レド🐰が～乱歩🐾

　これは、海外赴任していたダンと、ダンの赴任先と日本を往復していたレドのお話。住んでいる場所をほっこりアニマル村、ㇾド🐰とダン🐇を耳長族の動物に喩えたエッセイが始まります。二人の楽しい生活や思いがけないできごとを覗いてみてくださいね。

１　ダン、登山に憧れる

　ダンは、最近一人キャンプに興味を持ったようで、ランプやテントなどを揃え始めました。そして山に関する雑誌を何冊も買って、今日もリビングでコースなどを調べています。
　レドはそれを尻目に、ダイニングテーブルで締め切りの迫った小説を書いていたのですが、ダンがやってきて雑誌の写真を見せました。

🐇「なぁ、このコースなら1時間歩くだけで済むから、俺でも行けると思うんだ。この写真の女の子だって登っているし、初心者コースとしていいんじゃないかな」

🐰「そうね。でも、まずはお散歩に行くときに、レドちゃんもう少し速度落としてよとか、ちょっと休憩していこうなんて言わないくらいに、普段からトレーニングが必要かも」

🐇「そうだな。じゃあ、ためになる映画でも見るか」

　なぜ、映画と思いつつ、レドは小説のラストにもう一山作ろうとして、どうするか必死で考えている最中に話しかけられたため、おしゃべりが終わってほっとしました。
　ダンはダイニングに向かい合うリビングをそそくさと横切り、隣にあるテレビの部屋に向かった模様。レドはすでに現実を離れて創作の中へ。
　そう、お互いに自分の世界にどっぷり浸るはずでした。

　ダンの選んだ映画は、「エベレスト神々の領域」というタイトルで、俳優の阿部寛扮する登山家が、前人未到のエベレスト南西壁冬期無酸素単独登頂に挑んだものでした。

　対してレドの小説は「翼を狩る者と運命の乙女」というファンタジー。北欧神話の神オーディンが突きつける難題に、銀髪と金髪の支配者と、ヒロインである翼の乙女とワルキューレの四人が立ち向かう山場中の天辺に差し掛かっていました。

　どうやって神の挑戦に打ち勝つか、ああでもない、こうでもないと書いては消して考えているときに、映画もラストにさしかかり、どうやらあちらのヒーローが遭難している様子。

　レドの小説では、金の支配者の神獣のライオンが、銀の支配者に襲い掛かかり、銀の支配者がライオンの前足をスパッと切るシーンになりました。
　するとタイミングを計ったように、阿部寛の怨念を込めたような声が聞えてくるではありませんか。

『脚がだめなら、這っていけ』

🐰「ん？　切ったのは前脚一本だから這わないし……」

　とにかく続きを書くんだ。頭が疲れてきたけれど、手さえうごかせば何とか文章が綴れると、憑りつかれたようにキーを連打します。手荒れの指が痛いけど、頑張れ、頑張れ！

すると、またもや阿部寛の必死の声がこだまします。
『脚が駄目なら、手を使え』

🐰「いや、元からパソコンに脚は使わないし……でも、手が痛いんだよね」

　映画はクライマックスの真っ最中！　だんだん音が大きくなってくるので、レドも考えている文章をかき消されまいと、ぶつぶつ口に出して確認します。

　今度は阿部寛が押し殺した声で、でも音量はめちゃくちゃ大きいままに呟きます。
『手がだめなら、口を使え』

　ぶつぶつ文章を読んでいた口を閉じたレド。心の中で突っ込みます。
🐰「君は私の行動を見ているの？　手は痛いけど、口じゃキーは打てないのよ」

　阿部寛が答えます。
「口がだめなら、目で見ろ」

🐰「うるさ～～い！　書けないじゃん！」

　結局登山家は、雪山にお隠れになりました。
　ダンが登山に憧れているのは、映画のチョイスでよ～く分かったけれど、目でみるより実践で脚を使った方がいいのにと、レドは思ったのでした。
　　

２　レド🐰、スマホに嫌われる

　レドとダンは仲良しこよしで、スマホも一緒に購入。
　レドは一通り設定を済ませた後、グーグルアシスタントの入力をしようとして、一生懸命スマホに呼びかけます。
　声の認証をすれば、レドの話しかけに応えて、素早く情報をくれるとか……
　ドキドキしながらちょっと気取って呼びかけます。

🐰「OK. Googleオーケー グーグル」
▮『……』
　
　あれっ？　声が小さかったのかな？　今度はカタカナ英語で話しかけてみました。
🐰「オーケー　グーグル」
▮『‥‥‥』

🐰「ねぇ、ダン。この子言うこと聞いてくれない」
　少し離れたところにいたダンは、そいつはボケてるなと笑いながらからかいました。
🐇「ボーケーブーブー」
▮『‥‥・はい。ご用件は何でしょう？』

