二人のプリンセス 愛と憎しみの魔法 第三話 メルシア(2-4)

「メルシア、よくお聞きなさい。たとえ王と王妃にお世継ぎのミレーネさまがいらしたとしても、まだ他に子供はいないのだから、あなたは上位継承権をもっているに変わりはありません。もし、ミレーネさまに何かあったら……」

「やっぱり、あの侍女たちの言ったことは本当だったのね。クイーンになるのはミレーネで、私はお父様と同じでスペアってこと?」

「そこまでだ!」

 男の低い怒り声が瀟洒な部屋にこだました。
 軍服を着た王弟のヘンリーが、ずかずかと部屋に入ってきて、ミレーネの前に立った。
 急いで来たのか金髪は乱れ、いつもは澄んだ湖面のように青い瞳が翳りを帯びたように見える。
 戸惑うメルシアに、ヘンリーが語気を荒くして訊いた。

「お前はクイーンになることに拘るが、人の上に立つものの責任や振る舞いがどうあるべきか分かっているのか? 巨大化した蜘蛛の巣で侍女たちを捕らえ、巨大な蜘蛛に近衛兵をも襲わせ、あまつさえミレーネ殿下まで怖がらせたというではないか。そんな子供じみた脅しの魔法を使うことが、女王の態度に相応しいと思うのか」

 メルシアの背後で、女性たちの引きつった声が上がったが、メルシアは構う余裕を失っていた。
 いつもメルシアに甘い父が、あの場の状況も聞かずに、メルシアを一方的に攻めたのだ。メルシアは頭が沸騰しそうだった。

「だって、お父さま。侍女たちが私の悪口を言ったのよ。お父さまとお母さまだって、私が次のクイーンだっておっしゃったじゃない。ずっと偉くなれるように、魔術の勉強もしているし、私はまだ七歳だけれど人から侮られないように、対応しているわ。それなのに、後から生まれたミレーネが私より偉くなるってどういうこと? ずるいわよ!」

「お前は勘違いをしている。先に生まれた王族の子供が次の君主になるわけではない。国王制度がある近隣諸国では、国王の実子が跡を継ぐのが決まりなのだ。それに、人に侮られないようにするために、人を罰したり脅したりするのは間違っている。中身がない空威張りととらえられ、余計に軽蔑されるだけだ。ミレーネさまはまだわずか三歳ながら、慈愛に満ちた優しい方だという噂を聞いた。お前も少しは……」

「お父さままでミレーネの肩を持つの? お父さまなんて大嫌い! 意地悪な侍女も、ミレーネも死んじゃえばいいんだわ!」


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