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ゆき歯科医院の歯科衛生士症例発表会の考え方とやり方について

今回は当院の歯科衛生士症例発表会について、考え方とやり方のご説明です。

過去のnoteでも形式的な部分についてはお話してきたのですが、説明不足な部分があったので、今回は根本的な考え方からしっかりご説明する形で書き直しました。


当院の症例発表会で特徴的な3つのポイントを取り上げて、お話していきます。


1. 学ぶための症例を選択する

一般的な症例発表:
 特にうまくいった症例を選ぶ

当院の症例発表:
 学びとなる症例を選ぶ
 例:反省点のある症例、うまくいかなかった点を相談したい症例、新たな試みをした症例、特殊なケースで皆に共有したい症例など


外部の勉強会で症例発表する。症例を雑誌に投稿する。
こういったケースでは、自分が特にうまくやれた、大きな成果が出た症例を選び、自らの能力を見せつける場合がほとんどではないでしょうか。

当院ではそういった症例ではなく、学びとなる症例を取り上げるよう衛生士さんに指示しています。


なぜなら目的は衛生士さんの教育だからです。


外部の勉強会等の場合、学びを最大化しようとすると、発言したり発表したりする必要があり、そのためにはどうしても実力を見せつけておく必要があります。

また、発表者ではなく観客が多いと、うまくいった症例を見せることで「ここまでできるんだ」「こうやったらできるんだ」と観客の学びにつなげることが大事になってきます。


しかし当院での症例発表の場合は、衛生士は4人と決して多くないので発表者自身が成長することが非常に大切になりますし、はっきりいってお互いの実力は分かっているので、いまさら実力を見せつける必要もありません。(皆日々成長していくので、追いきれていない部分はあると思いますが)

なので、症例をあらためて見つめることで自分の学びとし他人の学びにつなげることを優先して、このような症例の選び方を指示しているというわけです。


誤解を恐れずにいえば、一般的には「うまくいった症例」を選ぶのに対し、当院では「うまくいかなかった症例」を選ぶと理解してもらえると、分かりやすいかもしれません。


2. 患者さんの全体像、診療全体を発表する

一般的な症例発表:
 P治療に限定した内容を発表する

当院の症例発表:
 診療に関わる全てを発表する。P治療のみならず、患者さんの詳しい属性、全体の診療方針、コミュニケーションの内容、カリエスリスクの把握と改善状況など。


衛生士さんが症例を発表する場合、P治療についてだけ発表するのがほとんどではないでしょうか。

衛生士の本来業務は歯周基本治療だと考える歯科医療従事者が多いからです。


しかし当院では、衛生士さんの仕事というのは歯科医師とともに患者さんを健康にしその健康を守ること全般だと考えています。
P治療というのは仕事の一部に過ぎないというわけです。

患者さんがどんな人かしっかり把握し、適切で十分な検査を行い、歯科医師とよく連携して全体の診療方針/治療計画を立てその内容を理解し、患者さんと信頼関係を構築し、患者さんの意識を改革し行動を変容させ、質の高いP治療を行うのみならず、カリエスリスクも把握し改善し、未来のリスク悪化をも防ぐ。
これが当院で求められる衛生士さんの仕事です。

P治療だけの症例発表では、こういった仕事全体を見つめ直し改善することができません。


もちろん、「今回はP治療のこんなところが反省点だった」とか「患者さんがカリエスリスクを改善するためにこんなことを試してみた」とか、自分なりのポイントを意識して症例発表するのは大切ですし、必要なことです。

ただ、症例発表そのものとしては、診療全体をきちんと発表することが求められる。つまり診療全体を自身でしっかり意識し、ドクターや同僚DHからも指摘され質問され共に議論することになる。
P治療しか見えていないようでは落第の烙印を押される。

当院ではそういう意識で働かなければならないし、症例発表もそういう構成になっている、ということです。


3. 発表資料を作り込まない

一般的な症例発表:
 パワーポイントなどで発表資料を作り込む

当院の症例発表:
 原則として発表資料は作らず、カルテのみで発表する。
 発表には指定された項目を必ず含める。
 発表の事前準備としては、症例の選択、必要な資料(P検/口写/デンタル/CRASPなどの資料)の有無確認、話す内容の整理のみにとどめる。


具体的には下記の内容を必ず発表することになっています。

【症例発表会 発表内容】
年齢
性別
主訴
既往歴、現病歴
(過去現在の内科的疾患、服用薬、HbA1cなど)
服用薬
喫煙状況

口腔内写真(コメント)
デンタル or パントモ(コメント)
P検査①(コメント、診断)
TBI(モチベーション、セルフケア用品の種類、TBIの回数と方法)
カリエスリスク(CRASP結果、治療歴、その他聞き取り事項、問題点と改善方法)
C治療の計画と進捗の概要

