかった。

 部屋を出た直後、片隅にいた侍女たちが交わす声が廊下に響く。

「メルニアさま、ミレーネさまを助けようとなさったのね。なんてお優しい」

「ええ、十年前はとんでもない悪戯をされて、私たちも近衛兵もとばっちりを受けたけれど、あれは小さすぎてものの善悪の区別がつかなかったのね」

「今では立派なレディーに成長されて、ひょっとしたら、将来の女王の補佐として活躍なさるかも」

「お小さいころは、自分が未来の女王だと公言していらしたけれど、実現しても良いような気がするわ。もう19歳なのに嫁がされないのは、王族や諸侯の方々がメルシアさまの才覚を認められて、女王候補に残しておきたいからだという噂もあるわ」

 しっ! そんなこと口にしちゃだめよと何人もの声が重なった。
 メルシアが労わるように、ミレーネの背中に手を添える。早々に部屋を出たのは、正解だったかもしれないとミレーネは思った。
 きっと侍女たちがメルシアを褒めた後にミレーネに注ぐ視線には、それに比べてミレーネさまは……と落胆の色が滲んでいただろうから。

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