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kazのこんなカメラ㉖ ZENIT-E

 私は旧ソ連のカメラが好きで色々と集めているが、その中で一番数を持っているシリーズのものは一眼レフカメラの「ZENIT」というものである。


Zorki-1

 元々ソ連の35mm判カメラは戦時中にライカのデッドコピーを造り始めた事から始まっている。フェリックス・ジェルジンスキー記念工場というところで作られていたFEDがその鏑矢だ。
 その後、モスクワのクラスノゴルスク機械工場でFEDのノウハウを流用した「Zorki」というカメラが生産される。この辺りのカメラは精度はともかく中の構造はライカをコピーしており外見も酷似している。

 

Zenit-S

 さて、このZorkiをベースにレンジファインダー機構を取り外し、プリズムとミラーボックスを取り付けて作られたのが一眼レフカメラの「ZENIT」シリーズの発端である。1952年に生産がスタートし、なんと2003年頃までシリーズが続いていた
 一部モデルに関しては「世界で最も売れた一眼レフカメラ」とも言われるPENTAX SPと同じくらいの数が生産されている。……但し、生産数であって販売数ではないこと、ロシアの公式発表であるということである二点には留意がいる。


 今回取り扱うのはそのシリーズ最大の生産数を誇る「ZENIT-E」に関する紹介である。



君ならどちらのマウントと一緒に行くか


 先述の通り、この機種はめちゃくちゃ売れた。性能的には戦時中Zorkiのまま、シャッタースピードは最速1/500のスローなしのカメラであるが西側諸国にも名前を変えて出荷されていた。メプロゼニットとか。
 よくカメラ店のSNSで「ロシアレンズ大量入荷しました!」という宣伝投稿で紹介されているのはこのカメラ用のHelios44-2である率がめちゃくちゃ高い。そうではないレンズがあったらチェックしたいのでこっそり教えて欲しい。

 ボディの話に入る前に一度話が逸れるが、この「Helios44-2」や同じロシアレンズの「Industar50-2」なんてレンズの名前の「-2」とはなんなのか考えたことがあるだろうか。実は割と簡単な答えで、「Helios44-1」や「Industar50-1」に相当するレンズがあったからである。


 これが1962年製のZenit-3Mというカメラで、Zenit-3、3M、Kristallという世代のゼニットはZorki-6と一部のフレームを共有している。このカメラに付けているのが「Индустар-50」すなわち50-2の前のモデルである。
 先述したとおり、初期のゼニットはライカコピーのZorkiから派生したカメラであり、実はよく出回っているM42スクリューマウントを採用していない。
 その一つ前の世代で、マウント径はバルナックライカ同様39mmのねじ込みマウント、フランジバックはミラーボックスの分長くなっている「M39スクリューマウント」を採用しているのだ。

 時折、カメラ店の広告などに「ライカL39マウント用のヘリオスが入荷しました!」などと誤って書かれることがあるが、あれは間違いであり(※)M39ゼニットマウントはフランジバックが異なるため物理的にはL39スクリューに取り付けることが出来るが無限遠が出る訳がない。距離計連動コロにも良くないので見かけたら手の届く範囲で訂正するようにはしている。
(※ 相手がソ連なので後から調べて未知の変なものが出てきてもおかしくはない)

ゼニットの謎


 さて前置きが長くなったが、今回紹介するZENIT-Eについて紹介してみたい。

 このカメラはZENITシリーズとしては
初代とSが所属する第一世代(初代Zorkiベース)
3系が所属する第二世代(Zorki-6と一部パーツ共用)
に続く世代としてリリースされ(※)1965年ごろから生産がされ始めた。
先述とおりアホのように生産され、その後90年代中頃まで30年近く設計がそのままで生産され続けた「一番よく見るゼニット」の基本的な形はここで確立することとなった。
(※ この間に併売されていた独自マウントレンズシャッター機の4、5、6もあるがここではM39→M42の流れについて説明するため省略することにする)

 それまでの世代が抱えていた問題、
「ファインダー視野率の低さ(60%くらい?)」
「クイックリターンミラーの採用」の解決に加えてセレン式外光露出計も搭載されている。
 そしてこのモデル前後での大きな変化は、それまでのバルナックライカ由来のM39スクリューマウントからM42スクリューマウントにマウントが変更されている。
 ZENIT-E及び露出計を省いたZENIT-Bの多くのモデルはM42マウントを採用しており、これがめちゃくちゃ作られたから市場にHelios44のM42マウント仕様「44-2」が出回りやすくなっているのだ。

 と、ここまで書いておいて何だが、今回取り上げているZENIT-EはM42スクリューマウントではない。
 丁度マウントの切り替え時期に当たるこれらのモデルの初期には、M39スクリューとM42スクリューの仕様が併売されており、工場機材置き換えとともにおよそ2~3年ほどでM42スクリューマウントに統一された。その統一される前の、「初代ZENIT用M39スクリューマウントのZENIT-E」なのだ。