🐰「えええええっ！？　何でぇ～？　目の前でしゃべっているレドには反応しないくせに、ひどくない？　よ～し、こうなったら私だって。ボーケーブーブー」
▮『‥‥‥』

　ダンは隣の部屋で大笑い。レドはそんなに笑わなくてもいいでしょと言いながら、あっかんベーをしました。

🐇「ひゃっはっはっ‥‥変な顔！」
▮『お待ちください。ただいまご期待に添えるよう変な顔を練習中です』

　きょとんとしたレドとダン。次の瞬間意味が分かって、二人ともギャハギャハ大笑い。スマホがダンから変な顔をするように命じられたと誤解したらしく、表情の無いスマホには無理なオーダーのため、苦肉の策として練習中と答えた。
🐰「本当に変な顔したらどうするの？怖いよ～ｗｗ」
🐇「レドは笑い上戸だから、一日中スマホに笑わされるかも」
🐰「想像するだけで苦しいよ～～」

　今日もほっこりアニマル村は、笑いに包まれて一日が過ぎていったのでした。

３　童話の国から

　ダンは今、ドイツに出張中。
　レドはせっせと庭の手入れを済ませると、お家の中のお掃除に取り掛かり、床磨きまでしてくたくたになりました。
　
　夕方に郵便物が届いたので中を開けてみると、化粧品のお試しキッド無料進呈中と書かれた手紙と、パックが入っているではありませんか。
　久々にパックしてみるのもいいかもしれないと思い立ち、その夜はきれいに洗顔した後、化粧水の染みたパックを顔に貼り付けました。

　目鼻をくりぬいた白いマスクを着用すると、まるでバカ殿のよう。
　とぼけたような顔に笑いそうになったけれど、筋肉が動くとパックが剥がれてしまうので我慢、我慢。

▮♬♪♬～～～～あっ、スマホが鳴っている。
　表示されたのはダンの名前だったので、途中でパックをはがすのももったいなくて、レドはそのまま電話に出ました。

　ガヤガヤガヤ🍻🍺ガヤガヤガヤ🍻🍺
　いきなり画面一杯に民族衣装を着た男女が映り、みんながビールを片手にはしゃいでいます。

🐰「うわ～っ。みんな何しているの？」
🐇「ドイツは今オクトーバーフェストといって、ビール祭りの時期なんだ。緑地公園にビールを出すお店が沢山出るから、みんなが繰り出して楽しむんだよ」

　初めて見る風景に興味津々のレド。ダンは会場がよく見えるように、スマホを上に掲げて周囲を映してくれました。
　ダンの説明の声が大きいからか、通り行く人ばかりでなく、少し離れた人まで振り返ります。
　上から撮っているのに視線が割と近いのは、ドイツ人の背が高いから。男性の平均身長は、180㎝を超えているのではないかとレドは思いました。
　それにしても、すごい人の群れ。一人で参加している日本人が珍しいのかみんながダンを見ていきます。

🐇「あっ、赤ずきんちゃんだ！」
🐰「どれどれ？」

　ドアップで映ったのは、真っ赤な毛糸のショールをかぶったおばあさん。
　ダンの横を通りぬけようとしたみたいで、スマホのカメラを向けられ、迷惑そうに見上げます。

🐰「(￣ｍ￣〃)ぷぷっ!　何が赤ずきんちゃんよ」

　レドの声が聞えたのか、赤ずきんちゃんがピタリと足を止めました。
　じ～っと画面を見つめる赤ずきんちゃん。まるでレドと睨めっこをしているみたい。
　そこで、ハッと気が付きました。
🐰「ダン！　この電話は内カメラ？　それとも外カメラ？」
🐇「あっ、いけない。レドちゃんの顔をみんなに見せちゃった」
　ようやくスマホの画面を自分の方へとひっくり返したダン。
🐇「(; ･`д･´)うわっ！　ジェイソンのホッケーマスク！」
🐰「帰ってくるな～～～～😡」

　いつもは穏やかなほっこりアニマル村に、その日は雷が落ちたとか……
　おしまい
　

４　沈黙

　ほっこりアニマル村の耳長族のレドは、最近叫ぶことが多いような気がする。だからダンを優しく見守ることにして、叫ばないように心掛けようと思った。
　そんな折、ダンがフランスで仕事をした時に、知り合ったレオンがほっこりアニマル村にやってきた。

🦁「やぁ、ダン。久し振り。また会えてうれしいよ」
🐇「やぁ、レオン。元気そうで何よりだ。妻を紹介するよ。レドだ」
🐰「初めまして。レドです。お会いできてうれしいです」
🦁「こちらこそ、いつもレドさんのことはダンから聞いて、楽しいご家庭だと思っていたので、お会いするのを楽しみにしていました」

　レドはダンを横眼で見ながら、一体どんな話をしたのだろうと、少し不安になっていた。
（だって、普通は素敵なご家庭とか言わない？　なのに楽しいご家族ってどういうこと？）
　心の中で呟きながら、ダンが話したであろう、あれやこれやの失敗談を思い浮かべる。
　でもレドは、今日は何も言わないと決めたのだから、口をグッとつぐんだ。

🐇「レオン、どこか行きたいところはあるかい？」
🦁「そうだな、日本は最先端技術と歴史を上手く調和させている国だから、そういうのが見たいな」
🐇「分かった。じゃあ、さっそく行こう」