SRP
(戦略、使用した器具と方法)
P検査②(コメント、診断)
セルフケア維持について

再SRP
P検査③(コメント、診断)
セルフケア維持について

(以降、行ったP処置があればコメント)

メンテナンス前の口腔内写真(コメント)

メンテナンスの状況

症例についての自己評価

反省点と今後の課題


このようなやり方にするのは2つ理由があります。

1つは時間の節約。

もう1つは発表の質の向上です。


まず時間の節約についてはご説明するまでもないですよね。

資料を作り込むとなるとどうしても時間がかかります。

まして当院の場合はP治療に限定せず診療全体という極めて広範な情報を語る必要があるのでなおさらです。


発表資料を作りこむことで資料作成の練習をしておくと、いざ資料を作る機会(外部の勉強会での症例発表など)があったときにキレイな資料を作りやすくなります。つまり、発表資料を作り込むことに、意味がないわけではないということです。

ですが、当院の症例発表会で十分な情報を網羅した発表資料を作ろうとしたら数時間はかかるでしょう。

その数時間を「キレイな資料を作るためのスキル」を高めるために使うか、「実際に患者さんの健康を守るためのスキル」を高めるために使うか。
どちらを優先したいかと考えると、圧倒的に後者だというのが我々の考えです。


ただそうなると、いざ外部の勉強会等で症例発表するときに心配ですよね。
でも心配いりません。

確かに「キレイな資料を作るためのスキル」には不安があるでしょう。
写真を良い場所に良い感じに貼り付けたり、文字をキレイに配列したりする能力は鍛えられないからです。

でも症例発表で圧倒的に大事なのは、そういうキレイさを見せることではなく、実際にどんな内容を見せ、どれだけのことを語るかです。

上でお見せした発表項目をきちんと網羅し、患者さんの健康全体に語れる衛生士というのは、日本中でも数えられるくらいしかいません。
ということは、これが当たり前のものとして身につけば、いざ外部で症例発表をしたときには、周りを圧倒できるくらいのプレゼンができるはずです。

なので全然心配いらないわけです。


話を戻しましょう。

次にポイントになるのが発表の質です。

発表資料を作るとなると、見せるべき資料の抜けが発生することが少なくありません。実際、以前は衛生士さんに発表資料を作ってもらっていたのですが、こうしたケースが散見されました。
資料を作るのにあまりに時間がかかるからです。

こうなると本末転倒です。

「あれ? ここのP検の結果は?」
「ここで口写撮り直してないの?」

「あ、すみません、やってるんですけど載せてなくて‥‥」

これでは症例発表会として十分な検討ができません。

最初から発表資料を作らず、カルテだけで発表する。指示されている発表項目と照らし合わせて、カルテの中にすべての資料がそろっていることを再確認する。
こうすることで、資料が完璧にそろった発表を行うことができます。



ちなみにですが、発表項目を見てもらうと

反省点と今後の課題

というものが含まれていますよね。


なので、もし「うまくいったことを自慢するだけの症例」を選択すると、うまく発表できずに苦しめられるようになっているんです。

この項目がちゃんと語れる症例を選ばないと
「で、どんなことが反省点だったの?」
「何を学んだの?」
「どうしてこの症例を選んだの?」
と詰められることになりますからね。

きちんと学びになる症例を選ばざるを得ないわけです。


その他補足

以下、症例発表会に関する簡単な補足です。

頻度:3ヶ月に1回。歯科衛生士全員が症例を発表する。

時間:1人10~15分程度の発表。5~10分程度の質疑応答&院長コメント。

症例の対象:すでにメンテ移行済み、もしくは次回にはメンテの患者さん。


まとめ

当院の症例発表会について特徴的な3つのポイントを説明しました。

1. 学ぶための症例を選択する
一般的にはうまくいった症例を発表しますが、当院の場合はどちらかというとうまくいかなかった症例、学びのある症例を選んでもらいます。その方が教育的に有効だと考えているからです。
発表の際には「反省点と今後の課題」を含めることが指示されているので、もし「うまくいったことを自慢するだけの症例」を選び反省点や学び/課題を語ることができないと、皆に詰められてしまいます。

2. 患者さんの全体像、診療全体を発表する
一般に衛生士さんの症例発表はP治療だけに限定した内容を発表する場合がほとんどです。しかし当院の場合は、P治療のみならず歯科医師との連携やカリエスリスクも含めた診療全体を発表してもらいます。
診療全体を通して患者さんの健康を守ることが、当院で求められる衛生士像だからです。

3. 発表資料を作り込まない
一般的にはパワーポイントなどでキレイな資料を作りますが、当院では原則カルテのみで発表してもらいます。
「キレイな資料を作る」という優先度の低いことに時間を使ってほしくないからです。また、あらためて発表資料を作ると、情報の抜けが発生することがあります。本末転倒です。


今回は以上です。


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↓症例発表会を始めた当初のやり方

↓その後の変更点


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