 私はM42化する前の初代M39ゼニットマウントが好きなので、Ebayで漁って一生懸命探した。M39とM42のものは外見的には全く違いがない。ではどうやって探すのかというと
「ZENIT-Eで引っかかる商品見本写真を毎日全てチェックしてその中からM39のレンズが付いているボディを落札する」という地道な作業だ。
 Ebayに関しては以前書いたことがあるが、届いたものが普通にジャンクであることもあるし、一度「M39マウント用レンズにM39→M42変換リングが付いてM42用ZENIT-Bボディに付けられていた」というわかるわけねえだろそんなの、というトラップに引っかかったこともあった。
 製造年数である程度のアタリは付くが、それも絶対ではないため、きちんと動くM39ゼニットスクリューマウントのZENIT-E/Bを手に入れるのは一種のソビエトガチャ・ZENITピックアップのSSRに相当するようなものなのである。


合体大作戦


 こういった地道な活動の結果、ZENIT-EとZENIT-BのM39マウント仕様を手に入れることに成功した。Bの方は先述のトラップに一度引っかかったものの、3回目のガチャでほぼそのまま使えるM39ボディが手に入ったのでさしたる障害はなかった。



 苦戦したのはZENIT-Eの方である。無事M39マウント仕様のボディが届いたものの、Ebayクオリティで最高速のシャッターが降りない。更に振るとカシャカシャ変な音がする。
 「まあZENIT-Bがあるから実用はこっちでいいか」と長らく放置していたのだが、友人にフィルムカメラの余品を渡してフィルム沼に沈めようと機材を漁っている最中に発掘し、試しに分解してみるか、とバラしてみることにした。

 シャッターの底板バネを押さえているナットがガタガタ、ミラー下のネジがねじ切れて部品が外れカシャカシャ、幕が劣化して巻き上げが重たいと。いや日本じゃジャンク500円でも売れねえんじゃないかな、という状態だがこれ7000円くらいしたのよね……
 そしてふと思い至る。

「ガチャで失敗したM42ボディのジャンクから部品集めたら直せねえかなこれ」

 幸い、壊れていた部品は比較的弄りやすい箇所の部品であったので2台分のジャンクの部品をM39ボディに移植・換装することで、正常に動作するZENIT-Eを組み上げる事が出来たのだ。


 ストラップと金具は新調した。吊り金具がなく、三脚穴が端っこにある底吊り型となるのでぶら下げている時はペンタ部が下を向くことになる。

 さて、わざわざ手を入れて動くようにしたZENIT-Eの実力とは。


リターン・オブ・ゼニット


 フィルムさんぽ企画などでサブ機としてこのゼニットを持ち込んで使用してみた。その結果が上がってきたので掲載してみよう。


Helios44




Helios44


Mir-1


Mir-1


 この辺からはISO設定を間違えているため(Proimage100を入れていたが、GOLD200と勘違いしていた)若干暗め。


Mir-1


Mir-1


Mir-1


 どうだろう。ちゃんと写っていて私は普段よりもずっと嬉しくなった。

 と、いうのもこれらの写真は全てZENIT-Eの本体露出計を使って露出を合わせているからだ。わざわざ直してまで使ったのも露出計が正確な状態であることはわかっていたからなのである。

 比較的ソ連のカメラはセレン露出計が元気な個体が多い気がする。KIEV-10とかいうびっくりどっきりカメラも持っているが、これは巻き上げが怪しい代わりにAEが今でも正確な露出で使用できる。KIEV IIIも内蔵露出計がしっかり作動しており、ロシアカメラのフォーラムの投稿を読み込むと、
「オリジナルのContax IIIは露出系周りに不具合があり、それをロシアで手直ししてKIEVに使用している」という記述がある程である。

 総じて、ZENIT-Eは当時のソビエト一眼レフとしては非常に良く纏まったカメラで、自動絞りを追加したEMやマイナーチェンジの122など色々な後継機種が生まれるのも頷ける。
 ただまあ21世紀までこのスペックのまま作り続ける辺りは凄いと思うけど。


ザ☆ゼニットマスターズ


 そんな訳で今日紹介したのは以下の通り。

  • ゼニットというソ連の一眼レフがある

  • 元々バルナックライカコピーから始まっている

  • その前半はM39ゼニットマウントである

  • 過渡期に当たるZENIT-E/Bは一部M39仕様のものがある

  • 頑張って直したらちゃんと写った

 私はZENITシリーズのカメラが好きで、特にこのM39ゼニットマウントのレンズやカメラが特に好きなのである。当たりを引くまでに結構ソビエトガチャをしたりしたものだ。



 はっきり言っておくぞ!瞬間的に出せるZENITはまだまだこんなもんじゃねぇ
(この3倍くらいはある)


 
フィルムが絶滅する前にZENIT-11がほしいなあ。





 kaz













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