　ダンとレオンが会わなかった日々を埋めるように、お互いの国の状況を話し始めました。
　その後ろから、レド🐰はピョン🐾ピョン🐾ついていきます。
（一体どんなところに連れていくのかな？　ちょっと楽しみ）
　今日はダンが頼もしく見えるとニコニコしていたら、ダンが着いたよと告げた。

🐰「か、回転寿司！？」
🐇「うん。お寿司は歴史があるし、皿を滑らかに運んで回る技術とアイディアは外国人には受けると思う」
🐰「……」
　今日は何にも言わない日。抑えて、抑えて‥‥‥

　さっそく中に入ります。心配したのは杞憂だったようで、レオン🦁は「オオッ！　寿司が回っている」と大喜び。
　いそいそと席について、レオンが回っている皿を指さして訊きます。
🦁「これは何かな？」
🐇「フィッシュ！」
🐰「……」
🦁「じゃあ、こっちは何？」
🐇「フィッシュ！」
🐰「……」
🦁「えっと……あれは……」
🐇「フィッシュ！　あれもこれも、みんなフィッシュ！」
🐰「……」
　レドは、今日はな～んにも言わない。
　

５　イルミネーション

　今日はダンが仕事でアメリカに出張しています。
　いつもは到着すると電話が来るのに、今回は何時間経っても知らせがきません。
　レドは心配になりました。
　ようやくダンから電話がかかり、レドは飛びつきました。
　
🐇『アメリカ着いた』

　ああ、無事に着いて良かったとレドは一安心。
🐰「結構時間かかったね」

🐇『乗り換えるはずだった飛行機に故障個所が見つかったんだ。でも、代替えが無くて六時間も待たされた』

🐰「それは大変だったのね。お疲れ様」

🐇「うん。こっちに着いてから、色々街並みを見て回ったけれど、季節柄イルミネーションで飾られているほかは、以前と変わっていないかな」

　イルミネーションに彩られた街はさぞや綺麗だろうと想像したレド。
　ワクワクしながら、ダンに頼みます。
🐰「写真を撮って見せて」

　数分の時間が過ぎ、ピヨヨ～ンと写真が届いた着信音がしました。
　
🐰「うわ～っ。楽しみ！イルミネーション(∩´∀｀)∩イルミネーション！」

　気分もアップしたまま、スマホを開くと
　！！！！！？？？？？　ド、アップ！？
　

🐰「誰が自分の顔送れっていったのよ！　イルミネーションみえないじゃん！しかも逆光だし。邪魔、邪魔～～～～～っ！」

　今日もほっこりアニマル村に響き渡るのは、レド🐰の絶叫
　でも、残念なことに、アメリカにいるダンには届かないのでした。

６　侵入者

　頭上を英語が銃弾のように飛び交う。
　口角泡を飛ばしているのは、ヨーロッパやアメリカの国の人間だ。

　見られてはいけない。
　レド🐰はほふく前進で、ソロリソロリと進んだ。

　もう少し、あと少しのところで、いきなりダン🐇が振り向いた。
　目を見張ったダンは、すぐに前方に顔をもどす。
　戻すが、も、戻したが、肩が小刻みに震えて、うつむいてしまった。

　数ヶ国と繋がっているパソコン画面から、「ダンどうしました？」と声がかかる。
　会議が中断した模様だ。

　レドはダンの足元まで這うと、腕を上方に伸ばし、持ってきたお茶をデスクに置いた。
　カメラの目を掻い潜り、再びふく前進でドアへと向かう。見られてはいけない。

　そっとドアを閉める。
　会議の頓挫が気になるが、
　レドの任務は完了したのだった。

７　今さら言えない

🐇「最近、空気が乾燥しているせいか、肌がかさついてきた。レドちゃん、要らない化粧品ない？」
　ダンが、洗面所の鏡をのぞきながら聞いた。
　レドは手が放せなかったので、確認をすることなく、洗面台の二段目の引き出しを開けてみてと伝える。
🐰「かごの中に、試供品が入っているから、どれ使ってもいいわよ」
　ダンは、ごそごそとカゴの中をあさり、プラスチックの小さなチューブを取り出した。
🐇「この大きさのがちょうどいいや。もらってくね」

　それから二か月経ち、寝る前の歯磨きを終えたダンが、ドライヤーで髪を乾かしているレドに話しかけた。
🐇「リモートワークのせいか、色が白くなったような気がするよ」
　ダンがチューブの蓋をひねり、少量のクリームを掌に出して、そのまま顔につけるのを見たレドも、確かに白くなったと頷いた。
　蓋を閉めたチューブを、ダンが自分専用の棚に戻す。蓋を下にして立てかけられた容器がちょうどレドの目の高さになり、文字が目に飛び込んできた。

「ほ・ホワイトニングクリーム！？(；ﾟДﾟ)」

　衝撃の一瞬だった！

The End

　エッセイは終わっても、ほっこりアニマル村は今も健在。きっといつかみなさまも、陽気なこの村を訪れることがあるかもしれません。