見出し画像

保険診療でもクレジットカードなどキャッシュレス可にするかどうか問題、「◯◯◯円以上のみ」にするかどうか問題

最近は保険診療・自由診療ともすべてクレジットカード・電子マネー・QRコード決済すべて可にする医院も増えてきましたが、まだまだ「自由診療のみ」だったり「自由診療で◯◯◯円以上のみ」と設定する医院さんも多いですよね。

今回はクレジットカード・電子マネーなど手数料のかかるキャッシュレス決済を可能にすべきかどうか問題について自分の見解を述べます。


「◯◯◯円以上のみ」にするかどうか問題

飲食店等でもたまにこういうお店ありますよね。

「◯◯◯円以上のお会計の場合のみクレジットカードをお使い頂けます」


そもそも加盟店規約違反なのでダメなのですが、経済的にも誤りなのでそれについて解説します。


お客さん、患者さんの目線に立って考えてみましょう。

患者さんが受け取る価値 = サービス単体の価値 + カード決済できる価値

ですよね。

この「患者さんが受け取る価値」に対して、患者さんはお金を払っているわけです。


次に「カード決済できる価値」について考えてみます。

この価値を提供するため、医院はクレジットカードの店舗手数料を払う必要があります。
例えば決済金額の3%とかですよね。

1,000円の決済であれば30円くらい、100万円の決済であれば3万円くらいの手数料を支払う必要があるわけです。


さて質問です。

1,000円の決済と100万円の決済は、医院にとって100倍コストが違いますが、患者さんにとっての「カード決済できる価値」は100倍違うでしょうか?

患者さんは100倍も嬉しい気持ちになると思いますか?


‥‥。


きっとそこまでは嬉しい気持ちにならないですよね?

クレジットカードのポイントは100倍たまるでしょう。でも本人が嬉しいと思う気持ち。どれだけ価値を感じたか、という意味で考えると、せいぜい数倍が関の山ではないでしょうか。


ということは、金額が高ければ高くなるほど、クレジットカードの店舗手数料は割高になるんです。

だって、100倍も手数料を払うのに、患者さんは数倍しか価値を感じてくれないんですよ。

だから、むしろ安い金額の決済のときの方が医院にとっては得なわけです。


つまり、

「◯◯◯円以上のお会計の場合のみクレジットカードをお使い頂けます」

って表示するなんて言語道断。

むしろ一番お得な部分を自ら放棄してしまっているんです。


繰り返しますが、加盟店規約違反でもあるわけですから、このように「◯◯◯円以上のみ」という仕組みにするのはあらゆる意味で間違いと言えると思います。


保険診療をクレジットカード払いにしたときのコスト

さて、次は保険診療をクレジットカード・電子マネー等で支払い可にしたときのコストを考えてみましょう。


保険診療の売上割合は約80%です。 1)


この80%のうち、実際に窓口負担となるのは患者さんにより0割~3割の間で変動しますが、平均はざっくり2割と仮定してみます。

80% * 2割 = 16% ですね。


次に、キャッシュレス決済をする人の割合ですが、キャッシュレス可の店舗では現時点でおよそ4割程度でしょう。

80% * 2割 * 4割 = 6.4% ですね。


最後に店舗手数料が3%ちょっとというところ。

80% * 2割 * 4割 * 3% ≒ 0.2% となります。


0.2%ですよ?

売上のたった0.2%です。


保険診療をクレジットカード払い等可にしたときのメリット

次に、「売上の0.2%」というコストに対し、どれだけのメリットがあるのか考えてみます。


クレジットカード払い等キャッシュレス決済のメリットは、会計ミスの減少や会計の迅速化などのメリットもありますが、ここでは患者さん増加による利益の上昇について考えます。


まず「売上の0.2%」というコストは、どれだけ患者さんが増加すればバランスが取れるのか計算してみます。


今アポには余裕があり、人員やユニット等、固定費に関わる部分を増やすことなく患者さんが受け入れられるものと過程します。

歯科医院の粗利は約8割 1) なので、

0.2% / 8割 = 0.25%

の患者さん増加があればバランスが取れることが分かります。


また、固定費を増やす必要がある場合は粗利でなく営業利益もしくは経常利益で考える必要がありますが、この数字は約16% 1) ですから、

0.2% / 16% = 1.25%

の患者さん増加があればバランスが取れることが分かります。


さて、保険診療をクレジットカード払い等可にしたときどれだけ患者さんが増えるかです。

まずクレジットカード払い等を利用する患者さんは4割程度。
このうち、「クレジットカード払いが可能ならその医院を選ぶ」という患者さんはどれだけいるかはっきりわかりませんが、仮に1割程度としましょう。

いま世界に2つしか歯科医院がなく、クレジットカード払いの影響がない状態ではそれぞれの患者さんの数が

A医院:100人
B医院:100人

だと考えます。

ここでAだけをクレジットカード払いを可能にすると

A医院:110人
B医院:90人

となります。


「0.25%」や「1.25%」というコストに対して、「10%」というメリットを享受できるわけです。


実際には歯科医院は林立していて患者さんは選び放題ですし、保険診療までカード払い可にしている医院はまだ少ないです。
より実態に近づけて、例えば5つの医院がお互いに競争していて、1つの医院だけカード払いを可能にした場合を考えてみると、

A医院:140人
B医院:90人
C医院:90人
D医院:90人
E医院:90人

と圧勝できることがわかります。


周りの医院がクレジットカード払いを可にしていないと、ついつい「他が導入するまでは様子見でいいや」と考えてしまいがちですが、実は反対で、周りが導入していないからこそ導入した方が得なんですね。


まとめ

・「自由診療で◯◯◯円以上のみ」にすると加盟店規約違反な上に損なので完全に誤り

・保険診療をクレジットカード払いにしてもコストは売上のたった0.2%

・保険診療をクレジットカード払いにすると、10%以上の患者さん増加・売上増加と、コストを大きく上回る利益が見込まれるので、導入した方が正解

・周りの医院が未導入なほどより多くの利益が得られる。様子見してはいけない。


今回は以上です。


1) 『第22回医療経済実態調査(令和元年実施)』厚生労働省保険局

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?