ゲームについて話したい⑩:限界OL海へ行く

ゲームについて話したい。

日々の仕事から逃げる表現に「職場とは逆方向の電車に乗って、海を見に行く」というものがある。
いつから、誰が言い出したものなのだろう。
職場が海の方角にあるからやる機会もないが、なんとなく憧れる。
今回はそんな気持ちが主人公とリンクする作品。

限界OL海へ行く」は、ある日昼休みに外に出たOLの主人公が「限界になり、仕事を放りだして海に行く」という、シンプルな説明が出来る導入から始まる。というかタイトルが全てを表している。
ふらふらと街を歩きながら個性的なキャラたちと出会い、その中で主人公は「自分の場所」を見つけようとする物語。
分岐などはなく1時間くらいで読める短編のノベルゲームとなっている。

しょっぱなからオフィス街にある新交通の始発駅からスタートするなど、東京湾近くが舞台になっており、「なんかこの辺歩いたことあるな…」という気持ちになるシーンがところどころある。
「東京は歩いていればどこかの駅に辿り着く」と思ってる節があり、普段から数駅分歩いてしまうので、心の中でブツクサ言いながら散歩する主人公には親近感が湧く。主人公と違い素敵な出会いはないので、ずっと一人で歩くことになるのだが。
「仕事から逃げる」といってもそこまで悲壮感はなく、ただシームレスに仕事をサボっただけなので、翌日は普通に仕事に出るんだろうな。
多分怒られると思うけど。

大きな事件もなく、物語は淡々と進んでいく。
最後に主人公が「そのうち今日のことは思い出すと思う」と軽い感じで締めるが、まさにそんな感じの読後感がある。
ファンタジー要素の強いノベルゲーをプレイした時に、この作品の「自分が過ごす日常」に対する妙な解像度の高さを思い出して、心の中で交互浴をしたくなる

以前noteにも書いた「ROAD to AVALON」の終演後、夜の豊洲を一人で歩いている時にも、ふとこの作品のことが頭をよぎった。
その時は「自分の場所」を探していたわけではないが、観劇後の色々な感情を整理させてくれた穏やかな時間であった。
ドラマチック、とまでは言えないが、たまに思い出す…心に「小さな引っかき傷」を作ってくれた作品である。



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